80.今後の課題
緋和ちゃんは自身の身体を支える僕の手を振りほどいて立ち上がった。
「……緋和ちゃん、この間ごはん残してた……」
彩ちゃんの思い出したような一言に、僕の背中はすこしぞっとした。
昔、倒れた時と同じ状況なわけだ。
「一回座って、熱はかって?」
素直にはかる緋和ちゃんは彩ちゃんとは確かに大きな違いを感じた。
病院の体温計は数秒ではかり終わる。緋和ちゃんの体温は
「三十七度九分……。」
緋和ちゃんの平熱は低かった記憶がある。すぐにピッチで市ノ川先生を呼んだ。
「緋和ちゃんベッドまで運ぶよ。」
緋和ちゃんにとったらかなりの高熱のはずなのに一見平気そうに見える。
あの頃から、僕が担当したころから、緋和ちゃんの体調は周りからみては分かりづらかった。だけど昔の比ではないくらい緋和ちゃんは自分の体調を隠すのが上手くなっていた。
正直、夏目ちゃんが顔の赤みを指摘しなかったら倒れるまで本当に何も気づかなかったかもしれない。
そのことに僕は医者として少し恐怖を覚えた。この先、緋和ちゃんはもしかしたらもっと隠すのが上手くなっているかもしれない。誰にも知られずにひそかに苦しむ日が来るかもしれない。
入院中であればまだこうして倒れたらその場で誰かが助けてくれる。だけど自宅で例えば一人でいるときに倒れたら。兄弟またはお父さんに発見されるまで時間がかかるのではないか? それに自らの体調が悪くても緋和ちゃんがそれを言いに病院に来なければなかなか僕らが気付くことは難しい。
これは、今後緋和ちゃんの大きな課題になるように思えた。
「すいません……。」
「いいよ、謝らなくて。大丈夫? 吐きそうだったりしたら言ってね。……彩ちゃん達も部屋に戻ろうか。」




