家に、帰りたい!
とりあえず病室に戻ると、部屋の前に、赤……朱色? そんな感じの色の車輪がついた担架があった。そして部屋の中では緋和ちゃんが何やら先生たちに囲まれていた。
「彩の前のベッドの子、どうかしたのかしら」
呆気にとられていると後ろからママに話しかけられた。この状況を見れば誰でも担架を使うのは緋和ちゃんだと思うはずだ。実際、わたしもそうだと思う。
もちろん緋和ちゃんとは限らない。心晴ちゃんかもしれないし、夏目ちゃんかもしれない。
自分のベッドへ戻った。緋和ちゃんのベッドはカーテンがかかっていて見えない。少し聞こえる会話も難しいことを言っていて何が何だか分からない。
でも、担架を使うのが緋和ちゃん、というのは多分あたりだろう。
ママと話していたり、本をペラペラとめくっていると看護師さんに検査結果が出た……と言われ、ママと一緒にまたあの部屋へと向かった。
やはりその部屋には先ほどと何も変わらず、パソコンが二台とそれが乗っているデスク。先生用の椅子、患者用の椅子、保護者用の椅子の三台。それに硬そうなベッドがある。
「彩ちゃん来たね~」
相変わらず笑顔の先生。逆に、笑っていないところはあまり見ない。
「で、早速なんだけど。検査の結果、予定より入院が長引きそうなんだ」
ショッキングな先生の一言に、わたしはもうあとの言葉は聞こえなかった。いや、もし聞こうと思っていたとしてもわたしには少し難しい話過ぎて分からなかったことも確かだ。
聞き取れたのは入院期間が約一か月程度延びること。
わたしの病気は「喘息」だけではないことの二つだけだった。
その事実にわたしはママが帰ってもぼーっとしていた。夜、そんな様子を見ていた先生が病室に訪れた。
「彩ちゃん、大丈夫?」
無言のまま――。だって大丈夫なわけがないだもの。
「ショックなのは分かるけど、治さないと辛いのは彩ちゃんだから……。そこは分かっていてほしい。」
「先生なんかに、……分かるはずがない」
「そうかもしれない」
「先生なんかに、……わたしの気持ちが分かるはずない」
「うん」
「先生なんかに、……この辛さはわかるはずがない」
「そうかもしれない。――でももう一度言うけど、治さないとより辛くなる」
「それでもッ! ……それでも、わたしは嫌だッ! もう帰りたい! 家に帰りたい!」
――彩は先生の前でワンワンと泣き出してしまった。病院嫌いの彩にとって入院すらつらいのに、それがあと一か月も続くなんて彩は地獄でしかない。
でも、そんなことは春上先生だって分かっていた。彩の病室には今、彩と緋和、春上先生の三人しかいなかった。
「そんなこと言わないの。大丈夫、大丈夫だから。先生と一緒にゆっくり治していこう、な?」
「やぁだぁ! 入院なんてしたくない~! 帰りたいよぉ~!」
「よしよし、大丈夫、大丈夫だから。落ち着いて」