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ロメオとジュリエッタ 9

ひとしきり泣いたあとロメオは冷静さを取り戻したようだ。


「お恥ずかしい所をお見せしました。ここに住みついて約1年。ジュリエッタを取り戻せないもどかしさと苛立ちから少々自暴自棄になっていたようです。すっかり目が曇ってしまっていました。改めてご無礼の数々お詫びいたします。申し訳有りませんでした。」


そう言って深々と頭を下げるロメオ。先程までとは見違える様に丁寧な態度で流石頭領の息子と言えるような風格をまとっている。とはいえ、顔は私に蹴られたせいで腫れ上がって見る影もないのだが・・・。


「それで貴方は本当はどの様な目的でここに来たんですか?」


穏やかな態度ではあるが、やはりきちんと理由を聞かなければ警戒は解けないようだ。


私は希望の民連合のこと、その為に猫人族と犬人族を勧誘に来たこと、ロメオと巫女のことを聞いて問題の解決に利用できないかと思ったことを正直に話した。


「話は大体わかりました。筋も通っており、納得も出来ます。ですが、その話全て信じる前に1つだけお答えください。貴方は一体何者ですか?」


まぁ、それはそうだよね。鬼族と竜人族の巫女の婚約者で、変態ケンタウロスのご主人で、犬人族の忍者の御館様・・・なんて、存在自体信じられないよね。


「それはさっきも説明した通り、連合結成の使者・・・。」


「いえ、そうではなくて、見たところ貴方は人間族の様ですが、猫人族の言葉を話しておられる。貴方のルーツや目的を知りたいのです。希望の民の為に連合を結成したところで貴方に何のメリットがあるのでしょう?」


ああ、そういうことか。しかし、それにはなんと答えればいいものか・・・。地球から来ましたと言っても信じてもらえないだろうし・・・。いっそ、記憶喪失設定つけてみようかな?


私が答えに困ってる間もロメオは真剣な眼差しを私に向けてくる。


ここまで真剣な眼差しをする相手に嘘は良くないなと思い直した私は、異世界人であることを話して見ようと思い始める。そして、ふと奇妙なことに気付く。


『どうして異世界転移したラノベの主人公は異世界転移のことを隠すんだろう?』


正直、私もこれまで誰にも話してこなかったのだが、漠然と『話しちゃ不味いよな』的な思いにとらわれていた気がする。まぁ、異世界転生だと流石に頭おかしい赤ん坊とか思われて生命の危機に陥るかもだけど、人間族に指名手配されて、魔王討伐して魔族に恨まれてる私にとって異世界人を隠すメリットって何?


あれ? そもそもここ異世界だと思ってたけど、地球の一部ってことも無くはないんじゃないの? 凄く重力が軽いし、魔法が使えたり、エルフやドワーフを始めとする『亜人』や異形の魔獣、知性を持つ魔族がいて知らないことだらけだけど・・・。この大陸から船で出港すると日本についたり・・・は、流石にないかなぁ。でも、『神様』に秘密にしなきゃ地球に戻すと直接言われたこともなければ、使命を与えられたり、命を助けてもらったこともない。つまり、私の『自由』ってことでOK?


よし、決めた。話してみよう。もし、神様が見てるならその時はその時だ。


「ロメオ。信じられないかもしれないが、私はこの大陸の人間ではない。今から10数年前に『地球』と呼ばれる私の故郷を旅しているときにこの大陸に紛れ込んだ。ロメオたちが人間族と呼ぶ種族と姿形が似ていること、彼らと言葉が通じたことから俺は彼らとしばらくの間生活を共にした。そこで、かけがえのない友に出会い、かけがえのない女性にも出会った。私たちは協力して『魔王』と呼ばれる魔族の長を倒した。だが、その後、人間族の王に裏切られ、人間族の田舎町で正体を隠しながら妻と娘と細々と暮らしていた。まぁ、細々とではあっても幸せな時間だった。家族とは俺の過ちで別れざるを得なくなったが、そんな折りに鬼族の巫女に命を救われ、その恩を返すために鬼族と縁を持ったら、後は芋づる式にこんな感じだ。ただ、今の環境は正直嫌いじゃない。あと、言葉の件だが、俺が話しているのは猫人語ではないんだ。理由はわからないが、俺の言葉を聞いた希望の民は全て自分と同じ言語を話していると受けとるらしい。鬼族の秘術の副作用である可能性はあるが鬼族の秘密なので俺の口から説明するのは避けさせてもらう。」


こうやって自分の半生を口に出すと改めて波乱万丈な生き方をしてきたんだなと感じる。


「一応、これでロメオの質問には答えたつもりだけど、まぁ、信じがたい話なのは俺にもわかる。ただ、真実なので信じてくれると助かる。」


ロメオは話を聞き終わると、相変わらず真剣な眼差しで、


「信じましょう。古い伝承に貴方と同じように何処から来た旅人の話があると父から聞いたことがあります。その話自体信じてはいなかったのですが、貴方の『強さ』や「繋がり』を考えると、真実であったと思えてなりません。」


「・・・ありがとう。」


ヤバいちょっと泣きそうだ。知らず知らずの間に秘密を持って生きていたことで心に壁ができて『孤独感』をどこかで感じていたらしい。ああ、隠し事がないって素晴らしい!!


「それで、実は今更なのですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


あ、そう言えば名乗ってなかった。


「これは失礼しました。私はゼロ・・・いえ、ゼルダと申します。」


本名を名乗る。


「ただ、人間族の間では有名な指名手配犯なので、ゼロと今は名乗っています。」


「ゼロ殿ですね。それで、ゼロ殿はジュリエッタに会いに来たと言うことでよろしいでしょうか?」


「ジュリエッタさんが巫女さんの名前ならその通りです。」


ロメオが頷く。


「ジュリエッタに会って、どうするおつもりだったかお聞きしても宜しいでしょうか?」


「はい。連合の為に猫人族と犬人族を和解させる必要があるのはさっき説明した通りです。しかし、どちらの種族も恨みや憎しみは特にないと答える。で、どうやら和解させる必要があるのは頭領同士で、その為には貴方と巫女さんの問題を解決しなきゃいけないと感じたのです。まぁ、貴方は俺の中では『死人』でしたが。問題はローマンとジェームスが本当は何をしたかったかと言うことで、巫女さんから真実を聞いて和解に役立てればと考えていた次第です。ですが、ロメオさんが全てを話してくださるなら、巫女さんに会う必要はないかもしれません。」


「そうですか。ですが、残念ながら真実を話すことは出来ません。」


ん? どうやらまだ信用しきってくれていないようだ。


「なぜなら私も真実を知らないからです。」


あれ、そういう方向?


「しかし、まずは私が知る範囲のことを聞いてください。私とジュリエッタは小さい頃からお互いに面識がありました。猫人族と犬人族の関係性上、巫女は1年に1度、自分の生まれではない部族の里に訪問する義務があるからです。いつからか私たちは親の目を盗んで一緒に遊ぶようになりました。親同士、私たちをあまり近づけようとしなかったため中々会う機会はありませんでしたが、ジュリエッタと私はお互い成人する頃には異性として好意を抱くようになっていました。巫女は立場上あまり自由な時間はありませんでしたが、それでも公務の間をぬって私たちは関係を深めていきました。その関係が変わってしまったのが1年前。私たちの関係に気付いた私の親がいきなり犬人族の猫人族の里への立ち入りを全面禁止してしまいました。私はジュリエッタに会うために急ぎ犬人族の里へ向かいました。しかし、犬人族でも同様なことが行われていたため会うことは叶いませんでした。失意のうちに里へ戻った私は父を問い詰めましたが何も答えてくれませんでした。私は里を去ることを決め、ジュリエッタに会うために犬人族の里に秘密裏に侵入しました。そこでジュリエッタが里にはいないと知り、手を尽くしどうにかこの森に彼女が連れていかれたことを突き止めました。その後すぐに彼女に会いに隠れ家に行きましたが護衛に追い返されてしまいました。1度だけ彼女が出てきてくれたことがあったのですが・・・。」


そこでロメオは苦しそうに顔を歪めた。


「『もう、会えない。』彼女はそれだけ言うと、家に入ったきり姿を現すことはありませんでした。それ以降も私は彼女に会うために・・・『会えない』と言った真意を聞くために、こうしてここに住み着いて彼女へのコンタクトを試みていると言うわけです。」


要するにロメオも一方的に関係を引き裂かれて理由を知らないと言うことらしい。『でも、一歩間違えれば完全なストーカーだよね。』と、言う言葉を飲み込み私は提案する。


「よし、わかった。じゃあ、一緒にその隠れ家に行こう。それで、理由を聞いてもし正当な理由でジュリエッタさんがロメオさんと別れたいと思っているなら諦めてください。私も別の解決策を探します。でも、ジュリエッタさんが別れたくないと思っているのに何らかの理由で引き離されているなら、その理由を私たちで解決しましょう。」


「ありがとうございます。」


「そうと、決まったらまずは顔を冷やしてきてください。感動の再会がそのグロテスクな顔では台無しですよ。」


「貴方がそれを言いますか?」


そう言うと私たちは笑いあった。


さぁ、じゃあ、とりあえず隠れ家に言ってみますか? あれ? 何か忘れてる気がする。


ガサッ。


その時、後ろから気が揺れる音がして、半泣きのしのぶが立っていた。


あ、そう言えばしのぶのこと忘れてた。

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