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救世主と偽りの信仰 4

その日は久しぶりに家族水入らずの時間を過ごした。昼食にティアの手作りパスタを食べた後、買い物へ・・・。ルナが山のようなおねだりをしてきたのだが、つい全て買ってしまった。夕方には家に帰って甘辛チキンを食べた。やはりこの料理は世界で一番美味しいと心から思った。家族と一緒に食べたから余計に美味しく感じたのかもしれないが・・・。食事の間もルナは止まることなく喋り続けた。普段だったら必ずティアが怒っていただろうが、今日ばかりは多目に見てくれたようだ。そのままルナは喋り疲れて早くに眠ってしまった。


「さて、これからの事を話し合いたいんだが・・・。」


静かになったリビングで、私がおもむろに口を開く。


「ルナは私が命に代えても守るから、あなたはまずは『希望の民』の救済でもしてきなさい。それから、たまにはきちんとルナに会いに来るのよ。」


「守るって言うけど、相手は『ロキ』だぞ。どんな手を使ってくるかもわからない、本当に何かしら手を打たないで大丈夫か?」


「大丈夫。昔の仲間の『ロキ』を警戒する気持ちはわかるけど、もっと昔の妻『ティア』を信頼したらどう?」


得意気にティアが言う。


「信頼はしてるよ。でも、心配なんだ。」


「全くあなたは本当に天然ジゴロね。とりあえず『今』はそんなに心配する必要はないと私は思う。何せ王国は『聖天救世教会』への対応で手一杯だから。『ロキ』に限ってこちらに今ちょっかいを出して火傷するような愚策は実行しないはずよ。」


「教会への対応?」


「そうよ。良くも悪くも教会は力を付け過ぎたの。王国の許可を貰って布教活動を行っていた頃は良かったんだけど、最近じゃあ国王の政策にも口を出す程の発言力を持ち始めたみたい。ここから先は推測だけど、教会は王政を廃してこの国の実権を手中に収めようとしているわ。そして、確実にそれを実現する『力』を備えつつある。対して国王はそれを防ぐためにできるだけ早く難癖を付けて、『邪教』認定し武力でこれを制圧しようとしてるはずよ。」


「まぁ、権力者の有りがちな抗争ってところか・・・。」


「そうね。どっちもバカみたいだけど、結局被害が出て苦しむのは私たち一般人。国王と救世主で一騎討ちでもして決着付けてくれればいいのに。」


「ああ、そうだな。あれ? そう言えば、お前やけに『救世主』を見下してるけど・・・。」


「ああ、それね、実はちょっと前に知り合いが入信するしないで家族と揉めたときに、教団について調べたのよ。そしたら『奇跡』を唱っているあの『回復』が真っ赤な嘘でただの演技って言うのがわかったの。まぁ、この世にないとされている『回復魔法』って時点で怪しいとは思ってはいたんだけど・・・。」


「えーと、ティアさん。『救世主』の奇跡が偽りなのは同意ですけど、『回復魔法』は存在するので、固定概念には捕らわれないようにしてください。」


「え? それって本当?」


「ああ、俺が鬼族に助けて貰ったって話、あれ、実は『回復魔法』によるものなんだ。まぁ、正確には『魔法』じゃなくて『術』らしいけど・・・。」


「はぁ~。全く、私たちの冒険って一体なんだったのかしらね? 『魔王討伐』するために世界を巡り、莫大な知識を得て世界を救ったつもりだったのに、世界は変わらなかったどころか手に入れた知識すら本当に世界の真理の一部だったなんて・・・。」


「全くその通りだよ。世界は未知で溢れている。また、冒険したくなった?」


「そうね。それも悪くはないと思うけど、私は今それ以上にワクワクして、嬉しくなる体験をしているから、お断りするわ。」


「それって・・・?」


「子育て。毎日見てるのに次から次に私の知らない一面をルナは見せてくれるの。もう、それが嬉しくって仕方がない。ま、あなたには退屈な生活かもしれないけど、私にはかけがえのない宝物なの。勘違いしないで、浮気したことはとにかく、あなたが冒険することは大賛成。だって、あなたは本当に『救世主』になりうる器だと私は信じてるから。」


誉めてるんだかけなしているんだか、本当にわからない言葉を送られる。


「それに『希望の民』だけじゃなく『魔族』とも関わる気なんでしょ? だったらここで歩みを止めてる場合じゃないわよ。」


全く、こいつには本当に敵わない。そう、私は『希望の民』の問題が解決したら、『魔族』とも接触したいと思っている。言葉は今は通じないかもしれないが、可能性はゼロではない。私は自分がした『魔王討伐』が本当はどんな意味を持つ行為だったのかを知りたいと思っている。


「ま、俺が『救世主』になることないと思うけどな。だって、誰を何から救済するか全くわかってないんだから。このまま進むと俺がなれるのって『亜人の王』とかじゃない? そのうち『勇者ご一行様』に討伐される対象になる気がするけど・・・。」


「それならそれでもいいんじゃない? あなたはどうせ自分が信じる道しか進む気がないんだろうから。それで討伐されるなら本望でしょ?」


いやいや、討伐されて本望な訳がない。


が、ティアの言うことも的を得ている気がする。もともと『異世界』出身の私には、種族など関係ないのだから。


「どうせ世界最強のあなたが殺されることはないんだろうけど、無事を祈っておいてあげるわ。そして、いつの日かあなたがもとの世界に戻れる様に・・・。」


ちょっと待ったああああああああ!!


「え、今、何と仰いました?」


「はぁ~。やっぱり気付いてないと思っていたのね、異世界人のゼルダさん。」


・・・。


「いつから、気づいてた?」


「まず、それ? 言う言葉が違うんじゃない。」


「う・・・。黙っててごめんなさい。」


「よろしい。おかしいと思ったのは最初に出会った日よ。この世界の住人で『加護』を感じない人なんて存在しないわ。確信を持ったのは結婚する前夜、あなたが大事な話があるって言い出して、急に止めたあの日よ。大体、あなたには『勇気』と『信頼』が足らないのよ、異世界人だとわかって私があなたのことを嫌いになると思うの?」


「正直、思ってました。だから、怖くて・・・。」


「でしょうね。でも、私はそれぐらいじゃあなたを嫌いにならない。『浮気されても』まだ信頼出来るほどにはね。」


「その節は、本当に申し訳ありませんでした。」


「まぁ、夫婦には戻れないけど『ルナ』を介した家族なのは変わらないんだから、これからはもっと『信頼』してね。」


「ああ。」


別れた妻と、未来の話をするって言うのは変な気分だ。申し訳なさと嬉しさが複雑に絡み合っている。


「で、そんな浮気男さんにお願いがあります。」


この流れは嫌な予感しかしないが、断れるはずがない。


「聖天救世教会のこの町での布教活動を失敗させてほしいの。」


「わかった。って、言おうとしたけどそれってかなりの『無茶な』お願いじゃない? しかも王国の手助けをすると『ロキ』の危険性が増すと思うんだけど。」


「この町で失敗したぐらいじゃ教会はびくともしないわ。それよりも知り合いが騙されて人生を台無しにされる方が嫌だもの。」


結局、こいつの性格は昔から全然変わっていない。『好きな人たちを守る』それだけだ。たぶん、そこに私は惹かれたんだと思う。


「はぁ~、わかったよ。でも、作戦はあるのか?」


「ないわ。」


「でしょうね。お前も洞察力とかは天下一品なのに、俺と同じ行き当たりばったりで何とかしよう大作戦が大好きだったからな。『ロキ』がいないと俺たちは確実に全滅してたと今でも思うよ。」


「そうね。」


「いや、『そうね』じゃないからね!? いいか、出来ることはするが、ルナとお前に危険が迫るような行動は一切禁止だ。それだけは先に約束しろ、いいな?」


「全く、浮気したことを棚にあげてよくそんだけ上からものが言えますこと・・・。でも、まぁ、いいわ。ルナと私に危険が及ぶような行動は一切取りません。約束します。私は浮気男と違って約束を破りません。」


かなりの攻撃でダメージを負ったが、顔には出さない。心は折れかかっているが・・・。


が、こうして、『最悪の事態』を避けるだけにしようとした『教会との一件』も結局はがっつり絡むこととなりそうである。きっと私はそういう星の下に生まれたんだろう。もしくは『ゼルダ』という名前が次々に試練を呼び込むに違いない。だって、あれほど拐われたり襲われたりする王女は他には『桃』の名前を冠するあの人しか思いつかないもん。

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