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ロメオとジュリエッタ 11

私が駆け出してすぐにジャイロが距離を取る。


「ほぉ、中々の脚力だ。お主ただの人間族ではないな。」


「戦いの中で会話とは・・・。あんまり余裕を出さない方がいいと思うけど。」


「余裕ではない。警戒したのじゃよ、お主の体から強者の波動をビンビン感じたからな。久しぶりに血がたぎるぞ。」


そう言って、ジャイロは『術』を使い始める。筋肉が膨れ上がり、爪が伸びる。牙が大きくなるがロメオのようにサーベルタイガー程ではない。個人的な意見だが、ジャイロの姿の方が戦闘に向いていそうだ。


「さて、人間族の戦士よ。私はこの姿ではあまり手加減ができなくてな。降参して去るなら追わぬがどうする?」


「親友のロメオ君に子どもが出来たって聞いたんで、名付けの親になってあげたくなっちゃんで、その提案は却下させて頂きます。」


「そうか。では覚悟されたし。」


先程とは反対にジャイロが向かってくる。爪を振り回して、暴風のごとく向かってくる。あれに巻き込まれたら痛そうだ。ただ、ロメオもそうだが攻撃が単調だ。強力な武器を持つとそれに頼ってしまう気持ちもわからなくないが、一対一の戦いで実力が伯仲している場合はまず大技は当たらない。その大技を当てるための小技が勝敗を分けると言ってもいいだろう。


などと考えていたら、いきなりミドルキックが飛んできた。私は後ろに下がり避けることに成功するが正直ヒヤッとした。


一旦暴風が止む。


「戦いの中で余裕出さない方がいいんじゃないか、小わっぱ。」


嫌みな爺いだ。


「余裕だなんてとんでもない。かの有名なジャイロ様の攻撃を避けるだけで精一杯なんですよ。」


「抜かしよる。主が本気を見せていないことぐらいワシにはわかっているぞ。」


「本気で戦ってますよ。さぁ、続きをやりましょう。」


また暴風が向かってくる。今回は今後の展開のためになるべく相手に怪我をさせないですませたい。そうするとサブミッションがいいのだろうが、やっぱりあの爪がネックになってくるなぁ。普通だったら届かないはずのところも切り裂かれそうだし、折っちゃっても大丈夫かな?


「しのぶ、犬人族の爪って折っても大丈夫なものなの?」


「御館様、爪は折られても生えてきますが、犬人族の戦士にとって爪を折られる言うことは、牙を折られる次に恥ずべきことです。それほど私たちの爪は硬い。爪を折ろうとお考えになっておられるなら、その作戦はあまりお勧めできません。」


「つまり牙を折られるのが一番恥ずかしいことなんだな?」


「小わっぱ、まさか、ワシの牙を折るつもりか? 鋼鉄をも貫くワシの牙を!?」


「うーん、どうしようかなぁ。そんなに固いなら止めようかなー。ジャイロさんは折られない自信があるんだよね?」


「もちろんじゃ。」


「じゃあ、一回だけチャンスをくれない? 一撃で折れたら俺たちの勝ちでここを通す。折れなかったら、しょうがないから本気で戦う。どう?」


「いやいや小わっぱ。『どう』じゃないじゃろ? こっちが勝っても何もメリットはないとか、賭け事の基本構造からしておかしいじゃろ?」


「だってジャイロさんは絶対の自信があるんでしょ? 俺もジャイロさんに勝つ自信はあるんだけど、怪我させないで勝つ自信がないからお願いしてるんで・・・。」


「ほう、ワシのためか? ならばまずこの戦いのなかで爪を折れたら考えてやろう。」


「本当? いやぁ良かった。これで怪我させないで済みそうだ。じゃあ、行きます。」


私は暴風の中に飛び込み腕を取り、そのまま堅そうな爪を地面に突き立てるように差し込む。


「なっ? おい、ちょっと待て小わっぱ?」


焦ったジャイロが泣き言を言うが聞く耳は持たない。私は地面に突き刺さったそれを一番安全そうな真横から一気に足の裏で蹴りつける。


ボキボキボキボキっ!!


大きな音がしてジャイロの右腕の爪が全て折れた。


「ぎゃああああああああああああああああああああ。」


ジャイロが悲鳴をあげ、のたうち回る。


「よし、ジャイロさん、牙の件考えてくれるか?」


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ。」


しかしジャイロは聞いていない。


「お、御館様、そこまでおやりになるとはドン引きです。右手の爪を全部折られる痛みは、想像を絶する痛みだと思われます。」


「え、痛いの?」


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。」


「はい、私の『術』は獣人化ではないので詳しくはわかりませんが、爪を一本折られる痛みは片方の玉が潰れる程だと里では言われております。」


一本で方玉・・・。じゃあ、ジャイロの痛み・・・想像を絶する!!


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ。」


あ、死んだ。


「よ、よーし、予定通りジャイロを倒した。さあ、ロメオさん、巫女さんと子どもに会いに行こう。すぐ行こう。」


誰かが『予定通りなわけないだろ。』と呟いていたが、巫女さんに会うのを優先するため、無視して先を急ぐ。門をくぐり、扉を開け隠れ家に入る。


「ジュリエッタ。出てきてくれ。話をさせてくれ!!」


ロメオが気持ちを押さえきれず叫ぶ。


すると2階から、3人の人影が顔を出す。残念ながらその中に巫女さんはいないようだ。3人ともお揃いのメイド服を着ている。


「まさか、ジャイロ様が倒されたのですか?」

「そんな・・・。」

「冗談でしょ?」


驚きを口にする3人。


「嘘でも冗談でもないから巫女さんに会わせてくれ。うちのロメオさんが今にも泣き出しそうなんでな。」


「仕方ありません。付いてきてください。」


真ん中のメイドさんが私たちに促す。なんだかあっちへ行ったりこっちへ行ったり長い道のりだったがようやくゴール手前まで来た感じだ。


トントン。ドアを叩くメイドさん。


「ロメオ様をお連れしました。」


「どうぞお通ししてください。」


中から澄みきった声が聞こえる。私たちはメイドさんに促されるまま中に入る。


中にはジュリエッタと彼女が大事そうに抱いている赤ん坊がいた。

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