ロメオとジュリエッタ 4
その日の夜、目が覚めたとき私はすでに拘束されていた。
ルークがいるからと油断していたのも不味かったのだろうが、楽しい謎解き気分でいたため、眠っていても気配に気付けるように気を張り積めていなかったのは完全に私の失態だ。どこに敵が潜んでいるかわからないのだからもう少し気を付けるべきであった。
ゆっくりと辺りを見渡す。今夜は月明かりもないため部屋の様子ははっきりとはわからない。しかし、どうやらルークはいないようだ。きっとうまい具合に外へ誘い出されたに違いない。
部屋には複数の気配があるが、この数なら反撃に出れば一瞬で倒すことは出来るはずだ。しかしルークの安否がわからない以上慎重に動いた方がいいだろう。それに弥生、サラサ、ファウナの安全も確認しなくてはならない。
私は神経を集中して弥生の現在地を探し出す。秘術の副作用『機械要らずGPS』、こちらの居場所が常に弥生に把握されてしまうのは困りものだが今回は非常に有益である。ここで思いもよらない事態に遭遇する。
弥生の現在地はこの部屋である。
嫌な予感がする。そして、この予感は十中八九当たっているだろう。ルークは誘い出されたのではなく、これから起こるであろうことを予見し自発的に出ていったのであろう。私が縛られるまで目を覚まさなかったのは『敵意』を感じなかったからに違いない。
襲撃者がつかつかと足音も消さずに近づいてくる。
「ゼロ様。お目覚めになりましたか?」
弥生が嬉しそうに尋ねる。
「おい、これは一体どういうつもりだ。」
「あのねゼロ、さっきの二人の話を聞いてね、みんなで思ったの。ひょっとしたら人間と希望の民の間にも子どもが出来ないんじゃないかって。」
「ほぉ、それで。まさか試してみようとか思った訳じゃあないよな?」
「ご主人様、私は反対したんです。縛るより、縛られる方がいいって。」
「そこじゃ、ねえよ。」
「ハウっ。」
変態ケンタウロスは悶えている。
「ゼロ様、試そうなどと軽い気持ちではございません。これは試練なのです!! 子宝に恵まれれば『良し』、しかし恵まれない可能性もございます。その時、ゼロ様は私たちを捨ててご家族のもとに帰る気持ちをより強くしてしまうんではないかと私たちは不安なのです。ですから今夜一晩懸けて愛し合い、共に試練を乗り越えましょう。もし、試練を乗り越えられなかったら、趣旨を変えて、ゼロ様を骨抜きにさえしてしまえばいいとみんなで結論を出したのでございます。」
ヤバい、もう言ってることが無茶苦茶だ。
「ゼロ、頑張っていい家庭を作ろうね。」
縛られている男に向かって言わなければいい台詞だろうが、この状況では脅迫にしか聞こえない。
「ご主人様、大丈夫ですよ。私は捨てられてもずっとお側にいますから。」
完全にストーカー宣言出ました。この人たち日本なら即逮捕レベルの犯罪者ですよ!!
「あのなぁ、俺をそこまで思ってくれるのは嬉しいけど、このやり方は間違いだ。俺はお前たちに好意を持っている。抱きたいとも思ってる。そこで一線を越えるのは簡単かもしれない。でも、本当にお前たちが大切だからきちんと順序を守ってだな・・・。」
言っていることは青臭いかもしれないがこれが私の本音だ。
「ゼロ様、そこまできちんとわたくしたちのことを。」
「ありがとう、ゼロ。」
「ご主人様、感激いたしました。」
よし、これで今日は乗り切れただろう。後は、理性君が本能君をいつまで打ち倒すことが出来るかにかかってくるなぁ。頑張ろう、私。彼女たちをきちんと大切にするために。
「「「でも、今日は特例ってことで!!!」」」
私の気持ち全然伝わってなかったああああああああああああああああああ。
服を脱ぎ襲ってくる美女たち。
ハーレムには違いないことは違いないんだろうが、想像していた異世界ハーレム冒険忌憚とあまりにもかけ離れたこの現状に怒りすら覚える。ヒロイン全員肉食系の異世界ものがあってたまるか!!奥手のヒロインたちの気持ちに気付かない鈍感主人公こそ異世界もののテンプレ!!それなのにこいつらと来たら・・・。
「あほかあああああああああっ!?」
私は縄を力で引きちぎる。
が、
ここで状況が悪化する。
縛っていた縄の下から出てきた私のリトルゼルダが2D仕様から3D仕様にアップデートされていたのだ。
「ゼロ様、ささ、こちらへ。」
「ゼロ、我慢しなくていいよ。」
「ご主人様、是非ともご寵愛を!!」
く・・・、たまに真面目に話してみれば誰もきちんと聞いてくれないし、挙げ句の果てにリトルゼルダにも裏切られる始末。はぁ、情けない。魔王討伐しても自分を好きといってくれている人たちと向き合うことも、自分自身をきちんとコントロールすることも出来ないとは。
あ~あ、もうR15で禁止していることしちゃおうかな?
いかんいかん。もう少しでこの小説が違反報告されるところだった。
「ああ、もう、とにかく、今日はそういうことなし!! 言うことを聞けないなら婚約を破棄します。」
ビクッとなり、動きが止まる弥生とサラサ。しかし、ファウナは止まらない。
「ご主人様、私は婚約していないので言うことを聞く必要はありませんよね?」
「ああ、そうだな。だが、これ以上何かしようとするなら、お前をケンタウロス族の里に送り返す!!」
「な・・・仕方ありません。今回は諦めましょう。」
ファウナは何故か知らないがケンタウロス族の里に帰ることを異常なまでに毛嫌いしている。
よし、これで本当に一件落着かな?
「よし、とりあえず、服を着なさい。」
「「「はい。」」」
諦めた3人が服を着る。これで俺のリトルゼルダも2Dにダウングレードされるだろう。
「さぁ、今日はもう寝ろ。俺も寝る。」
「あのゼロ様、ゼロ様と一緒に寝させていただくことは出来ませんでしょうか?」
「だからそう言うのは・・・。」
「そうじゃなくて、Hなのじゃなくて、ただ一緒に寝るのも駄目?」
「いや、駄目ではないけど・・・。」
「では、是非にお願いします。」
「う~ん。でもなぁ。」
「一緒に寝てくださるなら、もう無理矢理こちらから襲うことは致さないとお約束させていただきますので、お願いいたします。」
「約束するよ。」
「約束します。」
駄目じゃないけど、私の理性君がかなり厳しい戦いを強いられることになるだろう。
「わかった。でも、次襲ってきたら・・・。わかってるな?」
「「「はい。」」」
嬉しそうにする3人。私たちは4人で朝まで寝ることとなった。
「おやすみ。」
「「「おやすみなさい。」」」
おやすみ、みんな。おはよう、リトルゼルダ。今日は多分なかなか寝付けないんだろうなぁ。
『あれ、そう言えばルーク先生はどうしたんだろう?』そんなことを考えながら私はゆっくりと眠りに落ちていったのであった。




