大樹の護り人 7
「ふん、いつまでそうしてるつもりじゃ、この不埒もの。」
暫くたって私に抱き締められているララノアが絞り出した言葉だ。
「すみません、つい。」
慌ててララノアから体を離す。
『つい』って、自分で言ってしまったが、ついってなんだよなぁ? つい、可愛かったからとでも、続けるつもりだったのか・・・、いや、俺に幼女趣味はないはずだ・・・待てよ、ララノアは幼女っぽいが超年上だ。これは、可愛いと思ってしまっても犯罪にはならないはずだ。
「ふん。」
怒鳴られるかと思ったが、それ以上、私に文句を言うつもりはないようだ。顔をちょっと赤らめて膨れている。ちょっと可愛い。
「それで、ララノア様、散々わめいていただいた中に、納得できないことがあったので、お伝えしたえします。」
私は大きく息を吸って、ララノアが喚いたように口を開く。
「おい、こら、ララノア!! 人に死ねってなんだ!! 無理矢理ここに連れてこられた俺に対して、勝手に人の世界に踏み込んでくるなだと!? アホはお前だろ!? 文句いうならここから出せ!! しかも、俺が居なくなったら寂しくなるだと!? そんなこと言われたら、ここから居なくなりたいのにいなくなれないじゃないかあああああああああ!!!!」
お返しとばかりに文句を言ってやる。
「ふん、言いたいことはそれだけか? いなくなれないと言っても、それは主の意思ではどうにもならんことじゃろうが・・・。」
寂しそうにララノアが呟く。
「ええ、その通りです、ララノア様。私にはこの世界に留まることはきっと出来ません。だから・・・。」
そう、この世界に強制的に連れてこられた私はいつ同じ力で強制的に排除されるかわからない。それならば、ララノアが寂しくない様にする手段はひとつだけだ。
「必ず私があなたを封印を解いて、現実で再会することを約束します。」
そう、現実で会えばいいのだ。
目を丸くするララノア。
暫く沈黙が支配する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いや、こんなに沈黙が続くと腹を決めて、ビシッと決め台詞を言った俺が滑ったみたいで恥ずかしいんですけど・・・。
すると、突然ララノアが笑い出す。
「アハハっ、お主、それ、本気で言っておるのか?」
「本気以外で言えるか!!」
なんだかバカにされているようで腹がたってきた。
「そうか、そうか。うん、ゼロは・・・優しいな。でも、それは無理じゃ。余が封印されているのはエルフ族の里にある秘密の場所じゃ。」
「それはエルフ族の秘密の場所を部外者の俺には伝えられないってことか?」
「違う!! 今更、余にエルフ族に義理立てする気はない。ただ単に、その場所にたどり着くのには数多の見張りを掻い潜り、場所にたどり着いても数多の罠を突破しなくてはならない。まず、常人では生きて変えれない場所じゃ。しかし、気持ちは嬉しかった。その気持ちだけで次の50年は耐えられそうじゃ・・・ありがとう。」
寂しげな笑顔を浮かべるララノア。
「こらこら、勝手に話終わらそうとするな、ララノア。次の50年はいいとして、その次の50年は一体どうやって耐えるつもりだ? その次は? 100年後なんて俺100%死んでるからね!? もう会いに来れないからね!! だから・・・・・・・・・今助ける!!」
「わからないやつじゃな!! この頑固者が!! 一人の力では絶対無理じゃ!! それこそ里を巻き込んで戦争でも始める気か!?」
「いや、戦争は・・・まぁ、なるべく避けるよ。でも、カルパッチョはムカつくから一泡は吹かせてやろうかな?」
「アホか!? そんな簡単なものじゃないじゃろうが!! ひとつの里と戦争になるかも知れないって言ってる余に対して『なるべく避ける』って、一人で里を相手に出来るわけないのは考えなくてもわかるじゃろうが、このアホ!!」
「ああ、もう、アホアホうるさいなぁ。自分の価値観を押し付けるな!! 一人で里を相手に出来るわけない!? つい、数日前にケンタウルス族相手に大喧嘩してきたはボケっ。俺が聞いてるのはララノアが封印を解いて欲しいかどうかだけだ!!」
「解いて欲しいわ、アホっ!! でも、無理だって・・・・・・あれ?・・・・・・えっ!? 今、ゼロ、何て言った?」
「ん? ララノアが封印を解いて欲しいかどうか?」
「いや、その前じゃ。」
「えっと、ケンタウロス族相手に大喧嘩してきた・・・だったけっけ?」
「え~と、ゼロ、それ、マジ!?」
「大真面目だ。一人で里を相手にしてやったぞ。どうだ、凄いだろう。」
「いや、それで、結果は・・・?」
「ん? まぁ、なし崩し的に仲直り?」
「ちょっと意味がわからないけど・・・。えっと、怪我とかは?」
「してない。だからララノアの尺度で物事を測るな。信じようが信じまいが事実だ。ララノアが思ってるより俺は強いからな。それに、もう止めても無駄だぞ。ララノアが結界を解いて欲しいと思ってるのがわかった今、俺はもうお前を助けるからな。文句があるなら、直接現実で会ってから言え。」
は~っと、ため息をつくララノア。
「わかったのじゃ、ゼロ。では、この場で余と戦え、余が負けたら黙って助けられてやる。しかし、ゼロが負けたら、黙って余のことを忘れろ、いいな?」
「いいわけあるか。俺の実力を見たいんだろ? 助けられずに死んでしまわないか心配なんだろ? 俺の力は見してやる。でも、それはララノアと戦ってじゃない。いいか、今から俺が言うことを聞いてから俺がララノアの封印を解くのをサポートするか、黙って見てるか決めろ。」
「それって、両方とも助けるって選択肢ではないか!? はぁ~~、まぁいい。取り敢えず話してみよ。」
私はたった今思いついた『名案』を説明する。ララノアは黙ってそれを聞いていた。
「どうだ、これなら俺の力も見れるし、封印を解ける可能性も高くなる。俺が今言ったこと、出来るか?」
「出来るかじゃと? 全く、誰に向かって言ってるつもりだ!! 出来る!! が、ゼロこそ本当にいいのか、いくら余の『術』の中とは言え、ゼロは異分子だ。死なないという保証は出来ないぞ。」
「だから、言ってるだろ、俺は死なないし、絶対ララノアの封印を解く。」
「ふん、期待してやる。では始める前にひとつだけだ言っておく。ゼロ、お主途中から余に対して物凄く失礼な口調になっておったからな!! 現実で会ったらひどい目に会わせてやる!! では、行くぞ!!」
「ああ、現実で会ったら文句ぐらい聞いてやるよ!! でも、口調は変えないぞ、だって俺らもう友達だからな。」
「なっ!! 友達・・・!? ふん、まぁ、いい。会えるのを楽しみにしておくぞ、ゼロ。」
そう言った後ララノアは『術』を発動し、心証世界の中にエルフ族の里と封印の地を完全に再現した。さぁ、まずはこのエルフ族の里レプリカバージョンをちゃちゃっと攻略してララノアに俺の力を示すと共に、予行練習を完了させちゃいますか?
いや、本当、ララノアの術って使い方次第で凄い利用法が一杯あるんじゃね?
私はそう思いながら、ララノアの救出に向かうのだった。まぁ、夢の中だけど。
・・・・・・・・・・・・・・・
暫く時間が過ぎ、やがて現実の私は目を覚ます。ルークが心配してすりよってくる。ルークの頭を撫でて周りを見渡す。他の仲間はまだ、眠っているようだ。辺りにも敵の気配はない。
私は今の夢を整理する。
ただの夢か、現実か・・・。
まぁ、始めから答えはきまってるわな。
「ルーク、ちょっと出てくる。仲間たちを頼む。」
私はルークに仲間たちを託し、メモを残して現実のララノアの救出へ向かう。
いやぁ~、やっとこのシーンに帰ってこれました。
なんだかエルフ族だけで普段の1章分が書き終わりそうな勢いですが・・・。