83.コーヒー
ぼうっと二人の背中を見ていると、病室に入る前に一色くんの足は歩みを止めた。
「どうかしたの? 入らないの?」
「……帰ります。」
「え、え、なんで?」
思ってもいなかった答えに戸惑う。
無言で立ち去ろうとする一色くんの手を思わず握る。いきなりのことで一色君の動きが止まる。というか固まったという表現の方が近いかもしれない。
「いや……別に……。」
「……もしこれから暇ならさ、ちょっと付き合ってくれない?」
またもや困惑の表情を浮かべる。今日は外来担当でないし少しくらいなら時間を作れる。
「……なんでですか。」
「えーーダメかな?」
「……まあ……いいですけど……。」
「え、先生行っちゃうの?」
「ごめんね、すぐ戻るから。」
二人には悪いが、この機を逃したら一色君ともう話せないかもしれない。
僕は一色くんを連れて(というか、ほぼ僕が無理やり引っ張って)一般病棟のカフェまで行った。昼時ではなかったので並ばずに入店することができた。
「なにがいいかな?」
「いいです、もったいないし……。」
「いいよ気にしないで、僕が無理やり連れてきたんだから僕が払うし。ココアでいいかな?」
「……コーヒーで」
なんというか、このちょっととげのある感じ……初めて会った時の緋和ちゃんと同じものを感じる。
コーヒーを二つとクッキーを一つ受け取って空いている窓側の席に着く。
「……僕のこと、覚えてるかな?」
「昔、緋和の担当医だった先生ですよね。名前は……。」
「春上、春上准です。」
「……すみません覚えていなくて。お世話になってます……。」
コーヒーといい返しといい随分と大人っぽい。もう少しあどけない感じだと思っていた。
「僕が緋和ちゃんを担当していたのは六年も前の話だからね当然だよ。……それでね今更そんな僕が聞くようなことじゃないけど……。」




