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人魚の里と赤い悪魔 14

「ゼロ様、そこへ座ってくださいませ。」


突然ですが、私は弥生以下数名に正座を強要されています。


「何で、あたしたちが怒っているかわかってるよね?」


正直思い当たることが多過ぎて、『勿論です。』と、答えられない私がいます。


「ご主人様、鼻の下が延びまくって、スケベなことを考えているのが丸分かりです。」


否定はしない。あの幻想的な夜が明けてから数日。私は美女の人魚さんたちに誘われて連日楽しい日々を過ごしていた。いや、誘われてって言ってもあくまでも遊びにであり、『一線は越えてません。』


「御館様、どんな拷問で情報を吐くのがお好みですか?」


あれ? しのぶのキャラがちょっと崩壊してるんだけど? え? どSキャラじゃないよね?


チラッとルークを見るが、我関せずを貫いている。


「えーと、昨日の事・・・。」


と、言いかけるが、みんなの鋭い眼差しが『違う」と物語っている。


「えっと、じゃあ、一昨日の・・・。」


「「「「「全部。」」」」」


綺麗にハモった回答が返ってくる。まぁ、そうだよね。でも、人魚の園の水中に時間制限なしでいられるとかって、浦島太郎じゃなくたってそりゃあ時間を忘れて過ごしちゃうと思いませんか?


「ゼロ様、元気がお戻りになったのは大変喜ばしいことでございますが、あんまりお痛が過ぎると、『お仕置き』ですよ。」


段々、弥生がドク◯ベー様に見えてきた。


「今回の許嫁はアリスタだけで十分だよ。」


「いやいやちょっと待て、俺はアリスタには何も手を出していないぞ。」


「ご主人様、『アリスタには』の『には』って言うのは白状しているのと同義でございます。」


「あー、えーと、ごめんごめん。誰にも手を出していないぞ、俺は!!」


「御館様。もう、諦めて罰を受けてください。僕たちも御館様の女癖の悪さは諦めたから・・・。」


「いや、本当だって・・・。本当に・・・記憶にございません!!」


政治家のような言い訳をした私がその後どういう目に遭ったかはR15の為、自重します。


私のお尻の痛みが治まるころ、サラサの言葉が気になってきた。本当にアリスタには手を出していないのだが、『秘術』を使ってもらったということは、これまた『族長』的なあれの話になるんじゃないだろうか・・・と。


確認の為に、アリスタに会いに行くことに決めた。しかし、みんなの疑いの眼差しが怖いのでサラサを連れていくことにした。まぁ、これでサラサの誤解も解けるし一石二鳥であろう。


宮殿に辿り着くまでにも美人の人魚さんたちに沢山話しかけられが、その度にムフフな顔になっていたようで、サラサに耳を思いっきり引っ張られ強制的に急がさせられた。


「アリスター、来たよー。」


「サラサー。待ってたよー。」


こいつら会話だけ聞いてると女子高生の親友にしか見えない。


「ゼロちゃんも来る頃だと思ってたよ。」


アリスタの口調を聞いているととてもこの間あの幻想的な儀式を執り行った巫女には見えない。


「アリスタさん、今日は『秘術』についてきちんとお話を伺いたく・・・。」


プイッと横を向くアリスタ。多分敬語を使ったからだ。面倒さっ!!


「アリスタ、『秘術』について教えて?」


ニマっと笑うアリスタ。


「いいよ、何でも聞いて。」


「いや、一応、長老さんたちには話通しておいた方がよくない?」


何せ里の機密事項だ。アリスタの一存で話していい範囲を大きく越えるだろう。


「大丈夫。もう許可は取ってあるから。『後は若いもんに・・・』って、長老様言ってたし・・・。」


なにそのお見合いの退出するご両親的な挨拶。


「ま、まぁ、許可をとってるならいいけど・・・。じゃあ、単刀直入に聞くけど、『秘術』って、水中で息が出来るようにしたり、泳ぎの能力を飛躍的に高める術だよね?」


「うーん、一応伝わっているのでは、『人魚族の能力を授ける』って『術』らしいよ。よく知らないけど・・・。」


ん?


「人魚族の『秘術』なのに巫女のアリスタが知らないの?」


「私だけじゃなくて、長老様もジュゴンも、物知りマンタも、ムー博士も知らないよ。」


後半2人は初めて聞く名前だが、まぁ、名前から察するに博識の2人なんだろう。


「それは、一体どうして?」


「だって、歴史上『秘術』が使われたことは1回しかないらしいから。」


「と、言うと?」


「ゼロちゃん、おバカさんだね。どうしてわからないかな? 人魚族の私たちに『人魚族の能力を授ける』って、本当に意味のない術なんだよ!? それに一生に一回しか使えないから、使う『時』を見極められないんだよ普通は。」


く・・・言われて納得はするが、バカと言われるいわれはないはずだ。


「ええと、確認なんだけど、『秘術』の有効期間とかってあるの?」


「掛けられた本人が死ぬまで術は有効らしいよ。」


つまり地上最強だけでなく水中においても私は最強の力を手にいれたと言うわけ・・・っと、いけない。油断や過信はもうこりごりだ。いずれにせよ、水中でも戦う能力を手にしたようだ。


「それで、副作用や『頭領』になれ的な見返りは・・・。」


「副作用は聞いたことないけど、まぁ、出たらごめんね。」


軽っ!! もっと慎重に考えようよ。


「で、見返りは・・・もうもらったよ。だって、里を救ってくれたじゃん。」


「いや、だから、それは・・・。」


「いいの。人魚族は元々の長老様たちがまとめてる里だから、『頭領』なんて制度ないし、一緒に精霊送りしてくれただけで十分だよ。これも人魚族みんなで決めたの『英雄様』から見返りなんてもらえないって。」


「アリスタ・・・。」


「で、『薬』の見返りの件なのですが・・・。」


ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ。


ちょっと、今、すごく言い流れで綺麗にこの章も終わりかけてたのに、ここに来て『見返り」!? 話が180度変わってません?


「ええと、薬と言うのは、毒を中和してくれたあの赤い飲み物だよね?」


「そ、私の血。」


「そっか、あれ、アリスタの血だったのか・・・・。」


ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!


ここに来て驚愕の事実を突きつけられるとは想像だにしなかったんですが。『血』って、わしゃバンパイアかっ!! 確かに人魚の肉は不老長寿を授けるとかってファンタジー世界ではよくある話しだけど、『血』は解毒の効果があるのだろうか?


「私たちの血には浄化の力が備わっているらしいの。それで毒を持っている魚とか貝とかを間違って食べた人には『血』を飲ませる習慣があったんだけど・・・。」


「アリスタ。『だけど』の後の点点点が凄く怖いんですけど、ひょっとして蛇の毒も『多分』解毒できるんじゃないかなぁって言う感じっだった?」


「うん、その通り!!」


いや、アリスタさん。親指を上にあげて『Good』ってポーズ取ってるけど、下手したら俺が死んでたどころか、湖の解毒が出来ずに人魚族も全滅してた可能性だってあったんですけど・・・。まぁ、結果的にはその浅はかな判断ですべて救われたんだが・・・納得したくない、自分がいる。


「で、その見返りってのは?」


「アリスタも許嫁になりたいんだよね?」


サラサが余計な事を言ってくる。


「ううん、そうじゃなくて・・・。」


どうやらアリスタはサラサたちと違ってまともな感性の持ち主らしい。


「現地妻にしてください。」


いやああああああああ、もっとまともじゃなかったあああああああ!!


「現地妻って、意味わかってるのか!?」


「勿論。私はこの湖から出ることは出来ないから一緒にいることは出来ないけど、たまに会いに来て一緒にいてほしい・・・です。」


いや、何か、そんな切ないこと言われるとおじさん『ギュー』ってしたくなる。チラッと、サラサを見てみる。


「大丈夫だよ、ゼロ。もうみんなアリスタが許嫁になることは承認済みだから。」


こらこら本人抜きでなんちゅー話を進めてんだ・・・って、結局みんなの推測通りにことが運ぶのでは、私にはなにも言う権利がないが・・・。


意を決してそっとアリスタを抱き締める。


「まぁ、なんだ。サラサから聞いてるかもしれないけど、色々問題が解決したら必ず会いに来るから、それまでは保留ってことで許してくれ。」


「はい。」


嬉しそうなアリスタ。


「あたしも一緒に『ギュー』ってするー。」


サラサがそこに加わり、変な抱擁の時間が流れる。


「ああ、それとアリスタ。里の場所だが変えるわけにはいかないのか?」


「やっぱりゼロちゃんもそう思う?」


「ああ、ロキにここがばれている以上、再び襲撃してくる可能性は大いにある。」


「だよね。でも、私を含めて地上に出れない人魚族はこの湖で暮らすことしか出来ないんだよ。大丈夫、今回で色々学んだから、次はゼロちゃんたちの力を借りなくても絶対に里を守るから!!」


「そうか・・・。俺も何か出来ることがあるか考えてみるよ。」


「うん。」


本当は私が残れればいいのかもしれないが、いつ襲ってくるかもわからない人間族の為に連合結成が遅れるのは本末転倒だ。今、私に出来ることは出来るだけ早く連合を結成させることだろう。


私は決意を新たにし、翌日、人魚族の里を発つことを決めた。

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