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人魚の里と赤い悪魔 5

まさかサラサと友達になった子が人魚族の巫女とは・・・。懐に警戒されることなく入って来たのが、こちらの手の内を探ることを目的としていたならばほんわかとした雰囲気とは異なり、策略家としての一面を持っているのだが、


「よろしくねー、ゼロちゃん。」


などと、話しかけてくるのを見ている限り、そこまで考えているようには思えない・・・かな?


「こちらこそ、よろしくお願いします。挨拶が遅れて申し訳ありません。すでにご存じのようですが、ゼロと申します。こちらの連れが弥生、ファウナ、しのぶ、そしてルークでございます。」


「「「よろしくお願いします。」」」

「ガウっ。」


「サラサに関してはすでにご存知のご様子ですが、仲良くして頂いているようで感謝いたします。」


「ゼロちゃん、固っ苦しいよ。もっと砕けた感じで話してよ。」


「いえ、こちらも使者として来ているので・・・あまり礼儀を欠くような行為は避けたいのです。」


「あれ? それって、私が礼儀を欠いてるって文句言ってる?」


「いえ、決してその様なことを言ってるんではなく・・・。」


まぁ、実際のところその通りではあるのだが、流石に直接は言えない。


「巫女様、あまりゼロ殿を困らせないでください。いつもお話ししております通り、世の中には立場と言うものがあります。」


見兼ねたジュゴンが助け船を出す。


「そんなの知らなーい。固っ苦しいまんまで話すなら、連合参加の話、白紙にするよ。」


いやいや国の大事を自分の感情だけで変更しようってどんだけワガママなの?


「わかったよ、アリスタ。じゃあ、敬語とかはやめさせてもらうよ。」


「よろしい。じゃあ、早速これからのことを長老様と話してくるからここで暫く待っててねー。」


そう言うと、アリスタは湖の中に消えていった。


アリスタが帰ってくるまでの間、私はジュゴンに『赤い悪魔』の正体について自分の考えを事細かに話した。


「と、言う訳なんですが、ジュゴンさんはこの話を聞いて、正直信じられますか?」


腕を組んで話を聞いていたジュゴンが腕をほどき、


「そうですなぁ、プランクトンの話は長老様からお聞きしていましたが、正直そのプランクトンが私たちの命を奪うと言うのは突拍子もない話の様な気がします。私はゼロ殿の言葉なら信じられる様な気がしますが、国民は信じないでしょう。信じさせるにはゼロ殿がどこでその知識を手に入れたかを開示する必要がある気がします。」


やはりそこが問題になってきたか。ロメオに『異世界人』と開示してからそれを伝えること自体は正直問題ではないと思っている。が、今回は『赤潮』と言う人魚族の人たちが知らない情報を提供した上、『情報は異世界からです。』と、話すことは信憑性が低下する気がする。『人間族の知識』とするのも結局『嘘』をついていることになるのだろうから今回は避けたい。


「そうですね。開示すること自体は問題ないのですが、それによって信憑性が薄れる気がするので、少々考えさせてください。」


「わかりました。」


さて、ジュゴンは理解を示してくれているが、実際問題ここを丸く納める方法はあるのだろうか?


結局考えがまとまらないまま1時間が過ぎた頃、アリスタが戻ってきた。


「長老様たちが、話を聞きたいから結界を引いている反対側に来てくれってさ。」


「ああ、わかった。」


答えが出るまで時間は待ってくれそうにないようだ。行き当たりばったりで対処するしかないな。失敗しても仕方ないと開き直ることにしよう。


私たちは湖の畔を会合場所まで歩くことになった。


「ようこそ巨人キラーゼロ殿。それと使者の皆様も遠路はるばる私たちの里のためにありがとうございます。私はこの里の長老の一人ネピューと申します。」


会合の場所で待っていたのは10人の風格を纏った人魚族の面々だった。そのうちに一番偉そうな爺さんが話しかけて来た。


「いえいえネピューさん、同胞の為ならば私たちはいつでも力をお貸しする所存でございます。」


「早速ですが、『赤い悪魔』についてゼロ殿は何か知っておるようですが、詳しくお話しして頂けますかな?」


私は長老たちに『赤潮』の説明を知っている限り話した。


「では、直接的な解決方法はないとゼロ殿は仰るわけですね?」


「はい。失礼ですが、お食事後の食べかすの処理や下水の処理はどうなっています?」


「お恥ずかしながら、全て湖が綺麗にしてくれるもので、整備などは特にしておりません。」


「そうですか。では、まずはきちんとした設備と個人個人の意識の改革が必要でしょう。それと、場合によっては湖底に沈んでいるであろう魚の死骸なども処置した方がいいでしょう。ただし、原因が『それ』とは限定できないので、処理したことによって生態系が変わってしまうかもしれないので、処理するのであれば今後の観察を必要とするでしょう。」


「それは実質原因すら特定できていないということですか?」


「はい、残念ながら・・・。『これ』と、一つ挙げることは出来ません。複合的な原因が複雑に絡み合って『赤潮』は発生します。今回急激に『赤潮』が増えたのは今までの積み重ねが許容範囲を越えたのからなのか、外的な要因が関わっているのかどちらの要因も考えられます。」


「そうですか。」


「外的な要因は私たちにはわかりません。何か最近里の回りに変わったことはありますか?」


「変わったこと・・・。『赤い悪魔』と関わりがあるかわかりませんが、最近、湖に流れ込む川の一つから異臭が少し流れ込んで来ているようですが、それは関係あるでしょうか?」


「異臭ですか? 調べてみないとはっきりとは申し上げれませんが、生活用水などが川に流れ込んでいる可能性もあるので、後で調べてみましょう。」


ネピューはどうやら知的な人物らしくこちらの意をきちんと汲んでくれているようだ。


「ネピュー殿、ゼロ殿の話の筋は通っている気がしますが、私にはそれを信じる根拠が足りない気がします。」


別の長老の一人が発言する。


「ネピアが言うことは最もだ。では、こうしましょう、ゼロ殿。ゼロ殿が『赤い悪魔』が今説明してくださった様なものだと言う証明を出来るのではあれば私たちはあなたの指示にしたがって『赤い悪魔』と対峙し、あなた方と共にこれから先に進みましょう。ネピアもそれで良いな?」


やはり、信頼を勝ち取るには『赤い悪魔』の正体が『赤潮』であると証明しなければならないらしい。


「はい。」


ネピアと呼ばれた長老を含み、全ての長老が頷いている。


「ありがとうございます。ネピューさん。必ず証明させて頂きますが、1週間、時間を頂いても宜しいですか?」


「わかりました。では、一週間後までに証明できれば我々はあなた方と共に・・・、そうでなければ残念ながらこの話無かったことにさせていただくと言うことで・・・。


「はい。では、その一週間、湖と川を調べる許可を頂けますでしょうか?」


「勿論です。では、よろしくお願いします。」


タイムリミットは一週間。その間に私たちは『赤い悪魔』イコール『赤潮』であることの証明をしなければいけなくなった。

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