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救世主と偽りの信仰 6

さて、本来だったらこのまま全員ぶっ飛ばしちゃうのもありなんだが、『サーナ』がいるとなるとなぁ・・・。とりあえず、討論会に持ち込むように努力しようかな。


「『疾風のサーナ』とやら、対話を望むものに武力を持って答えるのが、『聖天救世教会』のやり方なんですか? それとも私の疑問に答えきる自信がないので有耶無耶にしようとしているのですか?」


「そもそも断りもなく土足で我らが舞台にあがるだけで、万死に値する。我らが『神』を侮辱するに等しいその行為、死をもって償うがいい。」


刀を抜くサーナ。やれやれ、完全に自分に酔っている感じがして痛々しい。これは今は説得している余裕は無さそうだ。


「侮辱したものをも愛しなさいと『神様』は仰らなかったのか? 随分心の狭い奴なんだな、お前たちの『神』とやらは。」


その挑発に11人が激昂し、武器を取り私に襲いかかる。


「待ちなさい。」


その声は決して大きくは無かったが、妙に心地いい音色を含んでいた。11人は慌てて動きを止める。


「『救世仮面』とやら、私が救うのは『世界』ではない、『信者』だ。回復の奇跡はこの世に縛り付けられている間、より精進できる心と体を与える為の手助けに過ぎない。」


「これはこれは救世主様、お言葉を聞けて感謝します。ですが、『世界』を救わないとは一体どの様な意味でしょうか?」


「先程、私の同胞が伝えた通り、私たちの使命は審判の時、より多くの人々を約束の地へ導くこと。それの審判の時までにより多くの人々を我らが『神』を信じる正しき民に生まれ変わらせることです。この世界はすでに崩壊の道を歩み始めています。それは『神』の意思で、変えることは不可能です。わかりましたか?」


「つまり、それはこの世界は無意味ですって言ってるのか?」


イラッとして、つい口調が悪くなる。


「それはあなた次第です。あなたが我らが『神』を信じるならば、それが意味になるのです。」


「言い直そう。『神』を信じる行い以外は全て無意味だと?」


「その通りです。だから、私たちが意味のない『生』を意味のある『生』に変えて回っているのです。これが私たちの『救済』です。」


「それでも、『神』を信じないやつらは沢山いると思うけど・・・。」


「残念ながら、それもまた『真実』です。しかし、私たちにできる行為は正しい道を説くことのみです。それを否定する人たちは残念ですが審判の時に後悔することになるでしょうが、それは当然の報いと言えるでしょう。」


「まぁ、大体わかりましたよ。でも、私はあなたの『神』を全否定します。」


「残念です。さぁ、話は終わりですね。異教徒はここから去ってください。」


「断ります。」


「困りましたね。話には応じました。それなのに『去らない』とは、まだ何か要求がおありですか?」


「ああ。『救世主様』の主張はわかりました、が、それが『真実』である証拠を聞いていません。是非、この異教徒に回復以外の『奇跡』をお見せ願えませんか? 実は私、回復魔法というものを別の地で見たことが御座いまして、それが奇跡とは思えないもので・・・。」


「先程も言いましたが、『信じる』『信じない』は個人の判断の委ねられていて、それは私たちの預かり知らぬことです。道を説く以外は私には出来ません。回復を奇跡とするかもあなたの判断です。もし、本当にあなたが見たことがあるなら、それも『奇跡』だったのかも知れませんし。」


「つまり、自分が無能であると公言しているということでよろしいか?」


「貴様、いい加減にその口を閉じろ!! 『救世主様』もお下がりください、このような輩にこれ以上付き合う必要もありません。」


サーナが我慢できずに横から口を挟む。そろそろ頃合いかな?


「やれやれ、まずは役立たずの使徒の皆さんが、役立たずと証明することから始めましょうか?」


口では凄い上から目線で言っているが、正直、結構警戒してます。ここでへまをして捕まったりすると私の正体がバレて、『ロキ』にもティアの居場所がわかってしまう可能性がある。


「『救世主様』、排除の許可を。」


「いけません。『力』を行使するのは守る時のみ、自ら誰かを傷つけるのは『悪行』です。」


「しかし、これ以上『救世主様』への侮辱は許される行為ではありません。」


「許す許さないはあなたが決めるのではないのですよ、サーナ。あなたの忠誠心は有り難く思いますが、人を許すも許さないを決めれるのは『神』のみです。」


「失礼いたしました。」


使徒たちがここで、戦闘体制を解除する。こちらとしては向かってきてくれた方が有り難かったんだが仕方ない。


「流石は『救世主様』。もう少し、その『神』のお話を詳しく聞いていたくなりましたよ。しかし、ここでは邪魔が多すぎる。2人きりになれる場所へ参りましょう。」


私はそう言うと、電光石火の動きで『救世主様』に向かって走る。その動きをとらえることができたものはその場には皆無だった。


「はい、では、今日の集会とやらは解散です。『救世主様』と私『救世仮面』は今からデートなので、邪魔したり、後を追ってこないようにしてください。」


肩にロープぐるぐる巻かれた『救世主様』を背負いながら私はみんなに警告する。


「えっと、そこの男に伝言だ。3日前の山小屋での『約束』をきちんと守れ、そうしたら『救世主様』もお前たちの手元に帰って来るだろう。それ以外の如何なるアプローチも禁ずる。わかったな?」


目を丸くする男。


「それかここに集まっている群衆皆さん。残念ですが、今日はこれで解散になります。また『救世主様』のお話が聞けるように、大人しく家に帰ってください。無能の12人使徒の皆さん、ご指導の方よろしくお願いします。」


そう言うと私は魔道具を取り出し、光を炸裂させる。


群衆の視界が戻る頃には舞台に『救世主様』も『救世仮面』も姿が消えていた。



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