人魚の里と赤い悪魔 4
赤潮・・・私の記憶が確かなら赤潮イコール植物性プランクトンの大量発生。プランクトンが大量の酸素を吸うためか、エラに付着して機能が麻痺するからだったか覚えていないが、いずれにせよ魚が『酸欠』の為死亡する、漁業関係者には最悪の自然現象の一つ。原因は工場排水や下水、魚の死骸などにより川から流れていくる大量の栄養だった気がする。リンとか何かがどうたらこうたらって化学の先生が言ってたような気がするが、細かいところまでは覚えていない。そして、この『赤潮』の問題点は・・・解決策がないと言うこと。正確にはないわけではないはずだが化学物質でやら粘土で解決するには範囲が広すぎて、コストの問題で実行はしないっていってた気がする。ちなみに化学の知識を一般常識レベル程度しか持ち合わせていない私には化学物質や赤潮対策用の粘土の作り方は一切わからないので、薬で解決できますと言っても手も足もでない。まさか異世界で、『赤潮』と対峙することとは思っていなかった・・・。余程『化け物』と呼ばれる獣か何かと戦った方がマシだったかもしれない。
「ゼロ様、『赤潮』とは一体何なのでございますか?」
『何』と聞かれて植物性プランクトンだよ。と、答えたところで、理解してくれるのだろうか? 異世界の科学知識など、魔法道具以外は気にしたことは殆どなかったが、生物学は何処まで進んでいるのだろう?
「えっと、プランクトンって知ってる?」
全員が首を横に振るなか、湖の中から声が聞こえてくる。
「魚たちが食べてる、私たちの目には見えない小さい生き物のことでしょ?」
「あ、アリスタ!! 大丈夫だった?」
「大丈夫だよ、サラサ。それよりゼロ、私の答えであってるでしょ?」
急に出てきたアリスタと言う少女・・・いや、女性と言うべき年齢か? 微妙な年齢だが、取り敢えずサラサと気が合いそうな礼儀知らずの・・・いや、マイペースな人魚のようだ。どうやら2足歩行モードに変化できないようで、湖の中からこちらに話しかけてきている。髪は金色で、尾びれは赤、そして貝の水着をつけている紛う事なき本物の人魚だ。もう少し上品な人魚に初めての本物の人魚として会いたかったが、高望みはしてはいけない。とにもかくにも本物の人魚に私は会えた。
人魚きたああああああああああああああああ!!
心の興奮を抑えつつ冷静に質問に答える。
「ほぼ正解と言わせて頂きましょうアリスタさん。プランクトンとは浮遊して生きている生物の総称です。目に見えないサイズが多数を占めますが、中には私たちの目に見えるサイズのものもいますが。まぁ今回の『赤い悪魔』を発生させているのは目には見えない大きさのプランクトンでしょうけど・・・。」
「ゼロ様、博識でいらっしゃいますね。」
「ゼロ、凄い!!」
「ご主人様、色欲だけでなく知識欲もとどまるところを知らないとは!!」
「御館様、僕より物知りなんだね。」
はっはっは。伊達に高校を卒業してないぜ!! 大学中退だけど。
「で、ゼロ、『赤い悪魔』を倒すことは出来るの?」
いい気分で鼻高々だった私の鼻をアリスタが容赦なく折りにくる。そう、問題は『赤い悪魔』の正体を暴いたところで、事態の解決にならないこと。
「いや、正直、『赤潮』は倒すことは出来ないんのです。仮に出来たとしてそれは対処療法でしかなく、解決方法にはならないんです。」
「ゼロ、言い回しが難しくて何言ってるかわからないんだけど・・・。」
サラサが横やりをいれる。
「サラサにもわかりやすく言うなら、『赤い悪魔』は小さい生き物の集合体で、例え今、あそこにる生き物を全滅させても、この湖の環境を変えないと、すぐに仲間がやって来て同じことの繰り返しになるってことだ。」
「うん、わかった。つまり湖の環境を変えれば良いんだね?」
「そうなんだが、それでも結局今すぐ効果が出るわけではないんだ。数年、数十年先の未来になってやっと『赤潮』の出現を抑えれるようになるんだ。」
「え~、じゃあ、今はどうしたら良いの?」
どうしたら良い? うん、どうしたら良いんだろう。解決しに来たのに、『解決できるのは今から動いてもかなり先の未来です』と、言ったところで、人魚族の人たちは『はい、わかりました。』と納得してくれるだろうか? むしろ、『解決できないから今すぐには結果がでないと嘘をつき、丸め込もうとしている。』と、思われるんじゃないんだろうか? かといってそれを避けるために嘘をついてやり過ごすと言うのも本末転倒な気がする。
「出来ることは湖の環境を改善すること。すぐに結果が出ることではないけど、正直に人魚族の人たちに話すべきだと思う。信じてくれるかはわからないけど、誠意をもってきちんと話すことが俺たちのすべきことだと思う。」
「私は信じるよ、ゼロちゃん。」
サラサのお友達のアリスタが励ましてくれる。どうやら良い子らしい。ただし、いつの間にか『ちゃん』付けで呼び出す礼儀知らずの面はどうかと思う。
「ありがとう、アリスタさん。」
私は『ちゃん』を完全スルーで返事をする。他の人魚族の人たちもアリスタの様に信じてくれると有り難いんだが・・・。
「そうだ、アリスタさんはどうしてプランクトンのことを知っていたんですか?」
「えっと、巫女を継ぐときに歴史やら何やらを長老様からきちんと聞いて覚えなきゃいけないんだけど、その中の話の一つに『プランクトン』は魚のご飯になるってものがあったんだよ。」
「つまり、人魚族にはプランクトンの存在は認知されていると言うことですね?」
「うーん、全員が知っているわけではないけど、知っている人もいるよ。」
「そうですか、それは『赤い悪魔』の正体を説明するときに大変役に立ってくれるかもしれない情報ですね。」
ん、ちょっと待て。当たり前の様に会話を続けていたが、重要な情報をサラッと言われた気がする。『巫女を継ぐとき??』って、ことは、アリスタは・・・。
「巫女様~!! いつもお話ししているではありませんか、『赤い悪魔』が現れたときに結界の外に出るのはお止めくださいと!!」
ジュゴンが慌てて丘を降りてくる。どうやら、アリスタが巫女であることは間違いないようだ。そんなこちらの心情を察してかアリスタが笑顔で話しかけてくる。
「ゼロちゃん、自己紹介がまだだったね。私はアリスタ。人魚族の巫女だよ。」




