夜空の向日葵。
「た~まや~~!!」
続く“鍵屋“の意味は知らないのか一切声に出されることはなかった。
決して付かず離れずの距離を保つふたり。
ふたりとも浴衣を見事に着こなしてはいたが、それは母親によるものだろう。
双方、共に着付けには自信がある年齢の母親を持っていた。
男子は、キツく締められてはいたものの僅かに見える鎖骨や、褐色の肌と逞しい筋肉が盛り上がっている。
そもそも、浴衣とはゆったりと着こなす着衣だ。
それなのに気にならせる極意は計り知れない。
多分、というか絶対に彼の母親の思惑であろう。
時を待たずしてどんどん夜空高く舞う大輪の花。
花火が空気を読んだのか、ハートマークが次々に浮かび上がる。
これは誤算だったのか、少女は思わず頬を両手で隠せざるを得ない。
昂る鼓動は花火の爆音でさえ誤魔化しきれなかったのだろう。
チラリと見た彼の横顔は凛々しく。
ほんのりとしめついた艶やかな汗が尖った顎へと滴る。
胸のなかの導火線が弾けた。
それは熱かっただからとか、そういうものじゃあなかった。
タイミングを計らって立ち上がり、純粋に花火を楽しんでいた観客ですら息を呑む始末。
「大好きです! 付き合ってください!!」
その瞬間、夜空に桃色の花が咲いた。
たとえば真夏の恋物語。
花火がキーワードなのは間違いないと思う。