82.イケメン
今僕が一番に考えなければいけない患者は彩ちゃんであって緋和ちゃんではない。緋和ちゃんには緋和ちゃんで彼女を一番に考えてくれている医者がいる。ここは僕の出る幕じゃない。
「彩ちゃん?」
少しうつむいた様子の彩ちゃん。まさか彩ちゃんまで体調を崩したのだろうか。
「……さっき緋和ちゃんが『誰にでも優しさを誰にでも向けるから憧れる』って言ってたけど、この憧れるってつまり先生が好きってことでしょ? それなら、みんなに優しいより自分だけに優しい方が嬉しいものじゃないの?」
どうやら体調を崩したわけではないらしい。
「緋和って自分が他人に特別扱いされてることに慣れてないんだよ多分ね。だから、そんな風に多勢の一人で満足した気になってる。」
夏目ちゃんの分析はとてもその通りな気がした。
そういえばさっきも夏目ちゃんは緋和ちゃんのことを誰かにわかってほしそうに訴えていた。僕も「不器用」という言葉がここまで合う人間は緋和ちゃんくらいしか知らない。
「あれ、春上先生……。お久しぶりです。」
ふと名を呼ばれて振り返るとそこにいたのは緋和ちゃんのお父さんと一色くんだった。
「あ、緋和ちゃんのお父さんとお兄さん……。緋和ちゃんが倒れたって聞いていらしたのですか?」
「え、そうなんですか!?」
「申し訳ありません。先ほどのことだったのでまだ連絡がいっていないみたいですね。ついさっき熱と頭痛、腰痛を訴えて今はベッドで市能川先生の診察を受けています。どうぞ入ってください。」
一色君とはさすがに分かったけれど、身長はあの頃より大きくなっているし顔つきも大人っぽくなったように感じる。それはそうか。確か一色君は百萌ちゃんや七生ちゃんと同い年だったような気がする。そうなれば今はもう大学生だ。
お父さんに似て随分とイケメンに成長している。




