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魔族討伐遠征 4

隊長さんの炎魔法が発動する。ロビーウルフは一斉に飛び退き距離を取った。間髪入れずに弓使いの矢が一体の額を貫く。ロビーウルフたちの目の色が変わる。劣等種と侮り警戒を怠った結果、同胞が殺されたのだ。遅れて部下Bも弓を射る。しかし、今度は簡単に避けられてしまった。弓使いと部下Bの腕の差もあるのだろうが、本気になったロビーウルフを射ることは難しい。ロビーウルフだけではなく風属性の魔族は往々にして速度に優れている。早い段階で一体撃破できたのは幸運だったと言える。隊長さん、弓使い、部下Bの遠距離攻撃が続く。人間の土地で魔族と戦う時は距離をとるのが鉄則だ。魔法的なあれが使えないため長距離攻撃が来ることは殆どない。"ない"と言い切らないのは、追い込まれた魔族が弓を投げ返したという事例があるからだ。しかし、魔族は己の肉体のみで戦うことに固執しているようで、私が対峙した魔族で武器を使用する個体を見たことはない。


魔法の射程距離を完全に把握されたか、隊長さんは魔法を放つのをやめた。ロビーウルフをまだ警戒をして近づいては来ないが、矢が底をつくか、弓使いの体力が底を着いたとき、一斉に襲い掛かってくる気であろう。私はその時のために剣を構える。武器屋で買った安物の刀だ。安物と言っても、これを買うために前金の殆どを使い切った。切れ味は最悪、ただし折れにくい。本当は自分の身長ほどあるでっかい剣を振り回したいのだが、キャラが被るため・・・いやいや、正体がばれる可能性があるため自粛する。この世界でそれほどに大きい剣を振り回せるのは私だけであろう。昔、読んだ本に刀は数人人を斬ると血糊で使い物にならないと書いてあった気がするが、この世界では正にその通りである。特に、魔族を相手にするときは、それが顕著である。切り殺せるのは精々最初の一体だけ、後は撲殺か、突き殺す。つまり、対魔族戦においては切れ味は必要ない。隊長さんはこの王国で10本に入る剣士らしいが、彼女の今の装備はレイピアである。スピード重視での先制攻撃、もしくは相手の攻撃を全て避けるのが前提の武器だ。よほどスピードに自信があるのだろう。部下Aは槍。広い間合いを活かした突きを信条とする、この世界では魔族討伐に一般的に用いられる武器である。さて、そろそろ弓使いも限界のようだ。


一糸乱れぬ鮮やかな連携攻撃。彼らがまず狙いをつけたのは隊長さん。指揮官を倒すのは戦の常套手段でもある。それを阻止しようと私と部下Aが彼女の前に歩を進める。その瞬間、私と部下Aの間を風が通り抜けた。まさかの単騎掛け。ロビーウルフもこれは予想外だったようで反応が遅れる。


一突き


二突き


今の攻撃で2体を撃破。残り4体。


三突き


ここで初めて攻撃を避けられるが、彼女は止まらない。


四突き


五突き


六突き


相手の反撃を避けながらの6連撃。それだけで敵を半分に減らしてしまった。つい感心して見入ってしまったが、このままだと歩合制の報酬額が限り無くゼロに近くなってしまう。とりあえず一体ぐらいは倒しておくかと思い、敵に向かおうとすると、


狼の遠吠えが響いた。


ロビーウルフはその声を聞くと一目散にその方向に走り出す。


私たちの目線がそれを追う。そこには、他のロビーウルフの1.5倍はあろうかという個体がそこに立っていた。やはり偵察隊の見立ては予想道理間違っていたのだ。7体の魔族と1体の上位魔族がここには存在したのだ。


上位魔族、突然変異によって通常の種を超越する力を持つ魔族と言われているが、なぜその様な個体が存在するもかはわかっていないらしい。わかっているのは上位魔族の数が少ないことと、圧倒的な力を持つことだ。優勢だったはずのこちらのパーティーに焦りが生じる。


「一旦、退却して軍をきちんと組織しましょう。」


一目で上位魔族と判断した部下Aは撤退を進言する。


「そうしたいのは山々なのだが、領主様の命令で今回は退却は許されていないのだ。」


絶望感が広がる。上位魔族とはそういう存在であり、人間の土地でお目にかかったという報告は聞いたことがない。つまり、この中で上位魔族と戦ったものはもとより、見たものすらいないと思われる。未知の敵、それも規格外の強さを保有するであろう存在と対峙した時のとるべき行動は退却である。しかし、今回はその選択がバカ領主の命令で禁止され、真面目すぎて臨機応変という言葉を知らない隊長さんの性格のせいで順守される。隊長さんは戦って勝つ自信があるのかもしれないが、その可能性が低いことは全員が理解している。


「わあああああああああ。」


叫び声をあげながら部下Dが逃走を謀る。隊長さんは制止しようとするが、上位魔族から目を離せないため声で制止しようとしただけだ。その瞬間、部下Dの首が飛んだ。


隊長さんは目を離していなかった。ただ、その動きを追えなかっただけだ。上位魔族は拾いあげ、ニヤッと笑うと、それをこちらに投げた。挑発であると理解はしていても仲間の死を冒涜する行為に部下Bは激昂し上位魔族に突撃する。


「待て。」


隊長さんの制止は部下Bの耳に届くことはなく、死体がひとつ増えた。


「私があれを倒す。その間残り3体の足止めを。」


そう言って、隊長さんが上位魔族に対峙する。私たちは隊長さんの指示を受け3体を見るが、彼らは直立不動で動かない。どうやら待機の指示を受けているらしい。こうなれば下手にこちらから攻撃して、彼らの参戦する理由を作ることは賢くない。全員で一斉に上位魔族を倒すのが得策だろう。ただし、もちろん相手もそれは気づいてるはずだ。気付いていて動かないのは、上位魔族の力を絶対的に信じているからだろう。もしくは命令に背くと殺されるからかもしれないが。


隊長さんは先程3体を倒した必殺の6連撃を繰り出す。上位魔族にはかすりもしない。諦めることなく隊長さんは攻撃を繰り出す。あまりのスピードに弓使いは矢を射ることが出来ずに戦いを見つめている。部下Aも参戦しようとはするものの入り込める余地がない。


ただし、これは上位魔族にとって戦いではなく、唯の遊びのようだ。その証拠にまだ一度も攻撃していない。ただ隊長さんの攻撃をかわすだけ、それもニヤけた顔と共に。彼女は王国で10本の指に入る剣士かもしれないが、その彼女をもってしても対等に渡り合うことが出来ない存在、それが上位魔族である。彼女も力の差は実感しているであろうが諦めることしない。諦めることイコール死ということがわかっているのであろう。上位魔族はどうやらドSのようで、彼女の心が折れるのを待っているようだ。酒場であったなら友達になれるだろう。さて、私の性癖はおいておいて、彼女の動きが徐々に鈍り出した。息が上がり、自分の攻撃で体が流れてしまうことが増えてきた。


限界か。私が思った瞬間、今までで一番鋭い彼女の渾身の突きが上位魔族の胸に炸裂する。


正直騙されました。


限界かと思わせたのは彼女の作戦で、遊びと思っている相手の油断を利用した彼女の勝利への執念が生み出した最善策。


その策が見事にはまり、彼女にレイピアが上位魔族の胸を突き、


彼女の希望と共に砕け散った。


血糊で鈍っていたせいか、はたまた万全の状態であっても上位魔族の肉体は貫けなかったのか、何れにせよ彼女の全力の攻撃ですら上位魔族に傷を負わせることは出来なかった。対峙した二人の時が止まる。


そこへ、高速の矢が上位魔族の額へ一直線に向かう。弓使いは集中を切らさず、この時を待っていたのだろう。しかし、あろうことか上位魔族はその矢を手で掴んだ。それは上位魔族への対抗手段を全て奪われた瞬間だった。上位魔族の口は今にも裂けそうなほど広がり、喜びを隠せないようだ。そして、一声鳴いた。


3人の魔族たちが、私たちに襲いかかる。先程とは逆の状況で、自分の至福の瞬間を邪魔させないためだろう。これで邪魔物はいなく、絶望に染まった彼女をなぶりながら殺すことができる。上位魔族の心が伝わってくるようだった。それでも、隊長さんは諦めていないようだった、目にはまだ力が残っている。ゆっくりと近づく上位魔族との距離が2メートルになったとき腰に隠していた短剣で斬りかかる。


上位魔族は嬉しそうにそれを見て笑った。彼女の攻撃を避けず爪でナイフを破壊する。


ナイフと一緒に彼女の戦意も砕け散ったようだ。せめて集団戦に持ち込めたら魔法も使えたのだろうが、それすら上位魔族は部下との戦いを分析し、封じるすべを考えていたのだろう。


「隊長おおおおおおおお。」


部下Aの慟哭が響く。


隊長さんは座り込み動けない。


上位魔族はヨダレを隠すこともせずに至福の瞬間を味わっている。爪を振り上げ、彼女の首筋に向かって降り下ろす。


首が転がり落ちる。その場にいた全てのものの時間が止まる。


数秒後、最初に声をあげたのは隊長さんだった。


「え・・・。」


その場にいた誰もきちんと状況を理解できていない。転がり落ちた首はまだイヤらしい笑いを浮かべている。


そう、転がっているのは上位魔族の首だ。


「至福の瞬間のまま、あの世に行けたんだ、感謝しな。」


私はカッコいい台詞を吐いてみる。もちろんフラグ回収のためだ。残り2体になっていた私以外のメンバーを足止めをしていたロビーウルフが一斉に襲い掛かってくる。


一閃。


4つの肉片が転がる。


呆気にとられる3人に聞こえるように大きな声で私は言う。


「さぁ、魔族に奪われた金品を回収して早いとこ依頼を完了しちゃいましょう。」

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