大樹の護り人 4
なんだかサラサとしのぶの口調が被ってきた気がする。混乱させたらすみません。まぁ、今回はサラサは出てきませんが・・・。
~しのぶ目線~
頑固一徹のドワーフ族。自分の仕事に熱中するあまり家族すら蔑ろにすることすらあると言われる職人たちの集団。僕は一方的にだけど、そんな部族に親近感を覚えていた。
そう、覚えている、ではなく。いた。
御館様に会うまでの僕はまさしく仕事に生き甲斐を感じていた。影として生きる為に小さいときから訓練に明け暮れ、才能を伸ばしていった。成長した僕は一族の中でも精鋭と言われる程の実力をつけて、積極的に仕事をこなした。それも淡々と。自分の力を誇示する様に来る日も来る日も仕事をこなした。仕事はとても楽しかった、情報収集と言う仕事をこなす度に僕は世界の真理に触れているような気分になっていた。隠された秘密や人の悪意を暴き出す度に僕の好奇心は満たされ、まるで自分が世界のすべてを見通す力があるのだと勘違いしていた。
御館様に出会うまでは・・・。
御館様と出会えた僕は幸せだ。勘違いで構築された『賢者』の僕を、自分の依頼主の嘘さえ見抜けない『愚者』だったと気づかせてくれただけではなく、旅を通して、本当の世界を見させてくれた。今はそのお陰で自分が『無知』であると理解できる程度には見識が広がったと思う。
僕は勘違いのガキだったと気づけた今は、長い年月を掛けて磨きあげた本当の職人へは親近感ではなく尊敬をしている。
そんなドワーフ族の里に踏み入れた感想は・・・。
え、何これ?
である。
まず、門番はいなかった。
里は活気に溢れているが、活気と言っていいのか、怒号と言っていいのかわからない感じだ。あちこちで爆発みたいな騒ぎは起こっているが、誰もそんなことには注意を払わない。族長の家の場所を尋ねても、
「仕事の邪魔だからあっち行け」
と、言われ続けて、結局自力で探し当てるはめになった。しかも、辿り着いても族長は不在だった。まぁ、アポイントメントを取らなかった自分たちにも落ち度はあるが、不在を伝えてくれた屋敷の人の態度が酷かった。
「族長は不在だ。いつ帰るかわからない。」
詳しく聞こうとしても、まさしく門前払いだ。
しかし、こちらも御館様の使いで来ているので、このまま引き下がるわけにはいかない。きちんと対応してくれるなら、まだしも、こんな扱いを受けるならこちらも遠慮しない。自慢の鼻の出番だ。
屋敷の中から一番強い匂いをかぎ分け、族長の居場所を見つける。ファウナには申し訳ないが、彼女は隠密行動にに向いていないので、先に御館様との集合場所に向かってもらった。
匂いは里の端にある大きな洞窟に続いていた。
「これはダンジョンか?」
追跡を続けるべきか迷いが生じたが、御館様の使いとして任務を成功させたい気持ちが勝る。
幸運なことにこの洞窟の中には罠はないようだ。本当にただの洞窟だったのか、ダンジョンが攻略されて罠が全て解除されていたのかはわからないけど、これは嬉しい誤算だ。洞窟内のドワーフ族の数も少なく、僕が見つかる可能性は低いだろう。ただ、問題はその広大な広さと迷路のような要り組んだ道の数だ。薄暗さも相まって、僕にように鼻がきく種族出なければ迷子になって地上に戻れなくなるだろう。ドワーフ族の人たちはどうやって目的地にたどり着いているのだろう?
暫く進むと道が開けて大きな空間に出る。そこには10人程度のドワーフ族が大きな岩を叩いたり削ったりしていた。
不意に大きな声が掛かる。
「そこの娘。ワシ等に何用だ?」
こちらを確認もせずに飛んできたその言葉に驚異を感じるが、バレている以上隠れるのは得策ではない。
「すみません、族長様とお話がしたくてここまで来てしまいました。」
「ふんっ、簡単に言ってくれるわ。この場所はドワーフ族の中でもごく一部の者しかたどり着けない場所でな。ワシに会いたいから会いに来ましたと言えるような場所ではないんだが・・・。迷宮をどうやって抜けた?」
「僕は他の人より鼻がいいんで、族長様の匂いを追って来たらたどり着きました。まずは突然訪問した非礼をお詫びいたします。」
「ああ、そういうのはいい。時間が惜しいんでな。敵意がないなら用件をさっさといえ。」
「はい、実は今、希望の民連合と言う組織を発足しようと・・・。」
そこまで言うと族長らしき男が私の言葉を遮り、発言する。
「興味ないので帰れ。」
「せ、せめてお話だけでも・・・。」
呆気なく断られてしまったが、なんとか興味を持っていただかないと・・・。
「大体のことはわかってる、鬼族と竜人族を中心とした同盟の話だろう。興味ないのでその話は終わりだ、帰れ。これ以上そこにいるなら敵と見なし、ヌシを拘束するか排除しなくてはいけなくなるんだが・・・。」
「わかりました。御仕事中お邪魔してしまって申し訳ありませんでした。」
「気にするな。もし、大樹の実を手に入れることが出来たなら持ってこい。その時はそれと引き換えに同盟でもなんでもそっちの条件で受けてやる。」
「大樹の実とは一体どうやって手に入れればいいのですか?」
「知るか、ボケ。知っていたらワシらが先に手に入れているさ。わかっていることはご先祖様からそれを手に入れた者は最高の鍛冶士になる資格を手に入れられると伝え聞いているだけだ。まぁ、本当か嘘かは知らんがワシらにとっては最高の鍛冶士になれる可能性があるだけで、全てを捧げる意味があるんでな。さぁ、わかったら行け。」
「わかりました。失礼します。」
迷路のような道を地上の匂いを頼りに抜ける。
「職人は自分の技術のために悪魔にも魂を売ると言うことか・・・。」
独り言を自分に言い聞かせるように口にする。僕も御館様に会わなければその技術を極めるためには全てをなげうっていたのだろうか・・・。
グルグル考えながらも、ひとつだけわかっていることを噛みしめ、前に進み出す。
「僕は昔の僕より、今の僕の方が好きだ。」
口に出し、より一層その思いが強くなる。そして思い出す。
任務失敗の事実を・・・。
憂鬱な気分が襲ってくる。
「あ~あ、また迷惑を掛けちゃったかなぁ。」
でも、僕は知っている。御館様が気にするのは任務の成功したかより僕らが無事かどうかだってことを。
御館様のことを考えるとつい顔が緩んでしまう。
いけないいけない。御館様の優しさに甘えることはいいとして、任務を失敗したことはきちんと反省しなければ・・・。
まさかの全員交渉失敗と言う結果に・・・。
ああ、ダークエルフはまだ可能性があるんだったっけ?
3部族も登場させた所為で、この章、なんだかすごく長くなりそうです。