84.正義と悪
重々しい口を開いて、一度閉じる。そしてもう一度開く。
「どうして、緋和ちゃんとあまり関係が良くないの?」
「……俺、多分緋和が苦手なんです。喋らないし、頼らないし、全部自分でできると思ってるところとか。」
緋和ちゃんとは正反対だ。緋和ちゃんの正義は『自分でやること』、悪は『他人を頼ること』。一色くんの悪は『自分でやること』、正義は『他人を頼ること』。
「なるほどね。僕もそう思うよ。でも、多分だけど緋和ちゃんは自分の生活があった一色くんや忙しいお父さんには頼るに頼れなかったのかもしれない。お母さんも亡くなっているんだったらなおさら……ね。」
多分に多分を重ねるただの憶測しかできないけれど、緋和ちゃんにとって誰も頼れる人がいない状態、それこそが『当たり前』になってしまったのだろう。
「……。確かに母が亡くなってさらに父の仕事が忙しくなったのは、ちょうど緋和は自我が芽生えて話し出したときくらいでした。市禾を産んでそのまま帰らぬ人に……。父は今と同じようにあまり家におらず、緋和は幼いころこそよく病院にいました。でも、俺は十歳前後、市禾はまだ赤ちゃんで緋和のお見舞いには行けませんから……そこからだったのかもしれません俺らの溝が大きなものになったのは。」
「そっか……。僕は一人っ子で、兄弟がいる感覚ってわからないんだけど……少しの間だけど緋和ちゃんをそばで見たものとしては、仲良くしてほしいかな。まあこんな他人の僕が言ってもって感じだと思うけどさ。」
「……善処はします……。」
「ありがとう。じゃあ戻ろうか。ごめんね引っ張ってきて。」
多分、やり方がわからないだけで、助けてあげることを意識した一色くんなら何かしら緋和ちゃんにとって助かる存在になるはずだ。




