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救世主と偽りの信仰 7

違うんです、『神様』!!


本当は『誘拐』なんてするつもりはなかったんです。ちょっと悪役演じたのがすごく楽しかったので調子に乗っちゃったせいで、なんだか取り返しのつかない醜態をさらしてしまった気分です。


まず、最初の誤算は『救世主様』が強制的に私を排除しようとした使徒の皆さんを止めたことです。話をしに来た私を『力]で強制的に排除しようとして返り討ちにすれば、それだけで教会の威信が下がるはずで、そこに『討論』で教会の矛盾をついて信用をなくさせる計画が、『誘拐』って、これじゃあ『力」技に出たのどう考えても私の方だし、『討論』も『救世主様』の言い分に納得した的な言い回しちゃったし、結果的に集会とやらは解散に追い込んだけど、布教活動による信者の獲得に失敗させるどころか、手助けになる可能性すら出てきた感じがする。だって、あんな変な『悪役』に対しても紳士に向き合う『救世主様』の対応と主張は素晴らしかったんですもの!!


嬉々として『悪役』を演じた自分を振り返り、ひとしきり反省はしてみたものの覆水盆に還らずだよなぁ。流石に『救世主誘拐』なんて事件にまで発展すれば『ロキ』の耳に話が届く可能性も高いし、あいつのことだから犯人が私である可能性も考慮するだろう、そうするとティアの潜伏先がシーズの町だと推測され、下手したらルナの存在がヤツにバレる。はぁ、本当に失敗した。


グルグルグルグル嫌な想像ばかりが頭を廻る。


「どうしました『救世仮面』さん。用がないなら早く解放して欲しいのですが・・・。」


そう、後悔もあるが、もう1つの頭痛の種が『これ』だ。連れ去ってきてからも『救世主様』の態度が一切ぶれないこと。この態度を見ると本当に『救世主』なんじゃないかと思えてくる。もう少し取り乱して、悪事を告白して命乞いでもしてくれれば助かるのだが、終始落ち着いて私に解放を要求するのみである。


「話がしたいのなら応じます。それが終わったらきちんと解放してください。私には使命がありますので。」


この状況が理解できていないのか、それとも『救世主』を演じることが助かる唯一の道と思っているのか・・・。


「え~と、『救世主様』、もうそういう演技はやめていいですよ。」


「演技と言うのは・・・?」


「いや、だから『救世主』であることですよ。」


「あなたがどう思おうが、これは演技ではなくて『事実』です。」


・・・どうやら、意地でも設定を守るらしい。


「わかりました。では、幾つかお話を聞かせてください。」


こうなったら攻め方を変えるまでだ。


「どうぞ。」


「『救世主様」はいつどこでお生まれになって、いつ『神』にお仕えするお立場になったのでございますか?」


設定の粗を見つけ出してやる。じっちゃんの名に懸けて!!


「生まれた場所はわかりません。私たちはいわゆる『捨て子』だったので・・・。育ったのは亜人の領域近くの小さな村の教会で孤児として育てられました。残念ながら、その村は私たちが小さいときに襲撃を受けて滅んでしまいましたが・・・。姉と弟と私以外の住民はその時殺されてしまったそうです。私たちは運命の導きによって生き延びました。」


いきなりハードな設定来たぁ!! これは否定しづらい。何せ、この手の話は本当にこの世界ではありうるからだ。


「その後、私たちは3人で助け合い成長しました。そんなある日、姉が不思議なことをいい始めました。『神の声が聞こえた』と。愚かだった私も弟も始めは姉の言葉を信じませんでした。なぜなら『神』を敬って、私たちを育ててくださった教会は『神』の助けなく神父様を含めこの世から消えてしまったのですから、『神』を再び信じる気には正直なれなかったのです。」


いや、この生い立ち話、『神』を否定してる辺り、とても作り話な感じはしないんですけど・・・。


「私と弟は姉を説得し、人前で『神』の話をするのをやめるようにお願いしました。姉も始めは頑なに断っていましたが、徐々にその話はしなくなっていきました。きっと人々の反応に嫌気がさしたのもあると思います。話を聞いた殆どの人が姉を蔑んだからです。姉が『神』の話をしなくなってから数年がたった頃、弟が重い病気にかかってしまいました。治療には莫大な治療費がかかるため、私たちにはどうすることも出来ませんでした。すると突然、『神の声が聞こえる』と、再び言い出した姉が突然姿を消してしまいました。」


うん、何かこれ、世界なんとか劇場とかに出て来そうな悲劇的な展開になってきたんですけど・・・。


「数日後、姉が帰ってきました。それも薬を持ってです。弟はその薬でみるみる元気になりました。しかし、不思議に思った私たちは姉にどこで薬を手に入れたかを質問しました。姉はそれを『神様からの贈り物』と伝え、再び『神』の話を語り出しました。姉が言うには世の中には偽物の神が沢山存在しするが『真の神』は一人であること。そして、神が仰るには、審判の時が近づいていて、沢山の人々を救うには『救世主』になり人々を導く者が必要だということでした。最後に姉は私と弟にこう言いました『あなたたちが世界の救世主になるの。』と。」


これお姉ちゃんがめっちゃ怖いんですけど。薬どっから手に入れたのさ? 絶対ヤバイ薬だってそれ!!


「それから私たちは真実を伝える旅に出ました。私たちには始めは何もありませんでした。心ない言葉も多数浴びせられました。姉以外に『神』の声が聞こえる人がいなかったのも原因だと思います。当時の私にも『神』の言葉は聞こえませんでしたので、仕方のないことです。風向きが変わったのが、12使徒の一人でもあるパイロンが同士になった頃でした。彼は貴族なのですが、姉の話に熱心に耳を傾け、私たちと行動をともにするようになりました。そこからの私たちは順風満帆に信者を増やすこととなりました。そんな中、次の転機が訪れます。弟が再び病気にかかり、旅を続けられなくなります。悲しい出来事でしたが、それは『神』が与えた試練だとすぐにわかりました。なぜなら弟が旅から離れてすぐに私に『神の声』が聞こえるようになったからです。」


「『神』の声ですか? 『神』はなんと仰っていたんですか?」


「『救世主』として、『神』の代弁者の仕事を完遂せよと仰いました。それは今も変わりません。」


「お姉さまは今も声をお聞きになれるのですか?」


「いいえ、『救世主』として私が目覚めてからは声は聞こえなくなったと言っています。」


「そうですか。」


もう、『そうですか』ぐらいしか言えない・・・。 ん、ちょっと待てよ?


「今の話だと『治癒の力』をどうやって手にいれたかが出てきていないんですが・・・。」


「『治癒の力』は実は『神』から授かったものは12人の使徒を集め終えた時、つまり、半年前です。夢の中に『神』が現れて12人揃えた褒美に『力』を授けると仰られたのです。」


いよいよ核心に近づいてきた。


「『力』の内容は『神』は仰っていたのですか?」


「ええ、『治癒の力』と仰っていました。」


「では、使い方は?」


「いえ、それは聞いてはいませんでしたが、姉や仲間とともに探求しました。それを探求することも『神』の試練と私たちはとらえました。」


やっぱりな。


もし私の考えが正しいなら、この自称『救世主様』の完璧なまでの『救世主』の立ち振舞いの理由、それは彼自身が自分を『救世主』であると信じているからに他ならない。


つまり、この『救世主様』は傀儡で、叩かなければいけない相手は他にいる!!

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