53.「すぐ戻ってくる」
「緋和ちゃん、ちょっと持ち上げるよ~」
一声かけてから緋和ちゃんを持ち上げ、ストレッチャーに寝かせた。
やっぱり緋和ちゃんは軽い。
神原一家はみんな心配そうな顔をしている。
「緋和……。」
なんて声をかけたらいいのか分からないのだろう。これから全身麻酔をして検査に挑む娘への言葉……。
「大丈夫。すぐ戻って来る。」
緋和ちゃんは軽く笑った。
市禾ちゃんはイマイチ状況が分かっていないようだったが、心配そうな顔をしている。
一色くんは――。なんともいえない表情。
先ほどお父さんが言っていたことを思い出した。……緋和ちゃんとの距離が掴めていない。
なんとなく意味が分かった気がする。
ごろごろガラガラと小さなストレッチャーの車輪の音が廊下に響く。
病院でストレッチャーに乗っている人なんて珍しくもなんともない。
実際、僕だってストレッチャーに乗っているような患者さんを相手にしたことだって何度もある。
「じゃあ、緋和ちゃん、これ吸ってね。犬見先生、用意は?」
検査室に入り、検査台に緋和ちゃんをのせてから、酸素マスクをつけた。
「できてます。」
「お願いします。」
「緋和ちゃん、刺すよ」
犬見先生がそう言うと、また小さく頷く緋和ちゃん。それを確認して犬見先生は消毒をしてスッと針をいれた。ちゃんと流れるか水をいれて確認。そして、確認したあとに点滴へつなげて数十秒。
緋和ちゃんの意識がなくなった。
《用語》
・ストレッチャー
動けない怪我人や病人を搬送するための道具




