ふざけんな!
いつもと明らかに違う春上先生の周りの空気に彩は「まずい」と思った。これは本当に怒られる、そう思っていた。
「べ、別に…」
ばつが悪くて目を逸らす彩の手をとって春上先生は両手でぎゅっと握った。
「心配、したんだよ。みんな。僕も、看護師さんたちも。病院の人全員。」
彩は、返す言葉がなかった。
なんとなくだが、困っている看護師たちや医者たちの姿が頭に浮かんだ彩は、自分がやろうとしていたことをようやく理解した。
「帰ろう」
春上先生に手を引かれ、彩は緋和たちのいる病室のドアを開けた。
その瞬間――彩の頬に鈍い痛みがはしった。何が起こったのか分からず、彩は目を白黒させた。
「どれだけ……どれだけ、他の人に迷惑をかければ気が済むの!? いつもいつもいつも! それで次は脱走? ……ふざけんな!」
そう、彩は緋和に頬を叩かれていたのだ。
そして彩は緋和の言い分に少し、頭に来ていた。彩も今回は自分が悪かった、と思った。でも『いつも』というのが理解できなかったのだ。
「あなたに、あなたなんかにわたしの気持ちなんて分からない! だからそんなことが言えるんだ! わたしがどれだけ辛いか、痛いか……。緋和ちゃんには分からない!」
緋和は彩のその言葉を聞き、少し下唇を噛んで病室を出て行った。
「待てよ緋和ッ! ――――あなたにだって、いいやわたし達にだって緋和の気持ちは分からない」
夏目は彩にそう吐き捨てるように言って緋和の後を追った。




