人魚の里と赤い悪魔 6
さて、簡単に証明と言ったけど、『赤潮』の証明ってどうすれば良いんだ? 『異世界』という胡散臭い情報元を明かさない場合出来ることと言えば、1、『赤潮』の原因がプランクトンによるものだと証明する。2、人魚族の3人の死と魚の大量死が酸欠であると証明する。3、環境改善で『赤潮』の発生を抑えられると証明する。
うーん、1を証明すると言っても、相手が目に見えない極小の生物の場合、「はい、これですよ。」とは言えないよね? 2は、まぁ、逆説的に考えれば証明できるが個人的にはあまり好ましくない方法な上に人魚族の協力が不可欠だ。3は、もし頻発の原因が今までの環境の積み重ねが飽和状態を越えたからと言うなら、証明のしようがない。先程話題に上がった川の上流に最近変化があったことを祈るのみだ。いや、祈って良いのか悪いのか複雑なところだが、事象の証明と言う意味では『あってくれた方が』助かる。最悪4の面倒だから『赤い悪魔』をぶっ倒す。って言うので言っても良いかもしれない。赤い原因が密集度であるのなら、水流で拡散すれば色は消え、見た目は倒したように見えるだろうし・・・でも、拡散して一旦消えた後で細胞分裂をするプランクトンが大量発生して『赤潮』の範囲が広がったらそれこそ『赤い悪魔』が起こったと言われて目も当てられない結果になってしまう。ん、待てよ、良いこと思い付いたぞ。この方法なら1は少なくとも解決しそうだ。
よし、方向は決まった。
「しのぶ、まずはどの川が例の問題がある川か臭いで探しだし、ルークとともに上流へ行き、原因を究明してくれ。ルークも頼むぞ。」
「はい、御館様。」
「ガウっ。」
そう言うとしのぶとルークは風のように去っていった。うちの情報収集部隊は文字通り『鼻が利く』から、大丈夫だろう。
「サラサはアリスタを探して、私たちを信頼して実験に協力してくれる人たちを探してくれ。必要な人材は『結界を張れる』人魚と『水を操れる』人魚、そして『俺と一緒に泳いでくれる』人魚だ。よろしく頼む。」
「うん、わかった・・・って、言うと思った? 何、最後の『俺と一緒に泳いでくれる』って、絶対個人の趣味入ってるじゃん!!」
「ゼロ様、まさかここでも女性の物色に力を注ぐおつもりですか?」
「いやいや、本当に必要なんだって!! 出来れば物怖じしない性格の人魚が良い。」
「流石ご主人様。性格にも注文をお付けになられるなんて、まさに『ゲスの極み』!!」
もう勝手にしろ。こいつら人の言うこと聞きやしない。
「じゃあ、それで良いから行ってこい。」
ぶつくさ文句を言いながらサラサが湖に入っていく。
「さて、弥生とファウナはこれからテントを作るぞ。寝床の役目も含めるつもりだから、少し豪華な感じのものを作ろう。」
「寝床の役目を含むと言うことは、一番の使用目的は他にあると言うことでございますね。」
「ああ、そうだ。万が一に備えてだがな。ただし寝床も柔らかい方がいい。湖の中で寝れない俺たちは結局そこで寝るしかないからな。」
「わかりました。」
夕刻までに湖畔のテントは出来上がった。我ながらまぁまぁの出来だ。さてと、今日出来ることはサラサの帰りを待つことぐらいか・・・。ん? 夕飯の支度忘れてぁあああ!!
「ゼロー、ご飯もらってきたよ。」
でかしたサラサ!! 湖から上がったサラサは大量の魚を持っている。
「よし、焚き火で炙ろう!!」
私たちは焚き火の準備をすると、魚の内蔵を取り除き、焼き始める。いい匂いがする頃には人魚たちに囲まれていた。
「何してるの?」
「魚乾かしてるの?」
「新鮮な魚の方が美味しいよ。」
「美味しそうな魚、勿体ないよ。」
どうやら人魚族の習慣として『焼く』という調理法は存在しないようだ。
「これは地上の私たちが魚を美味しく食べるために編み出した『調理』と言うものなんだよ。」
私は優しく人魚たちに話しかける。
「ええー、不味そう。」
「変な臭いするよ。」
「美味しいよ。ほら、じゃあ、一口食べてみるか?」
私は優しく進めてみる。
「やだ。」
「生の魚だったら貰うけど、それはちょっと。」
焼き魚を食べさせてあげようとしたら、蜘蛛の子を散らすようにさっきまで興味津々だった人魚が全員逃げていきやがった。全く人の好意を無下にしやがって・・・。まぁ、人魚に焼き魚の美味しさがわかるかはわからないので、無理矢理食べさすのは勘弁しておいてやる。やがて全ての魚を食べ終わり、一つのことを思い出した。しのぶとルークの分をとっておくことを忘れてしまったことに・・・。『まぁ、今日中に帰って来ないかもしれないからいいか。』と、取り敢えず私は内心申し訳ないと思いつつも自分に言い聞かせた。
「サラサ、それで協力してくれる人たちは何人ぐらい集まりそうだ?」
「うーんと、100人ぐらいじゃない?」
え、そんなに? 礼節をわきまえていないから外交に向いていないなんてとんでもない。どうやらサラサは『和』を結ぶことにたけているらしい。
「ありがとう。それで、その人たちに一回ここに来てもらうことは可能か?」
2本足になれない人魚にも来てもらいやすいように、私たちのテントは湖から2メートルも離れていないところに入り口を設置してある。
「うん、みんなご飯食べたら来るって言ってたよ。」
「そうか。」
根回しも完璧だ。今度から外交はサラサに任せようかな?
「ヤッホー、サラサにゼロちゃん、遊びに来たよー。」
まさかのいきなりの巫女の登場だ。
「ひょっとして巫女様も・・・。」
「うん、アリスタも手伝ってくれるって。」
長老が首を縦に振ってくれるかはわからないが、率先して巫女が参加してくれるのは有難い。彼女の口からポジティブな言葉を発してもらえれば信用を得やすくなるだろう。
「サラサちゃーん。」
「あーそーぼー。」
「来たよー。」
次々と湖から顔を出す人魚たち。まさか、ここが噂の竜宮城か!?
痛っ!!
どうやら鼻の下が伸びていたらしく、弥生に結構な強さで足を踏まれた。
ほぼ全員が集まったと思うので、これからの作戦を伝える。
「今回は私たちの為に集まっていただき、ありがとうございます。」
「ゼーローちゃーん、敬語は禁止。」
アリスタがすぐにちゃちをいれる。
「ええ、今日は来てくれてありがとう。これから『赤い悪魔』掃討作戦の全容を伝えるけど、こっちの作戦に少しでも不安がある人は参加しないようにしてくれると助かる。俺たちの今回の一番の目標は『和睦』なんで、それの障害になりそうなことは極力避けたいから、よろしく。」
人魚たちは目をキラキラして聞き入っている。人魚が好奇心旺盛というのは本当らしい。
私はその後、作戦について事細かに話した。
「と、言うことで、作戦は以上なんだけど、質問がある人いる?」
敬語で話せないことがこんなに辛いとは思わなかった。状況説明などは敬語の方がものすごく伝えやすいことに今更ながら気付く。
「ゼロちゃん、その泳ぐ役目、私がやってもいい?」
「それに関してはなんとも言えないなぁ。長老さんたちがいいって言ったらいいよ。じゃないと外交問題になるからね。」
「わかった。」
こうして、私たちは入念な計画をたてて、次の日を迎えることとなった。




