大樹の護り人 5
前回で~○○目線~を終わらせたつもりだったのに、この話を書き出そうとしたらファウナさんが物凄く主張してきたので、今回はファウナの視点になります。
~ファウナ目線~
しのぶの要請で一足先に集合場所に戻った私はみんなの帰りを待つ。まず初めに帰ってきたのはご主人様と弥生。しかし、2人の様子がおかしい。
「首尾はどうなりました?」
私は2人に問いかけました。
「申し訳ございません。失敗いたしました。ファウナの方はどうなったのでしょうか、しのぶの姿が見えませんが・・・。」
「申し明けありません。門前払いを受けてしまって、族長様と面会すら出来なかったのですが、しのぶが立腹してどうにかして族長に会うと言い出してしまって・・・。報告のため私が一足先に戻った次第です。しかし、あの感じでは成功は難しいでしょう。弥生は族長に会えたのですか?」
「はい、まぁ、会えたと言えば会えたのございますが・・・。」
珍しく弥生様が返事を濁されています。
「何か問題が起こったのですか?」
「問題・・・起こったと言うより、起こしたと言うべきか・・・。」
「すまん、族長の名前が余りに面白かったので笑ってしまったら激怒され、殺されかけたからちょっと一悶着を起こして、族長を人質にして里から安全に離脱後、族長を解放して戻ってきた。」
予想の遥か上を行くご主人様の行動力。流石と言うべきか、やっぱりと言うべきか・・・。
「ええと、ご主人様の仰っている状況がいまいち呑み込めないです・・・と、言うかそんな行動をしたら今後の交渉すら出来ない、いえ、下手したら連合とエルフの戦争になるんじゃないでしょうか?」
「そうならないようにゼロ様と今後の方針を話し合ってはみたのでございますが、これといった解決策が浮かばず・・・本当に申し訳ございませんでした。」
弥生様が頭を下げられる。
「いや、弥生は悪くないんだ。あの傲慢なエルフどもにも礼儀正しい態度を取って話していたんだ。問題はあいつの名前が・・・。」
プーーーーーー。
何故かご主人様が大爆笑され出しました。
「あの斎藤カルパッチョエスパニョールが・・・くっ、プーーーーーー。」
どうやら余程エルフの名前がご主人様のツボに入ってしまったご様子です。流石にこの状況ではプライドの高いと言われるエルフ族が激怒しても仕方ないでしょう。
「いえ、交渉はゼロ様がお笑いになる前から決裂していました。例え、ゼロ様が笑い出さなくても、あのクソエルフはよい返事を出さなかったでしょう。」
いま、さらっと弥生様が『クソエルフ』と言いました。弥生様は普段はおしとやかな淑女で在られますが、ご主人様が浮気した時に見せる笑顔は私をゾクゾク・・・もとい、恐怖させるに十分な迫力を備えておいでです。
「では、エルフ族の参加は不可能と言う方向で宜しいですか?」
「はい。しかし、やはり戦争回避のためにわだかまりは解消しておきたいのですが、何かいい知恵をお持ちではあられませんか?」
そうは言われても正直そこまでこじれたものをどうにか出来る方法なんてないのではないのかと考えてしまう。
「申し訳ありませんが、私の頭ではこれと言って・・・。」
「そうでございますか。では、もう少しわたくしは悩んでみますね。もし、何か思い付いたら力になってくださいませ。」
「勿論です。」
弥生様は笑顔で感謝を述べてくださいましたが、そのあとで独り言の様に仰っていた『やはりエルフを滅ぼすしかないのですかねぇ』と言う言葉は華麗にスルーさせて頂いた。
暫くするとルーク様に担がれてサラサ様が帰って来られました。しかし、あの様子では成功したとは言い難いでしょう。
「交渉はどうなりました?」
本来なら私ではなくご主人様か弥生様が質問をした方がいいと思いますが、ご主人様は反省中で意気消沈、弥生様はエルフの里をどう滅ぼすかで頭が一杯の様子なので、僭越ながら私が問いかけさせていただきました。
「ファウナ、今のあたしを見て、交渉が上手くいったと思う?」
「いえ、残念ながら・・・。」
「はい、正解。あの人たち質問ばっかりしてくるんで、あたしの頭はパンク寸前だよ。ああ、ひとつ報告しなくちゃいけないのは、ダークエルフ族には私たちの行動は筒抜けってこと。どうやって調べてるかはわからないけど、今も監視されていると思って間違いない。」
その言葉にご主人様も弥生様も反応なされて、警戒しながら辺りを見渡す
「多分、監視者じゃなくて、それが彼らの『術』なんだと思う。今までだってあたしたちに一切気配を悟られずに情報だけ持って帰るなんて可能だったとは思えないし・・・。」
サラサ様は普段はお転婆で在られますが、この様に物事の核心をつくのが物凄くお上手で、感心させられてしまうことが多々あります。
サラサ様の言葉で警戒を止めたお二人は自分の世界に戻っていかれました。それを見てサラサ様も、
「あたしは少し休ませてもらうね。」
と、仰って、横になられました。
最後にしのぶ様が集合場所に来られたとき、太陽はもう沈みかけていました。
「どうでした?」
「ああ、族長に会えることは会えたんだけど、あれは聞く耳を持つタイプじゃないと思いますね。」
「そうですか。でも、族長様にお会いできたなんて流石ですね。」
「そんなことないですよ。結局、成果は挙げられなかったし・・・。唯一の可能性として『大樹の実を』を持ってくれば連合に入るって言ってましたけど・・・。」
その言葉に反応してサラサ様が起き上がる。
「あたしも同じこと言われた。それに凄く、すごーーーーく、たくさん木について何か知ってることはないかって聞かれた。」
その言葉で弥生様が自分の世界から帰還なされる。
「クソエルフも『余に献上しろ』と、寝ぼけたことを仰っていましたわ。」
・・・弥生様、最高かよ。
いけないいけない、つい別人格の心の声が漏れそうになってしまいました。
「では、どの部族も『大樹の実』を交換条件に連合への参加を容認したんですね?」
「はい。」
「うん。」
「その通りでございます。」
少しですが、希望が見えてきた気がします。
「でも、その実は今まで一度として実ったことがないんだろ。」
ご主人様の一言で希望が絶望に変わる。
・・・ご主人様、最高かよ!!
危ない危ない、今は性癖に負けるわけにはいかない。
冷静さを取り戻し、周りを見渡すと重苦しい空気が・・・。きっと、今悩んでも、答えは出ないのでしょう。それならば・・・。
「皆さんお疲れで、今考えてもいいアイディアは出てこないかもしれません。どうです、今日は夕食を食べて、休息をとると言うのは・・・?」
皆さん思うところがあるのか頷いてくださいました。
夕食の時間はまるでお通夜でしたが、一晩寝ればいつも通り元気な皆さんに戻ってくれるはずです。
そう、思っていました。
翌朝。
私たちが目を冷ますと、そこにご主人様の姿がありませんでした。代わりに伝言が一言。
『出掛けてくる、夜には戻る。もし、危険が迫ったり、俺が戻らないようならケンタウロス族の里に身を隠せ。」
まさかの放置プレイ。
ご主人様、私はもう理性が保てそうにありません!!
ど変態が、なんか、すみません。