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自由の代償と束縛 4

皆さんこんばんは、自ら引きこもりの道を選んだエリートニートのゼルダです。今日でここに引きこもってから9日目です。ベットが固いのと、トイレが部屋の片隅に申し訳程度のついたての後ろにあることと、飯が不味いことと、日が当たらないことと、話し相手がいないことと、外の情報が一切ないことと、やることがない以外は一切文句のない環境で暮らすことができてます。


そんな、私のエリート生活も明日で終わりを告げます。明日でいよいよ私がこの天国に移ってから10日目の約束の日です。この生活を捨てるのは気が引けますが、私にはやらなきゃいけないことがあるので仕方ありません。そう、明日発売の限定フィギュアを買うという使命が・・・!!


んなこたーない。


と、一人でボケていても虚しさが広がるだけだった。最低限の生活を保証された私の牢獄生活は間違いなく『最低限』の生活環境だった。土の上に申し訳程度に置かれた布の上で寝させられ、トイレは牢屋の中にある据え置き式、飯は3食変わらない固いパンに何の動物かわからない肉と人参っぽい野菜、太陽の光は当たらないので食事の時間で大体の時間を予想するしか出来ないし、看守に話しかけても無視しかされない上に、あれ以来族長も戦士長も会いに来ないので、これから私と戦う気があるのか、気が変わってファウナに会わせてくれる気になったのかもわからない。更に弥生たちもきちんと役目を果たしてくれたかもわからない。正直、情報が手に入らないのがここまで精神的不利を招くとは思わなかった。せめて、弥生たちとの連絡の手段を構築しておくべきだったか・・・。今更ながら後悔する。


元々今回の目的を果たすのにはこちらに不利な条件が揃っている。いや、揃えざるを得なかった。私の立場を公人から私人にするために、10日間の時間をケンタウロス族に与えてしまった。私の制約を外して『自由』になることで好きなように動ける様なる一方、ケンタウロス族は罠や策略をこの牢獄を中心に幾重にも張っているはずだ。この時点ですでにアドバンテージは向こうにある。そして、私の目的であるファウナと会うには彼女の居場所を見つけなければいけない。弥生のように居場所がわかるならまだしも、知らない土地で1人の人を見つけ出すのはほぼ不可能に近い、まぁ、しのぶかルークの嗅覚があれば別だが今回は私1人で解決しなくてはいけないため、どこか秘密の場所などに隠れていた場合、探し出すのは困難を極める。


フーって息を吐く。


「何を弱気になっているんだ、自分でも言ったじゃないか、自信があるかどうかじゃない、やるかやらないかだ。」


自分を奮い立たす為に声を出す。


その時、階段を下りて来る音が聞こえた。食事の時間は終わったばかりだ。


私は警戒モードに入る。


カツカツカツ。最後の階段を階段を降りて、その姿が露になる。


「よぉ、囚人番号2017番、気分はどうだ?」


男は私に気軽に話し掛ける。


「ああ、最高ですよ。でも、その囚人番号2017番って、何ですか? ここには俺しかいないし、その番号で呼ばれたのも初めてなんですが、意味あります?」


「その方が雰囲気が出るだろう?」


男はにやっと笑う。


「で、何の用ですかファーネスさん?」


そう、私に会いに来たのはファーネスだった。


「ああ、いよいよ明日、例の期日を迎えるが、ビビってないか見に来た。」


「ビビってなんて、いませんよ。そちらこそ、準備はいいのですか?」


「ビビってないことはないだろう? 自分を奮い立たす独り言が聞こえたぞ。」


ニマっと勝ち誇った満面の笑みが見える。あれを聞かれてたとか超恥ずかしいんですけど・・・。でも、悔しいから絶対に認めない。


「幻聴じゃないですか? 私はご覧の通り準備万端です。」


クックックと笑う、ファーネス。まぁ、こんな下手な言い訳されたら俺だって笑うだろう。でも、笑われる方が認めるよりマシだ。


「まぁ、そう言うことにしといてやるわ。」


「で、本当にそれだけの為に来たんですか?」


「ああ、そうだ。」


「では、もう満足でしょう。明日は早い。お引き取りください。」


「まぁ、そう言うな。少し話を聞かせてやるから・・・。」


結局、顔見に来ただけじゃないじゃん!!


「どういう風の吹き回しですか?」


「気まぐれだよ。どうせ暇だろ?」


間違いない。しかも、正直久しぶりに話が出来て相手がこんなおっさんでも嬉しい。


「はぁ。」


ため息を一つ吐く。


「よろしくお願いします。」


お願いするには癪だが、いい気分転換にはなるだろう。


「よし。昔々、この大陸がまだ邪悪なオーラに包まれる前の話。」


え、昔話始まるの?


「この世界を竜が治めていた時代。我ら希望の民も、人間族も、魔族も、まだ言葉を持たず、共に暮らしていた時代。邪竜と言われる一匹の竜がこの大陸中の生物を皆殺しにしようと企んだそうだ。理由は知らん、何かが気に食わなかったか、ただの暇潰しか、何れにせよ、その竜にはそれだけの力があった。」


いや、竜とか完全にファンタジー色強くなったんですけど・・・。


「元来『竜』とは、『知』に優れ、平和を愛する生き物だったらしい。そんな彼らは同族に虐殺されるワシらの祖先たちを見て、心を痛め、守ることを決めてくれそうじゃ。しかし、邪竜の力は全ての竜の力を凌駕し、1匹また1匹と竜たちは殺されていったそうだ。その戦いは100年に及び、竜たちは絶滅の危機に、ワシらの祖先も人口が10分の1になってしまったそうだ。100年と言っても、竜の寿命は長く、邪竜の力は年齢により衰えることもなく、寧ろ戦闘を通じて増しているぐらいだった。しかし、そこである変化が起こったらしい。ワシら希望の民の中に数人特殊な力を持つものが表れ、人間族と魔族は邪悪なオーラを手に入れそれぞれの土地に隠ってしまった。特殊な力を手に入れた数人の中の一人がケンタウロス族の初代巫女とされる、『ファンデファール』様だ。伝承によれば希望の民は竜族の生き残りと力をあわせ、邪竜を討伐した。」


邪竜の力に対抗するための『希望の民』は力を手に入れ、『人間族』と『魔族』は加護を手に入れたというわけか? まぁ、伝説とか伝承なのだろうから真実ではないかもしれないが、もとになる実話はあったのだろう。


「で、めでたしめでたしですか?」


「いや、邪竜の復活が竜族の生き残りによって予言されたそうだ。『数千年の眠りの後、邪竜は復活し、再びこの地を地獄に変えるだろう。』と。その後、竜族は長い眠りにつき、『希望の民』は散り散りになったそうだ。今ではこの予言を覚えている種族も少なくなっている上に、覚えている種族でもただの物語としてのみ語られていると聞く。しかし、ワシらケンタウロス族はこの過去の出来事を脈々と語り継ぎ、代々『力持つもの』は邪竜との戦いに備え、日々鍛練して過ごすことと決まっている。そこには一切の私情は許されない、それがワシらの里の歴史であり、誇りでもある。」


そう語るファーネスの顔は今にも泣き出しそうに見える。


「ゼロ。明日、ワシらは戦わざるを得ないだろう。しかし、覚えておけ。貴様が戦わなければいけないのは今語った『ワシらの歴史』だと言うことを。」


「はい、肝に命じておきます。」


「話に付き合わせて悪かったな。では、明日は正々堂々と戦おうではないか?」


全く、このおっさんは奥さんに言われたことを全く反省していないようだ。まぁ、正直、そう言うところ嫌いではないが。


「はい、では、明日。」


ファーネスの去っていく姿を見て私は決意を新たにする。


また負けられない理由が増えた。


私の中の臆病者はいつの間にか完全に消え去っていた。

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