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それぞれの思惑 8

準決勝での突然の自爆。追い詰められた先の悲しい結末に私には思えた。


悲鳴が響き渡るコロッセオ。死傷者はトール本人以外は私しかいないようだが、祭りを見に来ているつもりだった観客には刺激が強すぎることだろう。何せトールの肉片は観客席にも飛び散ったのだから・・・。しかし、それは文字通り本当の地獄の始まりの合図でしかなかったのだ。


「うぉおおおおおおおおおおおおお。」


コロッセオの外で大きな声が聞こえたのと同時に土埃が舞い上がり、人々の悲鳴が響き渡る。


「申し上げます。巨人族が里を襲撃し始めました。敵は10体。直ちに兵を防衛にあたらせてください。」


外で見張りをしていた衛兵だろう。その表情から外の惨劇が簡単に想像できそうなほど彼は取り乱している。


「全兵、直ちに防衛戦に入る。戦闘部隊は某に続け!!後方支援部隊は住民をコロッセオに案内せよ。ここを避難所とする。」


指示を出すとレスターは兵を待たず、単身で巨人族を目指して突っ込んでいった。


さて、私はどうするべきか悩むところだ。何故なら明らかに陽動作戦の臭いがプンプンするからだ。陽動と前提すると狙いはここに集まっている各国の要人の誘拐、もしくは殺害。他には竜族の秘密や秘宝の奪取。他里へ進行するため、その里の首脳陣の足止めと言ったところか。陽動でないとすると、竜人族の里の破壊ないし破滅、竜人族の最強説の崩壊。うーん、どれもいまいちピンと来ないな。しかし、他には思いつかないのでその線で対応するしかないか。ならば守るべきものは。


「弥生、サラサ、ルークこっちに来い。巨人族の討伐の手助けに向かう。弥彦さん、急いで里に帰って守りを固めた方がいい。可能性は高くないが鬼族の里も襲撃される可能性があると思う。」


「了解しました。」


弥彦は直ちに部下と鬼族の里へと帰っていった。その時、町の方で大きな爆発音が響いた。トールが自爆した時と同じ音だ。巨人族の誰かが自爆したのだろう。急いだ方が良さそうだ。


私は仲間と共に、里の中心へと向かう。


「弥生、巨人族のあの爆発なんだが、あれは『術』なのか?」


生命エネルギーを見ることが出来る弥生に尋ねる。


「恐らくはそうだと思われます。爆発の前に生命エネルギーが体の中心に向かって集まって行くのを感じました。」


自爆。『術』としては使い勝手が悪い・・・と、言うか絶対に使いたくない『術』だが、使われるとこれほど厄介なものはない。特に巨人族が使う場合、最悪の組み合わせだ。頑丈な肉体を持つ彼らには遠距離攻撃が効きづらい。と、すると倒すすべは必然的に直接攻撃だが、そこはもう爆発の範囲内であるため、自分を犠牲にする覚悟を持った者しか踏み込めない領域だ。


「ドコーン。」

また爆発の音が聞こえた。早くしなくては。


戦場に着く。そこに広がっていたのは未だかつて見たことがないような凄惨な現場だった。家々は崩れ落ち、火の手が無数に上がっている、子どもが親の名前を呼ぶ泣き叫び、親が子を探し慟哭する。どこもかしこも死体が溢れている。無差別殺人。巨人族は兵士だけでなく、民間人も平気で手にかけている。


「面白いなぁ、チビども簡単に壊れる。」

「火って綺麗だなぁ、もっと燃えろ。」

「あれぇ、今、なにしに来てるんだっけ?」

「あはは、あははははははは。」

「薬いっぱい、もっと楽しい。」


信念も正義も悪意すらない無垢な巨人たちが住民や兵士を蹂躙している。レスターは一生懸命戦ってはいるが、打開策を見つられず後退を余儀なくされている。巨人族の残りの数は7体。2体は自爆で1体は切り殺されたらしい。殺したのはレイスらしい。ただし、そんな彼も2回の爆発のどちらかに巻き込まれて物言わぬ無惨な姿に変わってしまっている。


怒りが込み上げてくる。巨人族に、あの女に。そして、自分自身に。何が大切な物を守るだ。鬼族も、竜人族も大切なものに含まれる? なのに、何だこの様は!! もっときちんと対策を取っておけば、もっと早く駆けつければ、あの時、あの女を殺しておけば!!


その時、突然目の前が暗闇に覆われた。


温かい何かに包まれている?


「ゼロ様、一人で全てを背負わないでください。」

「ゼロ、ゼロの気持ちは嬉しいけど、私たちのこともっと頼ってね。」


弥生とサラサに抱き締められていた。


「「だから、闇に堕ちないで。」」


闇に堕ちる? 意味がわからないが2人の真剣な眼差しが余程の事だったのだと伝えてくる。


「ああ、すまなかった。もう大丈夫、落ち着いたよ。」


2人は安堵した様子を見せる。


「では問題はどうやって彼らを止めるかと言うことでございますね?」


「ここまで好き勝手やってくれたんだ。殺す以外ないさ。」


サラサが言葉をオブラートに包むこともなく良い放つ。それに弥生が同調し、


「失礼しました。どうやって殺すかですね。」


そう、問題はどうやって爆発されずに倒すかだ。1体や2体ならいざ知らず、7体の巨人族を爆発されないように一瞬で倒す。最早不可能に近い。失敗すれば、私も死ぬだろう。爆風に巻き込まれて吹っ飛んだということは、それだけの威力があの爆発にはあると言うことだ。


「せめて30秒、術の発動を抑えられたら・・・。」


私が悔しさを滲ます。


「え、30秒なら私なんとか出来るよ。でも、その間、ゼロも術を使えなくなっちゃうけど。」


サラサの説明によるとサラサの術は一定範囲の全ての術の発動を無効化するらしい。ただし、敵味方全ての術を無効化するため、使い道はないと思っていたらしい。


「え、ゼロのその身体能力の高さってって『術』じゃないの?」


「ああ、これはただのナチュラルパワーだ。」


呆れたようにサラサは私を見るが、直ぐに真面目な顔に戻り、


「本当にやるのね?」


と、尋ねてくる。


「ああ。」


私は答える。自分の不甲斐なさが招いた大勢の竜人族の死。私が命を懸けるのには十分な理由だろう。


「ガウっ。」


どこから持ってきたかはわからないがルークが『黒龍の牙』を渡してくれた。


「よし、行くぞ。」

「どうかご武運を。」

「行こうゼロ。」


私たちは走り出す。


「レスターさん、あいつらは俺らが何とかする。爆発するかもしれないから全軍引いて、住民を避難させてくれ。」


レスターは驚いた表情を見せるが直ぐに指示を出す。


「全員後退、住民の安全確保を最優先とせよ。」


私たちが巨人族の目の前に立つ。


「お前らはやり過ぎた。地獄で反省してこい!!」

「ゼロ、行くよ!!」


その瞬間、サラサを中心に薄い緑色の透明な幕が半径200メートル程に膨れ上がる。私は容赦なく巨人族を駆除し始める。


1体、2体、3体。10秒も掛からずに始末する。ここで、巨人族は4方に走り出す。この円の中では自爆できないことを悟ったのであろう。


4体、5体、距離が離れてしまったためここまで20秒。間に合うか?


6体。


最後の一体を追いかけようとした瞬間。サラサの術が『バリン』と音を立ててくだけ散った。同時にサラサが崩れ落ちる。生命エネルギーを極限まで使ってしまった影響だろう。


私が追うのを止めて立ち止まった時、巨人族の最後の一体も逃げるのを止めた。


ああ、もうここまでかな。


巨人族がこちらに向かって走り出す。


せめて、爆破には私以外の誰も巻き込まない様にと、覚悟を決めたその瞬間、私の横を9本の矢がすり抜けて巨人族に突き刺さった。矢はなんとそのまま巨人族ごと空中に上っていく。そして、最後の一本が心臓を撃ち抜いた時、巨人族は一人空で散ったのだった。


「ご主人様。命をお救いしたのですから第3婦人もしくは性奴隷と認めていただけますね?」


私を救ってくれたのは変態ケンタウロスだった。



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