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ロメオとジュリエッタ 10

「流石しのぶだ。俺の記憶の中からも姿を隠すことが出来るなんて、そんな『術』が使えるのは古今東西、しのぶの他にはいないだろう。いや、実に素晴らしい部下を持った。」


しのぶが物凄く寂しそうな顔で私を見つめている。


「そのような術を使った覚えはありません。ここは素直に謝ることが御館様の役目ではないかと進言させて頂きます。」


「ごめんなさい。ちょっと熱が入った交流をしていたもので、しのぶさんのことはすっかり忘れてました。」


「以後、お気をつけください。」


「はい。」


そうこうしているうちに顔を冷やしたロメオが戻ってくる。私は彼にしのぶを紹介し今後の方針を話し合う。


「いつもはどうやって隠れ家に侵入しようとしているんですか?」


「正々堂々と正面から名乗りを挙げてです。大抵が弓矢で追い払おうとしてくるのですが、こちらを殺める気はないようで、先には布が巻いてあります。それでもくらい所が悪いとそれ以上進めなくなってしまうのですが、そこから先に進むと対人戦が始まります。ここでも相手はあくまでこちらを戦闘不能にしようとするだけで、それ以上の追撃は与えてきません。数人倒すとあの『ジャイロ』が出てきます。」


あのジャイロ!? まさか、あの!? と、驚こうとしたが、知らないのでやめた。しかし、しのぶは知っていたらしく顔面蒼白になっている。


「で、ジャイロって誰?」


素直に聞いてみると、ものすごい勢いでしのぶが話始める。


「御館様はあのジャイロを知らないんですか? 希望の民の中では語り草になっている『魔族100人狩り』や、『奴隷解放の英雄』とまでうたわれるあのジャイロですよ!?」


「知らん。」


「老いて第一線は退いたと言われていましたが、それでも今でも犬人族最強は彼で間違いないと言われています。」


「まぁ、巫女さんの護衛だからな。ロメオさんだけならいざ知らず、他の里や人間や魔族からの刺客を撃退しなくちゃいけないんだから、ある程度の人物はそばに控えるだろう?」


「ですが、ほぼ生きる伝説と呼べるに等しい人をこんな森の中に張り付けるとは、僕には信じられません。」


しのぶが吠える。


「いや、ジェームスからしたらジュリエッタさんはそれぐらい重要なんじゃないの? 巫女であり娘だし。むしろ巫女さんもジャイロもよくこんな所に住んでて嫌にならない方が凄いと思うけど・・・。」


と、ここで最悪の考えが頭によぎる。


『まさか、その2人、出来てるんじゃない?』ロメオには言えないが、可能性的にはあると思います。


「まぁ、2人には2人の事情があるんだろうけど・・・。 とりあえず、正面から行って問題ないみたいだから正面から行くことにしよう。うん、そうしよう。」


忍び込んで『最悪な場面』なんてことになったらロメオ、それこそ自殺ものだろうし・・・。


「しかし御館様、まずは私が偵察に行ってきた方がよろしくはありませんか?」


しのぶが余計なことを言い出した。正論だけど、『にゃんにゃんしてました。』なんて報告されたらロメオどうすんのさ? それなら、適当な理由をつけてきっちりけじめつけた方がいいでしょ?


「しのぶ。今回、俺たちは戦いにいくんではなく、話し合いをしに行くんだ。こそこそする必要はない。」


「はい。御館様がそういうのであれば・・・。」


煮えきらないようだが、ここは大人しくしてくれ。ロメオの命のために!!


「ロメオさんも、それでいいか?」


「ああ、だけど、結局ジャイロをどうにかしないと今までと同じ事をだと思うんだが? 確かに貴方も強いとは思うが、ジャイロの強さは別格だと私は思います。」


そういえば、そうだった。


「ま、なんとかなるでしょ? もし倒せなくても命までとられないならまたここに帰ってきて対策を考えましょう。」


「はぁ。」


ロメオが気のない返事をする。実際自分だってずっとそうしてきたのに他人の策になると文句があるみたいな顔しやがって・・・。こっちが誰に為にこんな作戦をたてたと思っているんだ?


「よし、進むぞ。しのぶ、対象の匂いが近づいてきたら気づかれる前に情報を教えてくれ。」


「はい、わかりました。」


こうして私たち3人は正面から巫女に会うために隠れ家に向かう。


暫くすると、しのぶが警戒モードに入る。


「御館様、隠れ家の情報がある程度整理できました。中には兵士と思われる犬人族の男性が10人、それとは別の女性の数が3人、詳しくはわかりませんが巫女様の世話係だと思われます。そして、巫女様。それと・・・。」


言葉を濁し始めるしのぶ。


「どうした? それと後は誰がいるんだ?」


「その~、報告しなきゃダメですか?」


え、どうしたのこの人? それが仕事でしょ? 凄く言いにくそうだけど、まさか、しのぶの家族が敵側に回ってるとかベタな展開が待っているのか? 双子とか?


「とりあえず報告していくれ。しのぶの家族が敵に回っても驚かないから。」


「えっ? いえ、そういうことではなく。」


チラッとロメオを見るしのぶ。ロメオは助けてくれないから・・・。


「いいから早く言え。」


観念したようにしのぶが報告する。


「赤ん坊が1人います。匂いからの情報だと、母親は巫女様のだと思います。」


爆弾発言来たあああああああああああああああああ。


ロメオが走り出す。


落ち着けロメオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。ジュリエッタとジャイロの幸せな家庭を壊しても、余計惨めになるだけだぞ!!


「ロメオ!!」


呼び掛けに答えず一心不乱に走り続けるロメオ。


前から矢が飛んでくるがお構いなしに突っ込む。門が開き、中から5人、戦士が出てくる。一番後ろの偉そうな爺さんがジャイロに違いない。そのまま突っ込むロメオは前衛の4人を吹っ飛ばす。


が、ジャイロに跳ね返されてしまう。


「ロメオ殿。今日はいつもより気合いが入っているようじゃが、後ろの人たちがその威勢の原因かな?」


「クソっ、そこを退いてくれジャイロ。私はどうしてもジュリエッタに会わなければいけないんだ。」


「巫女様はお会いにならないと仰っております、ロメオ様。どうかお引き取りを。」


「横から口を挟むようですみませんが、ジャイロさん、巫女さんが会わない理由だけでも教えてくれませんか? そうしないとロメオさんも納得できずにずっとここに縛られ続けますよ。」


「いや、いい。」


答えたのはロメオだった。


「今までずっと可能性は考えていた。しかし、確信をさっき持てた。しのぶさんが『それ』を確信させる情報をくれたから。ジャイロ。お願いだ、ジュリエッタと、『私の子ども』に会わせてはくれないか?」


あれえええええええええええええええええええええ、そっちいいいいいいいいいいいい!?


ああ、なるほどその可能性もあるわな。でも、それならなんで巫女さんは会うのを拒否してるんだ?


「なりません。ロメオ殿。その覚悟があるなら、ワシを倒して進んでください。」


ジャイロの口ぶりからすると、どうやらロメオの考えが正しいらしい。頭がこんがらがってきた。


「ジャイロさん。あなたの口ぶりからすると、あなたを乗り越えていって欲しい様に聞こえるんですが、それは俺たちが助けても宜しいでしょうか?」


私がジャイロに尋ねる。


「抜かしよる、小わっぱが。仲間を集めるのも本人の『力』。もし、小わっぱどもがワシを打ち倒したら、先に進むことを認めよう。ただし、ワシは強いぞ。」


「じゃあ、行きますよ。ロメオさんとしのぶは手を出さないでください。巻き込むと危ないので。」


私はジャイロ目掛けて走り出した。

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