表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/100

救世主と偽りの信仰 2

ブックマークしてくださっている皆さん、ありがとうございます。登録が50を越えました(2027年10月9日現在)。

続けて読んでくださっている皆様に楽しんで読んで頂けるような物語を紡ぎたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。

山小屋の1日の後、集団は町に消えていった。


「さて、どうしたもんか。」


私は独り言のような問いをルークに投げ掛ける。彼はあくびでそれに答える。どうやら興味はないようだ。実際今回の『救世主様』は偽物の様だが、私が町にのこのこ降りていって『彼は偽物』だ、信じてはいけないと言ったところで私の言葉を信じるものはいないだろう。かと、言ってさっきの人たちを説得して『演技』をするのをやめさせると、彼らと彼らの家族に危険が及ぶ。本当に『どうしたもんか。』と言う状況である。しかし、このまま無視するのも何か心がザワザワする。自己満足かもしれないが、とりあえず『最悪の事態』を回避する手立ては打っておくことにしよう。


さて、それはそれ、これはこれと言うことで、最初の目的を達成しなければ・・・。


1日を無駄にしてしまった私はまず町の様子を見るため比較的活気のない町の南地区から侵入することにした。するとそこには思いもよらぬ光景が広がっていた。


人、人、人である。


人口1万人の町にそれ以上の観光客が訪れているかの様に、町には人が溢れている。『観光客』と一纏めにしたが、そのうちの10分の1程度の人は同じ服装に身を包んでいる。


そう、山小屋で見た『あの男たち』と同じローブを纏っているのだ。


よくある『エセ新興宗教団』だと思っていたが、どうやらことは私にとっても大問題な事件に発展しそうな様相を呈してきた。間違いないとは思いつつ、町の住民にこの状況を確認する。


「すみません、この町に溢れている人たちって・・・。」


「え? お客さん、『救世主様』を人目見るためにこの町を訪れたんじゃないの? それは運が良かったね。噂じゃあ、数日中に『聖天救世教会』の『救世主様』がこの町に降臨なさるそうだ。まぁ、私は宗教には興味がないんだけど、おかげで商品の売り上げがこんなに上がるなら毎月1回『救世主様』が来てくれると有難いんだけど・・・。」


どうやらやはり最悪の事態に陥ってしまったようだ。


『聖天救世教会』とは、今、爆発的に信徒を増やしているこの王国最大の宗教で、サーナが身を寄せたと言われた場所だ。勿論、山小屋の一件だけでこの宗教全てが『偽宗教』と断言するには気が早いが、もし『あの男』が教会の上の方の人間なら、間違いなくこの宗教は人を『救済』するどころか「騙す』事を目的として活動している『金儲け集団』だろう。


だが、これで元妻への接触は幾分簡単になったと言えるだろう。『救世主様』が来る前にまずは目的を達成しておこう。そうすれば、『サーナ』の事を含め宗教に集中できる。


私は街角で『救世主様』の演説を行っている青年の横でローブを売っている少女から『聖天救世教会ローブ』を買い取る。付いているフードを被ればあら不思議、『浮気最低男』から『宗教家の人』に変身できるという優れものです。町の至るところに同じような人がいるため、顔をじっと見られる以外『私』と見破られることはないだろう。


私はそのまま旧我が家へ歩を進める。自分で言っておいて『旧』とか付けると落ち込む。


どうやら家には誰もいないようだ。それはそうだ。この時間はルナは学校だろうし、ティアは家庭教師の仕事だろう。彼女は放課後の家庭教師の他に学校に行くことが出来ない子どもたちにも授業を行っている。その場で帰りを待っていてもいいのだが、不審者が待ち伏せをしていたと噂になっても迷惑だろうから、その場を去ろうとする・・・が、家を追い出された時に持ち出せなかった、ルナから誕生日に貰った『赤い石』の事が無性に気になった。骨董屋で見つけたらしいが、もちろん石の価値はゼロだろうが、私にとってはプライスレス。取りに帰ろうかな・・・そんな誘惑に襲われたとき、


「動かないでください。我が家に何かご用ですか?」


穏やかな口調だが、強い意思を感じる、懐かしい声が背中から聞こえた。幾ら感傷に浸っていたからと言って私の背後1メートルまで近づける手練れはこの世界にはそうはいない。私は泣きそうになるのを堪えて答える。


「すまない。本当は2度と会わないつもりだったんだが、不測の事態が起きてしまって・・・。会わせる顔がないのは重々承知なのだが、出来れば2人きりで話がしたいんだが・・・。」


色々、再会のパターンを想定していたのだが、まさかこんな風にいきなり出会うとは・・・。心の準備が出来ていないまま、私は元妻との再会を果たした。


「ゼルダ!?」


心の準備が出来ていないのは勿論向こうも同じだろう。浮気して町を追い出された元夫がいきなり宗教用ローブを来て家の目の前にたっているのだから。


「言いたいことは山ほどあるのはわかる。でも、お前とルナの為にとりあえず話を聞いてくれ。」


「わかった。とりあえず中に入るわよ。」


困惑の色は隠せないがどうやらこちらの真剣具合を感じ取って話だけは聞いてくれる気になってくれたらしい。私は客人とし我が家に入るという切ない経験をした。家に入ると客間のカーテンをティナが閉める。


「あんまり、いい話じゃないわよね。あれから全く音沙汰がなかったあなたがそんなに真剣な顔で私に会いに来るぐらいだから・・・。その服装と関係があるの?」


どうやらこのローブを見て宗教絡みの問題と思ったらしい・・・。


「いや、この服はお前に会いに来る為に色々作戦をだな・・・。」


「回りくどいことしないで普通に来ればいいのよ。近所の人も誰もあなたのことなんて覚えてないわよ。自意識過剰なのよ。」


「面目ない。」


「まぁ、でも安心したわ。つい最近も知り合いが入信するっていう話で家族と揉めたばっかりなの。それに・・・と、まぁ、宗教じゃないなら、一体何の問題が起きたの?」


「実はロキに会った。」


私はかしこまった口調で驚愕の事実を告げる。


「そう。それで?」


彼女は驚かない。むしろその驚かなさに私が驚く程だ。


「いや、『それで?」って、死んだはずの戦友が生きてたんだぞ? もっと驚いてもいいんじゃないかと・・・。」


「あら、驚かせたかったの? 私はゼルダと違って彼を『戦友』と思ったことはないの、彼が国王の手先なのには気付いていたから。レジスタンスを組織したって聞いたときは少し見直したんだけど、結局その組織が壊滅したときに『やっぱり』って思ったわ。壊滅させたのは『ロキ』でしょ? 処刑されたことになってるけど、それはフェイクで今は仮面かなんか被って行動でもしてるんじゃない?」


正に千里眼。まるでこの間の出来事を見ていたかの様にズバズバ真実を当ててくる。


「はい。その通りです。」


「ああ、そうか、それで彼となんかしらで敵対関係になって、『私』が弱味として拉致や拷問されるんじゃないかと心配になったと。ルナも存在を知られてはいないはずだけど、ひょっとして・・・って、感じかしら?」


うん、この人、本当に天才としか言いようがない。


「はい、その通りです。」


「でも、何で敵対なんてしたの? 女関係?」


これは嫌味だろうか? 苦笑いしか出来ない。


私はロキと出会うまでの事を大雑把にティアに話す。女婿関係のことは勿論省略しました。


「亜人・・・『希望の民』の言葉がわかるって、本当、あなたは一体感何なの?」


「いや、何なのって言われても・・・。」


「まぁいいわ。問題は亜人・・・『希望の民』も私たちと同じ様に、感情と理性があり、部族を守るために生活してるってことよね。それって・・・魔族も・・・。私たちの成したことって・・・。」


それ以上言葉は発しなかったが、彼女の言いたかったことはこうだろう。


『魔族も感情や理性があり、私たちと違いがないのではないだろうか? つまり私たちの成したこと『魔王討伐』はただの人殺しだったのではないかと・・・。」


これは希望の民と関わり、触れ合うなかで私の心にずっと引っ掛かっている疑問であり、懸念である。


「ティア、気持ちはわかるが今は身の安全を・・・。」


バタン。


玄関のドアが閉まる音が聞こえた。


「ただいまー。」


どうやらルナが帰ってきたようだ。凄く会いたい、会いたくて会いたくて仕方ないが、


私はとりあえず情景反射的に『秘密部屋』に滑り込んだ。


この家の『秘密部屋』も出番が来てさぞ喜んでいるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ