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自由の代償と束縛 3

それまでにこやかだった族長からの『近づくな』勧告。ファウナの母親というなら心情はわからなくはないが・・・。


「ファースト様。それは先ほど仰っていた『敵意』がないと言うことと矛盾していませんか?」


弥生がファーストに疑問を呈する。


「勘違いさせてしまったのなら申し訳ございません。先ほど言った通り、私はゼロ様を尊敬こそしろ、『敵意』など持ち合わせておりません。これはファウナの母親としてではなく、ケンタウロス族族長の言葉としてお聞きください。」


「つまりは、個人の意思ではなく里の総意と捉えて構わないということですよね?」


「はい。その通りです。」


その方が余計に問題があるが、さて。


「申し訳ありませんが、ファウナさんに会わせては頂けないでしょうか? 彼女の口からきちんと理由を聞きたいのです。」


「残念ですが、それは許可できません。『二度と』と、言うのは『今』を含んだ未来を指していますので。」


「そうですか・・・残念です。」


私は本心を口にする。


「理由は? 理由ぐらい教えてくれても・・・ムグっ。」


慌てたサラサが『理由』を聞こうとするが、弥生がその口を塞ぐ。弥生は私の気持ちを本当によく汲んでくれる。


「連れが失礼しました。では、これ以上お話がないようなら、失礼させて頂こうと思いますがよろしいでしょうか?」


何かを察したのだろう、ファーストの顔から笑顔が消えた。


「お待ち下さい、ゼロ様。何をお考えでございますか?」


「そうですね。私が望むのは『ファウナさんの口から』きちんと彼女の気持ちと私たちから離れた理由を聞くことです。お招き頂いてこうして里に入れはしましたが、族長さんのお言葉が『ファウナに会うな』だけであるなら、これ以上、客人としてここにいる意味はありません。顔を洗って出直してくるとします。」


「つまりは、ファウナに会うために里を敵に回すと仰っているんということでよろしいでしょうか。」


「『敵』という言葉が正確かはわかりませんが、その可能性もあるでしょう。族長さんからの伝言では、『私が来るまではファウナを外に出すわけにはいかない』だったはずです。私はその言葉を信じてやって来ましたが、私が来ても『ファウナ』を外に出す気配がないどころか二度と会うなと仰るのでは、私としても『はい、そうですか』と言うわけにはいきません。ただ、ご存じの通り、私には今は立場というものがあるので、形式的にでも『連合』に色々な許可を頂かないといけないので・・・。」


「ワシらに脅しをかけるか? 竜人族だろうが鬼族だろうがワシらがその名を出せば引くと思ったか!! この腰抜けめ!! 連合上等じゃ、来るなら来い!!」


「ファーネスさん、私はケンタウロス族が連合の名を出せば引くとは思っていませんし、希望の民同士が争いになることは連合は望みません。私が許可を頂くのは『使者』としての立場を外して貰うことです。まぁ、許可と言っても、向こうが拒否したところで推しきるので、『一方的な伝達』と言うのが正しいと思いますけどね。」


ゴクリと息を飲むファーネス。


「では、一人で我らと戦うつもりと申すか?」


「戦いになるかどうかはわかりませんが、私がファウナと会うのを邪魔するならそうなるでしょう。」


「ワシらと戦って勝てると思っているのか?」


「『勝つ』必要は私にはないんですよ、私の目的は『会って話すこと』ですから。」


「ならば言い方を変えよう、ワシらを敵に回し、それでも目的を果たす自信があると言うのか?」


「ファーネスさん、自信があろうがなかろうが、『それ』はそんなに重要ではないでしょう。言葉遊びはやめましょう。要はやるかやらないかです。実際、ファーストさんとファーネスさんが私をファウナに会わせないと言うのは、私を止める『自信』があるからですか? まぁ、あるのかも知れませんが、それは逆に『自信』がなければ私をファウナに会わせてくれると言うことではないですよね? きっと会わせないですよね? 貴方たちにもきちんとした理由があり、譲れない思いがあるからこそ退くわけにはいかない。そうでしょ? どちらが正しいなんて知りませんし興味ありません。けど、お互い譲れないのなら、その思いはぶつけ合うしか道はないでしょう?」


「よし、ゼロ、その覚悟ワシが受け取った。次会うときは、お互い『敵』として・・・ハウっ。」


すごく話が盛り上がってきたところで、見事な横やりが飛んできた。まさかのハイキック一閃がファーネスのテンプルに決まる。不意打ちだったからか不明だが、ファーネスは意識を失った。と、言うか死んだかもしれない。


「あらあら、私は『控えなさい』と言ったはずですよ、ファーネス。これは極めて政治的な問題であって、気持ちが盛り上がったからと言って、勝手に『勝負』みたいな方向に持っていかないでください。」


ファーストの顔にはいつの間にか笑顔が戻っている。


「すみません、ゼロ様。先程お伝えした通り、私はゼロ様の『力』を疑っていません。ですから、里に脅威になるようなら、その前に排除しなければならなくなるのですよ・・・。」


ファーストはつまり一旦帰って準備されるより、この場で私たちを拘束ないし排除した方が手っ取り早いと『警告』しているのだ。きっと念のために兵士がこの客間の回りを包囲していたのだろう。


しかし・・・。


「ファーストさんはお優しいのですね。先に『警告』してくれるとは。」


若干、笑顔がいびつになる。


「個人的には出来ればファウナの友人にその様な手段は取りたくはないのですが、聞き入れてはくれませんか?」


「ファーストさん、あなたならわかっているでしょう、ここで『わかりました』と答えても、意味がないことを。」


そう、この場をやり過ごしてから口約束など反故にすればいいだけなのだから・・・。


「それでも、『わかった』と仰ってくれれば体裁は立ちます。」


再びファーストの顔が苦痛で歪む。


「体裁なんて糞食らえです。私は仲間の母親に嘘をつくような人間にはなりたくありません。ただ、このままここで戦闘が起こると私個人とケンタウロス族との問題とはいかなくなります。そこで提案なんですが、私を投獄しませんか? 10日後に私は脱獄しますがそれまでに弥生とサラサにはそれぞれの部族に戻って事情を説明して貰って私の職を解いてもらいます。そうすれば晴れて私は個人としてケンタウロス族に喧嘩を売れるし、連合とケンタウロス族の間にもしこりは残りません。更には脱獄と言ってもそちらにはそれを防ぐ方法を考える時間がとれます。まさに一石二鳥ではなく、一石三鳥だと思いませんか? あなたが真に里の事を考えるなら、私個人より連合を敵に回すことの方が『脅威』が大きいとおわかりになるはずです。」


「・・・よく、わかりました。その提案、お受けします。」


「ゼロ様、横からの口出しをお許しください。ファースト様、投獄されている間、ゼロ様への非人道的扱いを一切せず、一定水準以上の食事と寝床、及び暗殺者などからの警護を約束していただけますか? それ以外の場合、ゼロ様が許しても、わたくしはこの提案を認めません。」


弥生は過保護な気がするが、まぁ、当然の要求な気もする。


「約束いたしましょう。ただし、ゼロ殿の武器は没収させて頂くという条件を付け足させていただきます。」


「畏まりました。」


「と、言うわけで、契約成立だな。みんな、後は頼む。ファウナは絶対に連れて帰るから、大人しく竜人族の里で待っててくれ。」


「はい、ファウナ様のことよろしくお願い致します。」

「また留守番? 早く帰ってくるんだよ。」

「みんなのことは僕に任せてください。」

「ガウっ。」


こうして私は鬼族の里に続きまた牢屋生活に突入するのだった。あの時と違うのはルークが隣にいないことぐらいだ。


・・・寂しくなんて無いんだからっ!!

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