大樹の護り人 6
すみません、やっぱり話が進みきりませんでした。
「まずはどこから話すべきかのう? カルパッチョのクソガキと、余の関係性から話すべきかのう。まぁ、予想は出来ていると思うが、ヤツは余をはめた張本人じゃ。そして、余の弟子でもある。あやつが族長に収まったと言うことは、ヤツの策略は成功し、尚且つ、余が生きていることを知るものはエルフ族の里にはいないであろう。」
弟子にクーデターを起こされたって所か?
「あやつの性根が腐っていたことはわかっていたが、族長として、里の一番優秀な子どもを弟子に迎えなければならないと言う掟があったのでな。余が指導するなかで、そこも矯正できたらと思い、張り切っておったのじゃが・・・まぁ、ご覧の有り様じゃ。」
ララノアが自虐的に笑う。
それにしても、ララノアは元族長だったんだな。あれ? でも、女王とか言ってなかったっけ?
「ララノア様、族長と女王とは同じ意味を持つのでしょうか?」
「いや、族長は里の中で50年周期で里で一番優秀なもの、つまり『術』を上手く発動できるものが選ばれ、里を治める。女王は初代巫女の血を持つ家系の直系が継ぐことになっておるのじゃが、象徴的なもので権力などは特にない。唯一、巫女に選ばれやすいと言う迷信があるぐらいかのぉ? 余の世代では余が女王であり、族長であり、巫女であった。」
何気にララノアすごい人なんじゃね?
「余の凄さがやっとわかったような顔じゃの。素直に余にひれ伏してもよいのじゃぞ。」
いたずらっぽく笑うロリノア。そのあとに言葉を続ける。
「まぁ今は族長ではないし、女王の位は分家の誰かが継いでいるかもしれないがな。」
「と、言うことは巫女の力は失っていないのですね?」
「ふむ、まぁ、今更隠し伊達するのは好まんので、言ってしまうが、この世界こそがエルフ族の巫女の『術』じゃ。」
「と、言うことは、巫女の力を受け継ぐ人が出てこなくて、おかしいと感じてララノア様の生死や居場所を探そうとするするものも出てくるかも知れないのではないでしょうか?」
「残念じゃが、それはないじゃろう。実はエルフ族の里において『巫女』と言う立場は非常に微妙でな、そこまで重要視されておらんのじゃ。たかだか50年ぐらい巫女が出んかっても、誰も気にせんじゃろうて。」
「巫女が重要視されてない? こんなに凄い力があるのにですから?」
「捉え方次第じゃ。主はこの「術』を素晴らしいと思うてくれたんじゃろうが、エルフ族では、その逆じゃ、他の部族の巫女と比べて劣った術という認識を持っている。プライドの高いエルフ族はそれを嫌って、巫女と言うものが軽蔑の対象になることもあるのじゃ。まぁ、余の時代では余が族長ということもあり表だって巫女を侮辱する発言をするものはいなかったが・・・、影でコソコソ動かれてこの様じゃ。」
「と、言うことは、カルパッチョはララノア様を封印するということに重きを置いたのではなく、巫女を封印するために、その時の巫女だったララノア様を封印したということですか?」
「ほぼ正解じゃ。しかし、口煩く礼節や素養を叩き込もうとした余にも少なからず復讐したかったのも事実じゃろう。」
つまりエルフ族のプライドと言うものを守るために、『巫女』という存在を封印し、人ひとりの人生を台無しにしたと・・・。
「こらこら、感情が顔に出ておるぞ。余のことを思って怒りを感じてくれるのは嬉しいが、余も封印される前はカルパッチョと対して変わらぬ愚か者じゃったのじゃ、同情してもらう価値はないぞ。余はエルフ族こそが優れた部族であり、他の希望の民を導く存在であるとしんじておったのじゃ。ダークエルフ族も、ドワーフ族も滅ぼしてでも大樹の実をてに入れようと画策しておったぐらいじゃからな。その為の計画を練るための時間を捻出するために平和のためとうそぶいて、わざわざ停戦協定まで発案したのじゃからな。カルパッチョはそんな時間稼ぎをせずに即刻攻め滅ぼすべきと最後までごねていたがな。」
えっ、ララノア、今、さらっと凄いこと言わなかった?
停戦協定って、ララノアが発案したの? しかも、他の部族を滅ぼすって・・・。カルパッチョが前族長を臆病者呼ばわりしていたのは平和を愛したからではなく、作戦をたててからアクションを起こそうとしていたからなのか。エルフ族、やっべーなっ。
「複雑そうじゃの。まぁ、しかしそれが余の真実の姿じゃ。」
「しかし、それは過去形なのでしょ? だったら、私が知っている今のララノア様は愚か者じゃないんでしょう?」
「ふん。これだけ一人で考える時間が出来てしまうとな、嫌でも過去と向き合うことになる。その中で余が出した答えは、すべての民が平等であるというものじゃ。」
「では、ララノア様はすでに賢者の域に達しておいでなんじゃないですか? 私は未だに優劣をつけてしまう癖と、暴力で物事を解決してしまう悪癖があるので、いずれ、ララノア様の崇高なお考えをご教授ください。」
恭しくお辞儀をする。
「全く、バカにしおって、このクソガキが。まぁ、でも、そうだな。そんな『悟った』ふりをしても意味はないないのじゃろうな。」
すると突然ララノアは息を大きく吸い込み。大声をあげる。
「ああああああああああああああああ、まったくなんて日じゃ!! ああ、ムカつくっ!! 死ねっっっっ!!カルパッチョ死ねぇーーーーーっ!! 助けに来ないエルフ族も滅べばいい!! ダークエルフ族も、ドワーフ族も知ったことか!! 他の希望の民もどうなろうと知らん!! 余は・・・ここから出てたいのじゃ!! 死ね!! ゼロも死ね!! 人と会話する喜びを思い出させおって、主がいなくなったらメチャクチャ悲しくなるじゃろうが、大人のふりをしていた余を憐れみの目で見おってクソガキの癖に!! ボケっ!! アホっ!! どうせ何も出来ないなら、勝手に人の世界に踏み込んでくるなあああああああああ!! あああああああああああああ、うわあああああああああああ、ばかあああああああああああ!!」
ララノアの慟哭は暫く続いた。
私は そんなララノアを抱き締めた。
明日こそは、ゼロが去る場面までは書き上げます・・・たぶん。