夜の発作①
「そろそろ消灯時間だから。寝る準備……まだしてないなら、しておいて」
緋和ちゃんにそう言われた。たしかにもう木原さんも心晴ちゃんも勿論、緋和ちゃん本人も今すぐにでも眠れそうだった。
九時になった。その瞬間、電気が消えた。いちいち人が消しに来なくてもいいなんて便利だなあ、とわたしは少し感心していた。
横になると息が苦しいし、咳も止まらないので、ベッドに座るようにしてわたしは眠りについた。一度は寝れたが、眠りは浅く、中々熟睡はできなかった。
――回診の時間は十時、十二時、二時、四時、の計四回。六時にはもう看護師は起しにやってくる。彩たちの部屋にも最初の巡回が来た。緋和は音や光に敏感で最初の頃は毎回のように、その巡回に起きてしまっていた。看護師は緋和が起きやすいのを知っているため、音をなるべく出ないようにして、光も顔や呼吸が確認できるギリギリまでおとしていた。
二度目の巡回が去ったとき、緋和は起きてしまった。看護師の思いやりのある行為で毎回起きるほどではなくなってきた緋和。でも、まだ起きてしまうことはある。十二時を十分程過ぎた時だった。緋和の前のベッド……彩のベッドから荒い呼吸が聞こえてきた。
「ゼロゼロ――ヒューヒュー」
そんな息。入院をよくする緋和には彩が今、喘息の発作を起こしていることが直ぐに分かった。次の巡回はまだまだずっと先。緋和はベッドから起き上がり、物音を立てないように彩のベッドのほうまで行った。
「すいません、今すぐ来てください。西尾彩さんが多分喘息の発作を起こしていて」
小声でその場の状態をナースコールに向かって言った。「今すぐ行きます」という声が帰ってきてからつい十秒ほどで看護師二人が早歩きで向かってきた。
「西尾さん、大丈夫ですか」
苦しそうに顔を歪めている彩に一人の看護師さんは背中をさすって声をかけた。もう一人は先生を呼んでくるようだった。緋和は自分の持ち物から未開封の水をとりだし、紙コップに注いで彩のテーブルに置いた。
「ありがとう、緋和ちゃん」
彩の背中をさすりながら緋和に礼をいう看護師。緋和はいえ、と軽く笑ってから自分のベッドに戻った。この騒ぎじゃとてもじゃないが、眠れない。
春上先生ではない別のドクターが来た。どうやら春上先生は一昨日から日勤、当直、翌日の日勤で約計三十六時間労働をしていたらしい。