After それぞれの思惑
竜人族の里への帰り道にも鬼族の里に寄ったが、特に異常は見られないらしい。こうなるといよいよ巨人族の暴走だけで話が片付いてしまいそうだ。しかし、なぜ自分たちの里を滅ぼした後、近くのオーク族の里や猫人族、犬人族の里を襲わずに、竜人族の里に現れたかという疑問は残る。偶然武術大会の話を聞いて戦いという響きに引かれて移動したという可能性も残るが、それまで一切の破壊行動をせずに竜人族の里にたどり着くというのは彼らの性格からして想像しにくい。やはりあの女が何かしら絡んでいると思っておいた方が無難だろう。警戒はすることに越したことはない。
竜人族の里に戻った私たちは思ってもみなかった『大歓迎』を受けることになる。里を去るときは『巫女』に対する不満が溢れ出し始めていた様子だったが、巨人族との戦いを目撃した兵士や一般市民が私やサラサの奮闘ぶりを説いて回ってくれたらしい。巨人族が滅んだことも態度が軟化したことに影響を与えたようだ。公式発表では巨人族は『内戦』で滅んだと事実を伝えているのだが、本当は同胞を殺された怒れる巫女とその伴侶が巨人族を皆殺しにしたという噂が出回っているらしい。お陰で私に貼られていた『変態スケベ野郎』のレッテルは剥がされることとなったのだが、『巨人キラー』という野球のピッチャーが頂戴するような有り難くない新たなキャッチコピーを付けられることになってしまった。
竜人族の里に到着してから数日間は里の外で見たことの報告と里の復旧作業の手伝いであっという間に過ぎてしまった。
一週間がたった頃、弥彦が訪ねてきた。弥彦はレスターと私を交え3人だけで話がしたいと言い出した。
「レスター殿、竜人族と鬼族との同盟の件でお話がございます。」
いつものおっさん口調ではなく、改まった頭領らしい口調で話し出す。
「鬼族の中で今回の事件のことを踏まえて同盟のことを話し合ったのでございます。その結果、私たちはこの同盟を白紙に戻していただきたいという結論に至りました。」
おいおい、竜人族の里が襲われたこんな時だからこそ強固な同盟を結び『敵』に対抗していくことが必要なんじゃないのか?
「奇遇でございますね。某たちも全く同じ提案をさせていただこうと話し合っていたところでございます。」
おーい。確かに政治的なことはそっちに任せるって言ったけど、素人の俺でも連携していた方が良いのはわかるぞ。
「では。」
「ええ。」
「「希望の民連合を作るということで宜しいですね。」」
え? いきなりハモってとんでもないことをおっさん2人が言い出したんですけど・・・。
「では、まずは各里に連合参加を促す使者が必要になって来ますなぁ。」
何この芝居掛かった台詞。チラチラこっち見てるし。
「そうですなぁ、自由に動けてかつ人を説得できる魅力と襲われたときに自分を守る強さを持った人物が適任でしょう。」
いやいや、この人たち絶対打合せしてからこの会合に望んだでしょう?
「だが、断る!!そもそも人を説得できる魅力なんて持ち合わせてないし。自由に動けるって言ったって、連合参加を促す使者が部外者の俺って言うのはどう考えても無茶があるだろ。」
「ほぉ、ゼロ殿は自分に魅力がないとおっしゃるのか? ご心配召されるな、ゼロ殿は魅力的な男ですよ。ワシの娘を骨抜きにする程度にはですがな。」
ガハハハと笑い出す弥彦。
「それに部外者ですと? 竜人族の巫女の伴侶と呼ばれる男が部外者な訳ないではないですか。」
大袈裟に驚くフリをするレスター。
「まさかその噂流したのレスターさんじゃないだろうな? まぁ、噂がどうあれ実が伴なわなければ意味がないだろう。」
私のその言葉を聞いて2人がニヤリと笑う。嫌な予感がする。
「「では、実が伴えさえすれば宜しいのですね?」」
その言葉とともに、弥生とサラサが入ってくる。2人とも民族衣装を何故か着込み着飾っている。
「これは一体どう言うことかな?」
私は嵌められた感を感じながらも弥彦とレスターに詰め寄る。
「ですから実を伴って頂こうと思いまして。」
「「我らが巫女様たちと婚約を結んで頂きたく存じます。」」
いや、存じますって言われても。
「ゼロ殿も巫女様たちを悪くは思ってはいないのでしょう?」
「いや、それは勿論そうだが・・・。」
私は諦めて本心を話すことを決めた。やり方は気に入らないが、2人は2人なりに鬼族と竜人族の未来を考えての行動だろうと思ったからだ。
「弥生には話したが俺は家族ともう一度やり直したいという気持ちをまだ持っている。そんな状況で部族にとって最重要人物である巫女と婚約をするとことは良い考えだとは思えない。特に2人の巫女がそんな事を望まないだろう。」
「ゼロ殿、この提案は2人も賛成したことでございます。」
私は2人の巫女の顔を見る。2人は微笑みを浮かべて頷く。
「いや、でも。」
断る理由を探す。
「そうだ、弥生は一夫多妻制は反対なんだろう?」
弥生はにっこりと笑い。
「はい。でも、もう諦めました。他の女性がゼロ様を慕う気持ちもよくわかりますから・・・。ただし、一番はサラサ様にも、もと奥さまにも渡す気はありませんから。それに『本気』はまだしも『浮気』にはきっちりお仕置きさせて頂きます。
「弥生、あたしだってゼロの一番は譲らないから。」
「いや、一番って、竜人族は一夫多妻制は禁止のはずだろ?」
「ええ、昨日まではですけど・・・。今朝、議会で改正案が通りまして、同意があれば一夫多妻も多夫一妻も出来るようになりました。」
おいおい、この話を進めるためにそこまで無茶します?
「ゼロ様、わたくしもサラサ様もゼロ様の気持ちを知った上でそれでもお側に置いて欲しいとお願いさせていただいております。せめてゼロ様が家族と再会するその日まで、私たちにチャンスを頂けないでしょうか?」
深々と頭を垂れる弥生。
「ゼロ、絶対ゼロの一番になって見せるんだから。だから、あたしたちにチャンスを頂戴。」
サラサも頭を下げる。
ここまで気持ちをぶつけてくれる相手を無下には出来ない。
「わかったよ。でも、とりあえずは立場だけの婚約者だ。連合が上手く立ち上がるように俺も全力を尽くしても協力させてもらう。それで良いな?」
「はい。」
「ありがとうございます。」
「ゼロ様、これからもよろしくお願いします。」
「ゼロ、大好き。」
はぁ、また面倒な役割を受けてしまったものだ。
しかし、この役目、1つだけ重大な問題がある。
いつまで私の理性が持つかという重大な問題が・・・。
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