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魔族討伐遠征 5

町に帰った私たちがまずしたことは戦死者の埋葬だ。


この国も一般的に魂と言うものが信じられており、天国や地獄というものの概念がある。最近良く聞くなんとか教は、最後の審判の時に神様を信じていたものだけが天国へ行けると言う、もとの世界でも一般的に広がっているあの宗教みたいな教えらしい。神様ならケチ臭いこと言わずに、みんな救ってくれればいいのに。ちなみに私は無神論者だが、世界の始まりの始まりのことをグルグル考えて、始まりという概念に捕らわれている時点で答えは出ないんだろうと諦めた中学生時代を経て、人の形をしているかはわからないけど、超常現象的な力のことを「神」と、呼ぶなら存在すると思っている。ただし、それが人を救ってくれるかは別としてだが。


埋葬が終わったとき、隊長さんが私の所に来てポツリと言った。


「あなたなら、あの時、二人を・・・いや、何でもない。すまない。私たちを救ってくれてありがとう。」


隊長さんが言いたかったことはわかる。


「あなたなら、あの時、二人を助けられたのではないだろうか。」だ。


彼女の推測は正しい。勿論、私には彼らを助けることも出来た。しかし、しなかった。正直、自分の力を見せ、正体がばれる危険を侵すことを避けるという選択を、彼らの命より優先したのだ。私は自分が正義だと思っていない。今の圧倒的な力を手に入れてからも、正義の為にその力を使ったことはない。魔王を討伐したのもただ友人の為だった。その友人が世界に裏切られてからは、更に正義という響きに難色を示すようになった。


ただ、彼らが死んだのは私が助けなかったからだけではない。彼ら自身の力が足りなかったからだ。領主が撤退を認めなかったからだ。隊長さんがその指示に従ったからだ。そして、彼女の力が彼らを守るには足らなかったからだ。


誰かを恨んで、自分の責任を認めなければ、心は楽になるかも知れないが、次に同じことがあっても、また同じ結果に終わるだろう。彼女は、それがわかって、途中で言葉を飲み込んだのだろう。彼女は強くなる。願わくば、次に何かが起きたとき彼女1人で乗り越えられる強さを手に入れられることを。そして、フラグの回収が今夜出来ることを。


そう言えば、気になることがある。彼女が帰り道に持っていた小さな木箱がなくなっていることだ。町に着いてから直ぐにここに来たため、どこかに置いてくることは出来なかったはずなのだが。まぁ、彼女は、慌てた素振りを見せないので大丈夫なのだろう。


埋葬の次はいよいよお待ちかねの報酬だ。今回の魔族討伐において、最高の功績をあげたのは間違いなく私だ。全8体の魔族のうち4体を討伐、うち1体はあの上位魔族である。ひょっとして満額の金貨100枚を貰えるんじゃないかと内心バクバクである。何でも個別の功績計算があるらしく、屋敷の部屋で待機しているように命じられた。ここでも、食事には手をつけない。待っている間、部下Aがお礼に現れたが、隊長さんが部屋を尋ねてくることはなかった。


部屋がノックされ、侍女が謁見の間に案内する。謁見の間という響きだけで偉そうな気がする。武器を兵に預け、中に入る。そこに領主はまだいない。弓使いが来るまで待つように言い渡され、仕方なく畏まった感じで待つことにする。1分後ぐらいに弓使いが入ってくる。相変わらず変な形の弓だ。畏まった風の私も後ろで、彼も畏まった風のポーズを取っている。相変わらず何を考えているのかわからないやつだ。


弓使いが入場して直ぐに、領主が入ってきた。偉そうだ。


「まずは双方、今回の魔族討伐ご苦労であった。特に仮面の男、主の活躍は聞いた。皆を救ってくれたこと感謝する。で、どうじゃ、ワシの下で働く気はないか。主ならこの町の警護責任者として取り立ててもいいと、ワシは思っておるのじゃが。」


「有り難きお言葉ですが、慎んでお断りさせていただきます。」


「なぜじゃ、ワシの力があれば主の前科などは帳消しにしてやれる。悪い話じゃないであろうに。」


「勿体ないお話でございますが、私には今の気ままな生活があっています。私より適任な者を登用くださいませ。」


「上位魔族を討ち取る主より適任なものなどおらん。考え直してくれんか。」


このジジィ、いつまでこの話題を引っ張るつもりなんだろうか。早いとこ報酬を貰いたいんだが。


「申し訳ございません。」


「そうか、残念じゃ。では、スニース。」


領主がそう言った瞬間、後ろから矢が飛んできた。矢は私の肩口をかすめ、壁に突き刺さる。


「申し訳わけありません、仮面の剣士殿。命を救ってくれたことには感謝いたします。しかし、あなたの力はあまりにも強大すぎます。領主様の軍門に降らないなら、排除するしかないのでございます。それにしても見事な身のこなしですね、私は肩を射抜くつもりだったのにかすめるだけとは。」


「弓使い、お前は。」


「私は領主様を裏からお支えさせて頂くもの。言わば、この領地の守護者です。」


「なるほど。で、この程度で俺が屈するとでも思っているのか。」


「屈させる必要はありません。もう終わっているので。」


ここでようやく私は遠征中の事件を思い出す。


「毒か。」


「正解です。ちなみに解毒剤はありません。心配しなくても大丈夫。苦しまずに死ねますよ。」


始めからこのつもりだったのだろう、犯罪者らしき者を集めて魔族討伐、使い捨ての駒の為、死んでも構わない。成功できるほどの腕があれば登用し、断れば殺す。強力な駒が手に入るか危険分子を処分できる。なるほど理にかなっている。しかし、隊長さんはこのような手段を見過ごすような性格ではないはずだ。と、言うことは。


「死ぬ前に教えろ、隊長さんたちは、どうなる。」


「死ぬ時に他人の心配とはお優しい。安心してください。彼女たちはこれからも使い捨ての駒として活用してあげますよ。それこそ死ぬまでね。正義感の強すぎる駒はこちらも扱いに困りましてね。危険地帯に送り込む以外に活用法がないんですよ。」


「つまり、彼女たちはこの事を知らないと言うことか。」


「勿論ですよ。正義の心の塊のような彼女がこんな方法を許すわけないじゃないですか。」


「なるほど合点が言った。」


「安心してください。彼女には戦いの時に受けた爪に毒があったらしく、容態が急変したと伝えておきますよ。」


私はここで床に倒れ込む。


「さあ、英雄殿を医務室へ。大した治療も出来ませんがせめてベッドの上でお眠りください。」

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