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LIAR・TEAR ~ライアー・ティア~  作者: 八瀬蛍
第一章 彩と緋和の出会い
52/91

52.情けない

 唯木先生から一通り詳しい説明も終わり、緋和ちゃんも緋和ちゃんのお父さんも特に不安な要素はなさそう――いや、本当はたくさんたくさんあるはずだが、僕たち医者に全てを託してくれた。

「じゃあ、緋和ちゃんは私とお風呂、行こっか。」

 守山さんは緋和ちゃんだけを連れて、お風呂とは名ばかりの洗面所とそう変わらない部屋に連れて行った。

「お父さんは、病室でお待ちください。」

「はい」

 覚悟を決めたように硬い声で言うお父さんにこちらの緊張も一層高まった。

 僕はお父さんと共に病室へ、唯木先生と犬見先生は検査の準備等を、それぞれ少しの間だけ別行動をした。

「……緋和には、いつも無理をさせているようで、病気でただでさえ辛いだろうに、わたしも一緒にいてあげられなくて……」

 病室へ向かう中で緋和ちゃんのお父さんは口を開いた。

「一色も……あ、緋和の兄なんですけど、兄も何か緋和との距離を感じているようで、ほんと情けなくて」

「……僕は、緋和ちゃんはお父さんのことを情けないなんて微塵も思ってないと思います。一度、緋和ちゃんにご家族のことを聞いたことがあったんです。」

 ――緋和ちゃんは家族のこと、みんな好き?

 そうきいたら緋和ちゃんは、

『あんまり、一緒にはいられないけど……好き。』

 少し照れたようにいう緋和ちゃんに珍しいなと思った一瞬だった。確実にその場の空気が緩んだ。そして、本当に好きなことが伝わってきた。

「本当に緋和がそんなことを言っていたんですか?」

「はい」

「そう、ですか……。緋和が、そんな風にわたしたちのことを……。」

そう言うお父さんの瞳は少し潤んでいるようにみえた。


 準備は一通り終わったようで唯木先生も犬見先生も病室へ戻ってきた。もちろん、緋和ちゃんも。

「よし、じゃあ緋和ちゃんはベッドに座って。」

 唯木先生が出すテキパキとした指示に積んだ経験の長さを感じた。

「犬見クン廊下のストレッチャー、持ってきて」

 唯木先生は軽い笑いと的確な指示をだすだけだった。

「はいっす」

 返事一つとってもやはり気になるところがある。

「じゃあ、緋和ちゃん。今から薬をうつから楽にしててね。」

 犬見先生は担架を運んできて、守山さんは前投薬につかう器具などを持っていた。これからこの器具たちだけでなくいろいろな器具を《犬見先生が》使って緋和ちゃんの意識をおとす。

「持って来ました。前投薬、やりますか?」

「うん、じゃ犬見クンよろしく。僕らは後ろに控えてるから何かできることがあったらつかってくれていいよ。」

 二人とも話し方はいつもと何ら変わりはないが、明らかな緊張がはしっているように思えた。

 その緊張は僕だけじゃない。ここにいる人、全員が感じていた。

「じゃあ、緋和ちゃん。やるよ?」

 ベッドに横たわっている緋和ちゃんの意思確認をとる。

 もちろん緋和ちゃんは嫌なんて言わず無言でうなずく。

「………………。よし」

 手早く注射を行い、注射器を抜いた。

 緋和ちゃんは、特変ない。

 それから三十分待つ。

 病室にいた七生ちゃんは緋和ちゃんを気遣ってか夏目ちゃんと共に外へ出て行った。

 しばらく守山さんは緋和ちゃんの緊張をほぐすために他愛もない会話をしていた。僕や唯木先生たちも少し会話に参加したりして、空気は少し和んだように思えた。

 あっという間に注射を打ってから三十分ほど経った。

「じゃあ、検査室へ連れて行きます。」

 守山さんや看護師の人たち、唯木先生や犬見先生も僕の指示に頷いて行動を始めた。緋和ちゃんも抵抗する気はないようだ。


用語

《前投薬》

全身麻酔の導入、維持を円滑にし麻酔薬や手術による副作用を軽減する目的で全身麻酔前に投与するもの。

大体、手術室等に向かう30分前にうつ。

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