余計なことを言わないで
もうそろそろ三時だ。ママが来てもいい時間になってきた。まだ半日くらいしか一日は終わってないけれど、とても一日が長い気がした。
「彩、大丈夫?」
「ママ!」
「ごめんね~なかなか仕事抜けられなくて」
「ううん、大丈夫!」
ママと話をしていると緋和ちゃんのベッドが動いた。そして滅多にベッドから出てこない緋和ちゃんが出てきた。珍しい。
「緋和、検査~?」
「うん。夏目は?」
「今日は特にない」
「そう、ゆっくりしときなよ」
「ゴロゴロしてるさ」
「そう」
部屋のドアの前でそんな会話が聞こえた。そうか、緋和ちゃんは今日が検査の日なのか。
わたしもママが来たら受付に行け~って言われてたっけ。行きたくないなぁ。行かなくていっか別に。どうしてもなら先生とか迎えに来てくれるでしょ。
「あ、西尾さん。受付行くんでしょ? もうすぐ三時だけど」
まるでわたしの考えが分かっていたかのようにそう言う緋和ちゃん。余計なことを……。ママにばれてしまっては検査をサボるなんて無理だ。
「あら、彩。先生に呼ばれてるのね。じゃあ受付行きましょう」
最悪だ。
「西尾彩です。春上先生に呼ばれたんですけど……」
ママはわたしの代わりに先生との話を通してくれているようだった。そして外来の小児科のところへ行くように言われた。
入院病棟から小児科外来までは意外とすぐに着いた。
「あ、逃げずに来たの~偉いね」
先生もわたしが逃げるかもしれない、ということを視野に入れていたみたいで、どちらにせよ逃げることはできなかっただろう。
「何をするの先生」
「今日は、とりあえず採血とX線検査かな~」
えっくすせ……? 分からない。でも採血は分かる。注射系だ。
「やだやだやだッッ」
先生は言うと思った、とでも言いたげに小さくため息をついた。
「お母さんは、よろしいですか?」
「それが、必要なことならば私が反対する必要はありません。」
「じゃあ、二十四番の部屋の前まで来てください。」
「はい」
やだやだ言うわたしをよそに先生とママは話を進めていた。注射だけは本当に嫌だ。怖いし、痛いし。絶対嫌だ!
ママはわたしが逃げないように、手をしっかり握って二十四番と書かれたドアの部屋まで連れて行った。そのドアの前には椅子があった。ママはそこで待機するのだろうか。