眠れた?
「お父さん」
病室に入ると緋和ちゃんが言った。お父さんの方は軽く笑って、緋和ちゃんのベッドの方へ行くと、緋和ちゃんの頭に手を置いて言った。
「ごめんね、急に会社から呼び出しがあって。今から向かわないといけないんだ。本当にごめんね」
「大丈夫、平気だから」
何一つさっきと変わっていない表情でそう返す緋和ちゃん。もう慣れてしまったのだろう、その寂しさにも父がいなくなったあとの静けさも全て、緋和ちゃんの日常になってしまったのだろう。
「本当にごめんね。先生も失礼します。緋和を頼みました。」
本当は一番自分がそばにいたいけど、家庭のため、まだ小さい妹さんのためにも働かないといけないお父さんの背中は重いようだった。
「じゃあ、先生も戻るから。何かあったらナースコール押してね~」
お父さんが出て行ったのを確認して僕も病室を出た。
その日はナースコールが押されることなく平和に過ぎて行った。次の日の朝、僕は検温と様子を見るために四〇一号室へ向かった。
「おはよう、緋和ちゃん」
「おはようございます」
眠そうに目をこすっている。元気もない。緋和ちゃんは朝が苦手なのかもしれない。
「眠れた?」
「まあまあです」
ベッドが変わると眠れなかったりするのか、それとも何か心配事があったのか、やっぱり寂しかったのか、怖い夢でも見たのか……この年齢で眠れないのはこの辺りの理由だろう。でもきっと慣れれば平気なはずだ。
「平気?」
「大丈夫です」
「じゃあ検温ね~」
看護師から差し出された体温計を受け取り、緋和ちゃんに渡した。素直に脇に挟んだ緋和ちゃん。




