何があるの?
――昨日は先生に「嫌だ」を連呼した以降の記憶がない。きっとそこから寝続けていたのだろう。寝て起きても自分の取り巻く状況は変わらず、入院生活がまだまだ続くことを朝のひかりはわたしに告げた。
「彩ちゃ~ん、検温でーす」
ドアから声がした。朝から先生の顔を見なければならない。昨日あれだけ先生の前で泣いたから恥ずかしい。バッと布団にもぐった。
「さ~やちゃん」
わたしは布団の中で小さくなって先生から身を守っていた。
「検温だよ~いい加減、検温くらい慣れようよ~」
「嫌だ」
「あ、昨日泣いたのが恥ずかしかった? お年頃だね~」
「違ッ!」
図星を言い当てられて、わたしは布団から顔を出してしまった。それを先生が見逃すはずもなく布団を剥ぎ取られ、先生の顔を見ないといけなくなった。
「あ~あ、目……すごく腫れてるじゃん~あとで顔洗っておいでね。はい、じゃあ検温ね~」
もう抵抗する力もなくなり、わたしはされるがままに体温計を脇にいれた。
「うん! 問題なし。じゃあ、胸の音聞かせてね」
もう抵抗が面倒だ。
「よし、こっちも平気。じゃ、また来るからね~」
朝から先生は元気だ。テンションが高い。
ハッと先生に言われたことを思い出した。「目、すごく腫れてる」って言ってた……。
どうしよう、もう点滴ないから自分で取りにいかないといけないのに……。
「本当に、すごい顔。」
呟くかのように前のベッドからそんな声が聞こえた。緋和ちゃんだ。
「うう~どうしよぅ」
わたしはガクンと肩を落とした。
すると緋和ちゃんのベッドにも、他の先生たち来て、カーテンを閉めた。
今日はやけに長く話している緋和ちゃんを見て、担架を思い出した。きっと何かあるんだろう、改めて確信した。
二十分近くお医者さんたちは緋和ちゃんのベッドを離れなかった。