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大樹の護り人 3

~サラサ目線~


噂は噂でしかない。


このダークエルフ族の里に招き入れて貰ってまず初めに感じた素直な感想だ。あたしは自分が単純だってのをよく知っている。だからしのぶの言葉を聞いたとき正直不安になったのも事実だ。だけど、ここの里の大人たちはすれ違う度に笑顔で挨拶してくれるし、子どもたち飛びっきりの笑顔で質問責めにしてくる。


「ねぇ、どっから来たの?」

「その獣さわってもいい?」

「どこ行くのぉ?」


こんな温かな雰囲気の里は今まで訪れたことがない。


屋敷の客間に通された今でも、その景色に変わりはない。屋敷の門番や、女中、そこに住む人ですら優しい態度で接してくれている。それは目の前にいる族長さんと巫女さんも同じだ。


「ではサラサ様はその希望の民連合の発足するに辺り、我ら、ダークエルフ族にも参加を要請したいと仰っている訳ですね。」


真摯に私の話を聞いた族長さんが朗らかな笑みと共に語りかけてくる。


「うん、そうだよ。とりあえず一回みんなで集まってみて、詳しい話はそこからってことになってるけど、人間族や魔族の驚異やあと邪竜に対しても対抗策を模索していこうってことになってるよ。」


「つまり、まだ何も決まっていないってことですね?」


巫女さんが核心をついてくる。


「そうとも言う・・・。でも、こういうことって形式よりまずは行動を起こすことが大事だと思うんだよね。実際、停戦協定だって沢山の犠牲の上で締結された訳だし、今回もすぐ成功するとは言えないけど、でも成功するかわからないから動かないって言うなら、いつまでたっても成功に辿り着かないでしょ?」


「随分素直なお人だ。こういう場では嘘でもメリットだけを強調する方がいいでしょうに・・・。」


「もともとあたしは駆け引きとか出来ないから・・・。それにこの里の皆さんを見ていると、駆け引きとかするのはやめた方がいいと思ったんだよ。」


「ありがとうございます。それは里に対しての最高の誉め言葉です。実際、里の人々の人柄の良さは私たちとって誇りです。 」


巫女さんが胸を張る。はち切れそうだ。この場にゼロがいなくて本当によかった。この場にいたらまず確実に巫女さんが次の婚約者候補になっていただろうなぁ。


「で、返事が欲しいんだけど、どうかなぁ?」


「本当に困ったお人だ。こういう重要な案件はもう少し時間を掛けて返事を待つべきものですよ。」


「それもそうだね。」


「返答の前にいくつかご質問してもよろしいでしょうか?」


「もちろん。何でも聞いて。」


「では、遠慮なく。人間族の驚異と仰っておられましたが、あなたの愛しのゼロ様は人間族ではないのですか? なのになぜ、人間族に牙を向くような真似をするのですか?」


空気が変わる。穏やかな口調は変わっていないのに、空気が張りつめる。


「どこで、ゼロの情報を?」


「そんなに怖いお顔をしないでください。私たちの里はご存じの通りエルフ族と、ドワーフ族と言う強力な部族と太古の大樹の実をめぐって長い間争っています。しかし私たちは残念ながら戦闘能力では2部族に対抗できない。なので、情報と言う『武器』で戦うしかありません。だから、私たちは常にこの大陸のあらゆる出来事に注意を払っています。残念ながら人間族の土地や、魔族の土地の奥深くまでは探ることは出来ませんが、希望の民の里の出来事はある程度知覚している自負があります。」


「一体どうやって?」


「それは企業秘密です。ただ、私たちは鬼族と龍人族の争い、龍人族の武術大会、巨人族の悲劇、阿吽族の内紛、人魚族の危機、ケンタウロス族とゼロ様の抗争の情報を手に入れていることを先にお伝えします。その上で、再びお尋ねします。人間族のゼロ様がなぜ希望の民の為に動いているのか? そこに人間族の策略はないと言い切れるのですか?」


うーん、何だか難しい話になってきた。あたしの感覚だとこの人たちは駆け引きしてると言うより、本当に情報を欲しいんだけ何だと思う。けど、難しい情報戦とか出来ないから思ったことを言わしてもらう。


「ゼロはゼロだよ。人間族・・・なのかな? あたしは最近は気にしたことないけど、きっとそうかもね。でも、例えそうでも、人間族の思惑とか策略にゼロが関わってることはないよ。」


「どうして、そう言いきれるのですか?」


「うーん、信じてるからかな? それにゼロはこの連合を発足しようとした訳じゃなくて、巻き込まれてる方なんじゃないかな? ゼロはただ仲間たちを守りたいだけなんだと思うよ。まぁ、悔しいけどそこには人間族のもと奥さんや娘さんも含まれているんだろうけど・・・。」


・・・・・・・・・・


「「えっ!!!!!!!!!???????」」


「む、娘さんとかいるんですか? 」


「しかも離婚してるんですか?」


張りつめた空気が緩む。


「そっか、ゼロって他人から見れば最強の驚異になりうる存在だもんね。その行動原理が気になるのも納得だよ。でも、あれ、正直単細胞だよ。」


「単細胞!?」


「仮にも婚約者をそんな言い方しなくてもいいんじゃないの?」


「え、でも、ゼロって考えなしにお節介焼こうとして失敗したり、自分の力過信して死にかけたり、確かに力はすごいと思うけど、結構間抜けだよ。あれは絶対深いこと考えてないね。」


「ひどい、そこまで言わなくても・・・。」


2人はもうドン引きである。


「ああ、勘違いしないで、それでもあたしはゼロが大好きだから。」


「今の話のどこに好きになる要素が・・・。」


「うーん、人を好きになるのは要素とかじゃないでしょ? ゼロだから好き。それで充分だよ。」


「そう、かもしれませんね。では、こちらもあなたを信頼してゼロ様のことを詮索するのはやめておきます。ただ、もうひとつ、お聞きしたいことがあります。大樹の実について、どこまでのことを知って、どのようなつもりでこの里に近づいたのでしょうか?」


やっと、和んだら空気がまた張りつめる。もう疲れちゃったよ。


横を見ると興味無さそうにルークがあくびしていた。

あたしも早くゼロに会って眠りたい。

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