ロメオとジュリエッタ 6
「誠に申し訳ございませんでした。まさか騙して仕事を依頼してくる人たちがいるなんて想像もしていなかったので、初めから疑った目で見てしまっていました。この不始末、如何様な罰でも受け入れる所存でございます。」
額を地面に擦り付けて謝ってくる用心棒君。うん、凄く暑苦しい。
「あのなぁ、さっきから言ってるけど気にしてないから頭をあげろって。」
かれこれ数回このやり取りが続いている。
「そうはいきません。罰を与えて頂けませんと、僕の気が済みません。何卒、何卒。」
こんだけ罰を与えろと言われ続けると段々用心棒君も例のケンタウロスと同種の人なのかと思えてくる。もしそうなら間違っても罰を与えてはいけない。『罰』はこの種の人たちにとっては『ご褒美』だから、与えると取り返しのつかないことになる可能性が高い。
「いや、罰を与えろって強制してるあたり、もう、反省してるとは言えないんじゃないのか? もし、本当に反省してるなら、自分の価値観を相手に押し付けないで、相手が望んでいることを受け入れた方がいいとおじさんは思いますが、どうでしょうか?」
適当に断りを入れるには十分そうな正論が口から飛び出したぞ。これには用心棒君も反論出来ないだろう。
「く・・・、目から鱗です。わかりました。」
おお、わかってくれたようだ。
「反省するのは諦めます。」
ん? 何でそうなる?
「御館様の意見通り、勝手に配下になって勝手に一生お仕えすることにします。」
うん、どうして希望の民の人たちは思いこみが激しすぎるんだろう?
「まず確認だが、御館様ってのは誰のことだ?」
「はい、もちろん貴方様のことです。私の家系は代々影として雇用主を支える仕事をしていまして、雇用主のことを『御館様』と呼ぶようにと小さいときから教育されておりますので。」
「で、誰がいつどこで雇用主になった?」
「はい。御館様が、今、ここで、雇い主・・・と、言うか、僕の生きる目的になりました。」
うん、もう嫌だ。思い込みがみんな重すぎる。雇い主より重い『何か』に変わっちゃってるんだけど・・・。
「ええと、用心棒君?」
「しのぶ」
「え?」
「しのぶとお呼びください!!」
「じゃあ、しのぶ君・・・。」
「し・の・ぶ、と、お呼びください。」
「じゃあ、しのぶ。俺には雇い主になった記憶もなければ、お前の『生きる目的』になった記憶これっぽっちもない。俺のことは放っておいて、いいからお家に帰りなさい。」
「御館様がお忘れになっても、僕が覚えているから大丈夫です。」
どうやら自分の都合のいいように記憶の改竄を済ませてしまったようだ。ならば、これ以上説得を試みても無駄だろう。
「よし、じゃあ、勝負をしよう。ここで力比べをして俺が勝ったら、諦めて帰れ。俺より弱いやつに俺を守ることは出来ないからな。もし、お前が俺を倒すことが出来たなら、一生俺を守ることを許可する。」
「お断りします。御館様に弓を引くなど出来るはずがないじゃないですか。それに『力』なら御館様の方が強いのは先程の戦いを見ればわかります。僕は僕が役に立つ所をお見せするために『情報収集』での勝負を所望します。」
どうやら冷静な判断は出来るようだ。ならば、こっちも冷静にお断りしよう。
「それはしのぶが得意なもので勝負しようってことだろ? 流石にそんな勝負は俺もお断りだな。それならばしのぶは俺に使えるチャンスを永久に失うだけだ。『力』で勝負か、諦めるか、さあ、選べ。」
ふむ、これならばどちらを選んでもしのぶは私の配下とやらになることは100%ない。我ながらいい提示をした。
「つまり『情報収集』では勝てないとお認めになるのですね? それはイコール僕の力が必用って言うことを意味していますよね? と、言うことでお役に立つので配下にしてください。」
く・・・この反論、意外と鋭い。
「まぁ、『情報収集』でも負けないけどね。面倒くさいから、勝負しないだけだから・・・。『情報収集』の能力でも俺が上だから、しのぶを雇わない。わかった?」
なんだか自分で言っておきながら負け惜しみ臭がひどい気がする。
「では御館様は『情報収集』の能力において、僕が御館様より優れていたら配下にしてくれるって言ってるんだよね?」
「まぁ、もし上だったらね。でも、面倒くさいから『情報収集』の勝負はしないって言ってるんだよね。わかる?」
「言質頂きました。」
え、何か失言した?
「御館様。時に御館様は巫女様の居場所をお探しとの情報をこのしのぶめは持っております。『面倒くさいから勝負はしない。』と、仰っておいでですが、新たな勝負をするのではなく、巫女様を先に見つけた方が勝ちということにするので如何でしょうか? これならば御館様の目的も果たしつつ勝敗もきちんとつく。まさに一石二鳥でございましょう。」
しまった。完全に失言してた。何か、巫女を探している情報を握られている時点でもう負けているような気がするけど、考えようによっては都合が良いかも知れない。実際に巫女の情報は必要なわけだし、しのぶが本当に優秀なら雇う価値もあるかも知れない。
「よし、いいだろう。その代わり俺が勝ったら二度と俺のことは追い回したり屁理屈をこねて配下になろうとするなよ。」
「お約束します。」
「じゃあ、今から競争だ。」
「はい。では、失礼します。」
その言葉と共にしのぶは闇に消えていった。その後ろ姿を見て私は思う。
『しのぶの稼業って確実に忍者だよな。』と。




