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人魚の里と赤い悪魔 9

朝早くテントを出発した私は昼過ぎに敵の偵察部隊と接触することに成功した。接触という言葉は適切でないかもしれない、実際は捕縛された。そして、そのまま敵の本体へと連行される。


「怪しい男を発見したので連行して参りました。」


偵察隊の1人が本隊に向かって報告をした時、私は内心で焦っていた。彼らは全員、王国の紋章入りの深紅の鎧を着ていたからだ。


『レッドヒーローズ』部隊。戦国時代で俗に言う『赤備え』で、精鋭部隊で構成された王国最強の部隊。『魔王討伐の功績により、将軍の地位についた英雄の為に設立された部隊。つまり最悪なことにその部隊を率いるのは『魔王討伐を果たした王国の英雄様』だ。まぁ、それは世間一般における認識で、私にとっては『魔王討伐の功を国王から無理矢理押し付けられて、英雄に祭り上げられた男』な訳だが、問題はそこではなく更に彼が『私の仲間の敵』という点だ。実際にその場に居合わせたわけではないので本当かどうかわからないが、話によると彼がレジスタンスを組織していた私の仲間とその一味を捕まえたらしい。また魔王の時と同じように『功』を押し付けられたのかは知らないが、その2つの『功』で彼は『英雄』の立場を揺るぎないものとした。


彼ならひょっとして私のことに気づいてしまうかもしれない。そうなると情報を聞き出すどころかいきなり500人の精鋭と戦闘に入ることとなる。後手に回りたくないから、このまま先制攻撃しちゃおうかな? でも、あれから10年以上経ってるし、気づかない可能性もあるしなぁ・・・。


「隊長様が直接尋問するそうだ。連れていけ。」


考えがまとまる前に相変わらず事態が動いてしまう。優柔不断の性格をどうにかしなければなぁ・・・などと考えつつ隊長の前に引きずり出される。


「ほー、貴様がこの亜人のエリアにたった一人でいたという変な男か?」


隊長が興味深そうにこっちを値踏みする。こちらからはマスクを被った隊長の顔は見えない。


「変な・・・とは、滅相もない。私はしがない奴隷商人です。ここの近くで人魚を見たという情報があったもので探索に来ていたところ、大きな軍隊を見つけたので、近づいたらいきなり拘束されたという次第でございます。」


「ここが神の加護が届かない土地だというのは知っているな? 私たちの部隊さえ慎重に進まなければ進めないこの危険地帯に探索などと本気で言っているのか?」


「本気ですとも、人魚の奴隷は高く売れます。それこそ一生遊んで暮らせるぐらい。私は人魚を見つけて一生楽に過ごしたいのです!!」


「なるほど。しかし貴様、荷物はどうした? まさか、その軽装でここまで来た訳じゃあるまい?」


「それが崖から落としてしまって・・・。荷物を探そうとしていたところこちらの軍隊を見つけまして。しかし、軍の皆様はなぜこの様なところへ?」


ちょっとわざとらしかったかもしれないが、探りを入れる。


「国家気密なものでな。どこの馬の骨とわからないやつに言うわけにはいかんな。」


『言うわけにはいかんな。』とか、言いつつ、国家のプロジェクトであることを言ってしまう悪役。こういうやつって物語になんでよくいるんだろう? やっぱり作者が話を進めやすくするためかな?


「そうでございますか。では、取り敢えず解放していただくわけには・・・。」


「よかろう。では最後の質問にきちんと答えられたら解放してやろう。心して答えよ。」


このパターンってどんな答えしても『よし、では解放してやろう。この世界からな!!』って結局殺されるパターンのやつじゃない? まぁ、戦わなきゃいけない相手のことがわかっただけで良しとするか。あとは、精鋭部隊500人との戦いに勝てるかだが・・・。


「ゼルダ、ティアは元気にしてるのか?」


私はあまりの出来事に声を失う。敵は私の正体だけではなく、妻の名前まで知っていたのだ。全身を緊張させ、臨戦態勢をとる。


「よせよせ、お前と戦う気はない。全く冗談の通じないやつだな。」


そう言うと、彼はマスクで隠されていた素顔を晒す。


そこには死んだはずの仲間『ロキ』の顔があった。


「ロキ!? お前、処刑されたんじゃなかったのか?」


「どうだ? ビックリしただろ!? まぁ、俺もこんなところでお前に会えるとは思ってなかったからお前を見たときは心臓が飛び出るかと思ったぞ。」


ロキ。かつての勇者一行の一人。国家反逆罪に問われたあと、王政廃止を訴えレジスタンスを組織し、処刑された大罪人。


「ロキ、お前じゃあ、始めからからかってたの?」


「ああ、もう奴隷商人ですなんて言い出したときは笑いをこらえるので精一杯だったよ。」


「そっちこそ史上最悪の犯罪者の一人がどうして王国最強部隊の隊長なんてやっているんだ?」


「ああ、この部隊ってもともと俺のために設立された部隊だから・・・。」


「えっと、急に意味がわからなくなったんですけど?」


『レッドヒーローズ』は『魔王討伐』の功績を称えるために新設された部隊のはずだ。


「もともと俺って王国の情報局の人間だったわけ。そんで、その能力をかわれて『騎士団内部の反乱分子の摘発』の為に騎士団に潜入したんだけど、まぁ、有り余る才能で瞬く間に剣の腕も開花し、『王国一の剣士』なんて呼ばれるようになったわけだ。そんで、そんな時に『勇者一行の行動を監視せよ』って任務が上から降りてきて、お前たちの仲間になったわけだ。」


「嫌な予感しかしないが、つまりもともと国王の犬だったってことだよな?」


「そ、で、『勇者』様に国王暗殺の意思があったからそれを国王に報告したと言うわけだ。」


頭の中が真っ白になり怒りが込み上げてくる。


「それって、お前が俺たちを売って『英雄』になったって話だよな? よくもそんなことを俺の前で堂々と言えるな。」


「売ったって言うのは違うな。もともと俺の仕事はお前たちの監視だ。ただ、国王が早とちりして、『勇者』だけじゃなくお前たちまで『犯罪者』にしたのには流石の俺もビビったよ。下手したらお前たち3人と国王軍で戦争だ。国王はお前たちのあのバカみたいな強さを知らないからそんな事をしたんだろうが、俺からしたら王国が滅ぶかもしれないような大事だ。数年がかりで国王を説得してお前たち2人を無罪とするのには骨が折れたよ。」


どうやら、追っ手が来なくなったのには、ロキの暗躍があったらしい。それだったらもっと早くいってくれれば隠れるような生活をすることもなかったのに・・・。だが、しかし、


「つまり、俺たちは間違って・・・と、いうか、国王が原因で犯罪者にしたてあげられたが、『勇者』は違う。そう言いたいわけだな。」


「ああ、そうだ。あの時間違いなく『勇者』は国王暗殺を企てた。つまり、お前たちは『国王』ではなく『勇者』に裏切られたんだ!!」


「いやロキ、そんなにビシッと新事実を突きつけてやったってどや顔しなくていいから。相変わらず話術が巧みなようだが、『勇者』が俺たちを裏切ったかどうかは関係なく、『国王』は俺たちを殺そうとしてるからね。」


「やっぱり、誤魔化せないか。まぁ、仕方ないか。」


「それより、その話が事実だと仮定すると、レジスタンスを組織したのも・・・。」


「そ、反抗組織を一網打尽にするため。勇者一行の名前は本当に便利で、国内のレジスタンスはほぼ壊滅に追い込めたと思っているよ。ま、顔と名前が売れ過ぎたから、『処刑された』ってことにして、顔と名前を隠して暮らしてるけどな。あ、ちなみに今の偽名は『グレン』なんでよろしく。」


『今の』ということ『昔のロキ』も偽名なんだろう。一緒に旅していたときから『仲間』と思ってくれていなかったとか少し泣きそうなんですけど・・・。


「『勇者』は今どこにいるのか知ってるのか?」


「知ってても、『知ってる』とは答えないのわかってて聞いてるだろ? そっちもどうせ『勇者』の話は本当かって知りたいだろうけど聞かないのは聞いても俺が『本当だ』としか言わないのがわかってるからだろ。それが嘘か本当かは別にして。」


確かにその通りだ。『本当』と『嘘』なんてこの場で確認できることは何もない。またひとつ『勇者』に会わなければいけない理由ができた。


「さて、じゃあ、本当だったら再会を喜びあって昔の武勇を語り合いたいところだけど、どうやらお互いそうも言ってられないよな、ゼルダ?」


飄々としていたロキが場の空気を変える。周りの兵士もロキが纏った空気の重さに気づいたようで、武器を持つ手に力が入っている。


どうやら簡単に解決出来る問題ではなくなってしまったらしい。

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