大樹の護り人 2
今回は弥生からの視点で話を書かせていただきます。
書いていてなんかちょっと新鮮でした。
~弥生目線~
ゼロ様と2人きりの行動は久しぶりな気がします。皆様とご一緒するのはもちろん楽しいですが、ゼロ様との2人きりの時間は格別です。頭に角のおもちゃを付けて鬼族らしく振る舞っておられますが、エルフ族が私たちと同じ様に相手の生命エネルギーを関知できるタイプだったら一目でバレてしまうと思い、少々不安です。ただ折角2人きりの時間を不意にしたくないので皆様には内緒にしておきました。
ゼロ様と楽しい時間を過ごし歩いていくと、エルフ族の門が見えて来ました。
「これより先は神聖なるエルフ族の里である。用件がある場合はその場で述べよ。」
サラサが言っていた通り、随分傲慢な種族なのかもしれません。叡知を持っているならもう少し謙虚に振る舞うことも出来ると思うのですが・・・。
「わたくしは鬼族の巫女、弥生と申します。希望の民連合という組織発足のお話をさせていただきたいのですが、族長様や巫女様にお目通り出来ませんでしょうか?」
わたくしは感情を圧し殺して極めて冷静にお返事させていただきます。
「そこで暫し待て。」
それだけ言い残して門番さんの一人が奥に消えていきました。暫くして戻ってきた門番さんの横には長く美しい金色の髪をした20歳位の美人さんが立っていました。そのあまりの美しさにわたくしですら息を飲んでしまいました。横を見ると予想通りに間抜けなお顔をしたゼロ様がいましたので、軽く頬をつねっておきました。
今度の婚約者はあの方になるのでしょうか? 英雄色を好むと言いますが、わたくしたちの英雄様はまさに天然女性ホイホイの様な方なので色々心配がつきません。
「まずは遠路はるばるご苦労と言っておこう。 余はこの里の長、セシル・オスジャル・ハマネンキース・ポッコ・ダニョース・トシュンカラス・サイトー・タマス・エスパニョーラ・カルパッチョ245世である。」
「これはご丁寧に有り難うございます。わたくしは鬼族の巫女、弥生でございます。今回は鬼族の使者としてではなく、希望の民連合の使者として参った次第でございます。」
どうやら美人さんは男性のようです。サラサがここにいれば『大好物なシチュエーション』と仰りそうですが、多分ゼロ様には男色の気はないでしょう。今回も男性と知ってショックを受けているはずです。
そう思い、ゼロ様を見ますが、何故か一生懸命笑いを我慢しておいでのようでした。やはり男色の気があるのでしょう?
「それで弥生とやら、エルフ族を抜きに希望の民連合と名乗る覚悟は出来ているのか?」
「それについてでございますが、わたくしどもはエルフ族の皆様にも連合に参加して頂きたいと思っております。」
「ふむ、面白い冗談だ。エルフ族がその連合に参加して、何かメリットがあると申すか?」
「もちろんでございます。情報の共有と有事の際の戦力的協力をお約束させていただきます。」
「ふっ、如何にも弱者の考えそうな連合だな。残念だが、その様な助け合いなど、我々には必要ない。」
ここまで上から目線だといい加減イライラしてきます。
「しかし、100年前に締結された不可侵条約には賛同して頂けたのではないでしょうか?」
「弱腰の先代が決めたことなど余にはかんけいないわ。もし、貴様の連合と言うものがエルフ族にとって邪魔になるなら100年前の条約など反故にして滅ぼしてくれる。」
もう参加していただかないほうがいい気さえしてきました。
「では、参加して頂く意志はないということで宜しいでしょうか?」
「いや、たったひとつだけ参加してやっても良い条件がある。」
もう、嫌な予感しかしませんが、一応聞いた方がいいでしょうか?
「その条件とは一体どんなものでございましょう?」
「太古の大樹の実を手に入れ、余に献上しろ。さすればエルフ族の名において貴様ら弱小の民を保護してやろう。」
もう、エルフ族は滅んでもいいんじゃないでしょうか?
「では、エルフ族にとって人間族や魔族は恐れるに足らない存在であるとカルパッチョ245世様は仰るのでございますね。」
プーーーー!!
緊迫した空気の中、ゼロ様が突然吹き出されました。カルパッチョ様の態度が流石に行き過ぎていて笑いすら我慢出来なくなってしまったのでしょうか? お気持ちは理解できますが、一応従者の設定なので注意させていただきます。
「失礼ですよ、真面目な交渉の場で笑い出すとは何事ですか?」
「し、失礼しま・・・プーーーー、いや、カルパッチョって・・・いえ、失礼しました。」
頑張って笑いを押さえようとしているみたいですが、どうやら収まる気配がありません。
門の上に立つエルフ族の雰囲気が傲慢さに殺気を伴うようになってきました。このままでは交渉が決裂どころか攻撃されてもおかしくありません。しかも何故か由緒正しい名前を笑っておいでです。これはエルフ族にとってもかなり侮辱的な行為でしょう。
ハッ!!
まさかゼロ様は交渉を成功に導く策があってわざと挑発しているのではないでしょうか? 聡明なゼロ様ですからそうに違いありません。わたくしは、小声でゼロ様にお尋ねします。
「ゼロ様がわざとエルフ族を挑発した後でどのように交渉を進めるべきでしょうか?」
「いや、わざとじゃないんでだ・・・クククク、いや、カルパッチョだけでも凄い破壊力なんだが、エスパニョーラと斎藤って、もう、国がどこだかはっきりしないけど、プーーーー、それにしてもよくカルパッチョ200何世って、一回聞いただけで覚えられるな!? 俺なんてもう結構はじめの方で笑いそうなの我慢してたけど、斎藤ってところで流石に・・・プーーーー。」
どうやらゼロ様に期待しすぎていたかもしれません。普段とんでもないことを平気でやってしまわれるからすぐ忘れてしまいますけど、初めてダンジョンに行ったときも死にかけたし、今まで行き当たりばったりの行動で、窮地に陥ってしまったことの方が多い人ですからね。まぁ、そこが可愛いところでもあるんですが。
さて、じゃあ、どうやってこの窮地をだっするべきでしょうか・・・。
「貴様、従者の分際で祖先から承ったこの名前を愚弄するか!? ええい、構わん、八つ裂きにしてしまえ。」
その瞬間、あり得ないほどのエネルギーがエルフ族に集まる。
古代の魔術。
エルフ族にだけ伝わる他の生物からエネルギーを集めて術を使用する、俗に言われる人間族の『魔法』と酷似した術。但し、人間族のそれとは違い、神の加護と言われるあやふやなものではなく、仲間から集める生命エネルギー等を使用できるのでその威力はその何倍とも言われている。
一瞬で、ゼロ様を炎が包み込む。
後に残ったのは、黒く燃えた地面だけだった。
「クククク、余を馬鹿にする愚か者は始末した。貴様も同じ目にあいたくなければ大樹の実を持って出直してこい!!」
偉そうなエルフ族の態度にもうこちらも我慢の限界です。
「ゼロ様、交渉決裂のようなので帰りましょう。」
つい、興奮してゼロ様の名前を呼んでしまいましたが、エルフ族の皆様もゼロ様のことは内密にしてくださるでしょう。
「もう少しカルパッチョ君と遊んでみたかったんだけど、まぁ、いいか。」
ガバッと後ろを振り返るエルフ族、そこで初めて族長の首に当てられていたナイフに気付く。
「おっと動くなよ。族長の首が吹き飛ぶぞ。」
いきなりエルフ族を脅しにかかるゼロ様、今度こそ策が・・・いえ、期待するのはやめましょう。
「さあ、帰るぞ。 エルフ族の民よ。もし、追撃がくれば族長を殺す。追撃が来ずに俺たちの安全が確保されれば族長は返そう。わかったな。」
動くに動けないエルフ族の門番たち。
わたくしたちは里の動きを警戒しながら距離を稼ぎ、約束通りに族長を解放致しました。
「貴様は絶対殺す。」
そう捨て台詞を吐いていったカルパッチョ様を不敵な笑顔で見送るゼロ様。
「どうしよう、ヤバイことになった・・・。」
そう、呟いていたのは聞かなかったことにしてあげますね。
次回はサラサ視点で話が進む予定です。
宜しくお願いします。




