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自由の代償と束縛

新章始まりました。

「やっぱり、元奥さんは許してくれなかったんだね。」


ケンタウロス族の里の近くで仲間と合流したときに残念そうにかけられたこの言葉は私の顔に残った傷跡を見てサラサが発した言葉である。


「いや、もと妻とは前向きな話し合いが出来たよ。それは『やり直そう』ということではなく、お互い娘のためにもきちんと前を向いて進みましょうという感じだったけど・・・。娘も私を抱きしめてくれる程度には許してくれたよ。」


「では、現地で敵の強襲があったのでございますか?」


しのぶが続けざまに質問する。どうしてもこの顔の傷の原因を知りたいようだ。


「いや、『敵』というか、一騒動は相変わらず起こしてしまったが、手傷を負わされるような戦いにはならなかった。」


・・・。


みんなの視線が弥生に向く。何となく察したのだろう。


「違いますよ、皆さん。ゼロ様は滑って怪我をしてしまったのでございますよ。」


『違う』から入るあたり、自分が疑われていることはわかったのだろう。そして『滑って怪我をした』という、一見、『私は何もしてませんから』という、否定に聞こえこの言葉、実は巧妙に真実を話しているのだ。『ゼロ様は[口が]滑って[私を怒らせてグッチャグチャに殴られ]怪我をしてしまったのでございますよ。』と。この場の誰もがその事に気付いてはいただろうが、敢えて口にする『勇者』はこの中にはいなかった。みんなは『勇者』でいることより『賢者』でいることを選んだのだった。


「それより、ファウナを包んだ炎の様なものとは一体なんだったと思う?」


これ以上の詮索と微妙な空気を避けるために私は本題を切り出す。そう、『ファウナ』のことだ。ここに来るまでに弥生から聞いた話を簡潔にまとめるとこうだ。


私が離脱した後、竜人族の里に報告に行くか、そのまま別の里を訪問するかの話し合いののち、みんなはケンタウロス族の里を訪れることを選んだようだ。地理的にも竜人族の里への帰り道から少し外れるだけで辿り着ける為で、時間の短縮になるという判断からだったが、ファウナが異常なまでの反対を示したそうだ。同族である彼女がいれば話は少しはまとまりやすくなるとは思ってはいたが、明確な拒否を示す彼女を無理矢理つれていくのは流石に気が引けたらしい。そこでファウナには近くまでの案内をして貰って、里へは残りの者が行くということで話がついたらしい。嫌がりながらもここまで案内してくれた彼女だったが、突然、天空より飛来した矢が彼女を貫いたらしい。


『矢』とは言っているが、あくまで矢のような形をした『何か』であったらしく、貫かれた彼女の体には傷ひとつついていなかったそうだ。そして、貫かれた瞬間、矢のような『何か』が消え去り、ファウナが炎のような『何か』に包まれたそうだ。


わかっていることは、その『何か』がケンタウロス族の里の方角から飛んできたことと、貫かれたファウナは炎が消えた後、今まで以上の生命エネルギーを有するように変化したという事実だけだ。生命エネルギーは弥生が感知したので間違いないが、弥生曰く『今までとは比べ物にならないほどのエネルギー量で、レベルアップというよりは存在自体が昇華した様』だったそうだ。まるで、最長老様に潜在能力を引き出してもらった地球人で一番強い男の様に、生まれ変わった様な強さを手にいれたのかもしれない。


しかし、ここで問題になってくるのは、『それが何であったか』だ。まず、生命エネルギーを強化することは悪いことではないと思われる。副作用がでる可能性もあるが、わざわざ『敵』の生命エネルギーをあげる必要はないだろうし、ファウナが直後に発した『心配ない』と言う情報通り、『攻撃』であるとは考えにくい。次に『レベルアップの秘技』などの支援系の『術』であると仮定した場合、なぜこのタイミングで、そして、なぜファウナの場所がわかったかという疑問が残る。


疑問と言えば、その炎を纏ったファウナが諦めたように言った言葉もそうだ。


「これから私一人で里へ向かいます。皆さんは私がここに戻るまで待機するか、一旦、竜人族の里へお帰りください。必ず私からの連絡を届けますので、暫くご辛抱ください。しのぶ様、貴女の能力なら里の中を探れるとは思いますが、今回はご遠慮ください。今日より19日間はケンタウロス族以外の如何なる種族も里には入れなくなります。もし、このルールを破った場合、全ケンタウロス族が敵になるとお思いください。それから今日で私はこのパーティーから抜けさせて頂きます。今までありがとうございました。」


それまで死ぬほど嫌がっていた里への帰郷。そして、仲間への警告。全ケンタウロス族という言い方は『私を含め』という意味であろう。最近は『変態色』が強すぎて忘れがちだが、彼女は元々『高潔無比』を地で行くような戦士だった。初めて会った『武術大会』の時はケンタウロス族の為に竜人族との縁を結ぶという事に全力を尽くすという姿勢であり、竜人族の為に私を滅するという覚悟で私との戦いに挑むほど、部族の事を大切に思っていた。


まぁ、それがなんやかんやで、あんなになってはしまったが、今でも部族の事は大切に思っているに違いない。


そして、パーティーからの離脱。


「ファウナは俺に伝言を残したか?」


「いいえ。」


私は覚悟を決める。


「そうか・・・。じゃあ、取り敢えず、族長さんのお呼び出しに応じて会いに行くしかないな。『連絡を届ける』? いやいや、届けるんじゃなくて、お前の口からきちんと全部説明しろって、一緒にファウナに伝えに行くぞ!! 19日まで後何日だ?」


「今日が19日目だから、計算上は明日入れるよ。」


「じゃあ、 明日、みんなで乗り込むぞ。」


「はい。」

「うん。」

「御意。」

「ガウっ。」


そこまで長い時間一緒にいたわけではないし、お互いのことを全て知っているわけでもない。でも、死線を共に潜り抜け、共に笑い、共に泣いて築いた絆をファウナは甘く見すぎだ。どんな事情があろうと、絶対にもう一度彼女に会ってやる!! 私は、いや、私たちはその思いを強くするのであった。

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