魔族討伐遠征 2
ブロンド美女は次々と討伐参加希望者を打ち倒していく。部下らしい男の嘆きも最もで、確認できる合格者はゼロだ。まぁ、昨日の今日で有名な戦士や冒険者、高い戦闘能力を持った犯罪者がそこそこの褒賞金を目当てで討伐に参加するとも思えないし、ブロンド美女の言う通り足手まといになって殺されるだけの奴等だ、当て馬程度にはなるかも知れないが、金貨5枚の価値はないだろう。前に並んでいた人がまた一人倒された。あと、一人ヤられれば私の順番だ。とりあえず前の人との戦闘中に彼女の動きを観察させて頂くことにしよう。
「始め。」
掛け声と共に前の男が一直線に相手に向かって上段からの一撃を振るおうとしたときには既に勝負は着いていた。至近距離にいた男にはブロンド美女の動きが見えなかったかの様にその場に崩れ落ちた。まるで参考にならなかった。なぜ彼が魔族討伐に参加しようと思えたのか。とりあえず魔族に殺される前に彼女に倒されて幸運だったと思って欲しい。さて、いよいよ順番が回ってきた。まずは模擬戦の説明を部下らしき男から聞かされる。
「戦闘時間は最大3分。終了後に大きな怪我がなく立っていられたら合格とする。又、倒されてしまった場合でも力がありと認められれば合格とする。尚、試験中の負傷については当方に一切の責任がないこととする。武器はそこにある木造のものから好きなものを選ばれよ。質問がなければ試験を開始するので武器を持て。」
上からの物言いにカチンときたが、役人はみんなこんなもんだろうと思い我慢して、大人しく木刀を手に取った。
「始め。」
3分立ってればいいと言うことで、暫く仕掛けずに立っていると、隊長さんの気配が変わった。
「貴様私をなめているのか。」
怒気を含んだ口調で尋ねてくる。
「いいえ、3分立ってればいいんですよね。」
「そうだ。立っていられればな。それが無理だと他の参加者はわかっているから切り込んで力の一端でも見せようとしてくるわけが。」
「はい、でも、やってみなければわからないとは思いませんか。それに他の参加者は力の一端どころか醜態しか見せていないんだから、斬り込むのが賢いとは思いませんが。」
挑発する気は無かったのだが、隊長さんは私の言い方が気に食わなかったらしく自分から仕掛ける気になってしまったようだ。残念ながら3分間立っているだけの簡単なお仕事は攻撃を防ぐというお仕事に変わってしまった。倒してもいいんだけど、あんまり目立ちすぎても危険な気がするので、防御一択でギリギリ感の演出を付けてみることにする。
まずは隊長さんの一撃。先程前に並んでいた奴を倒したものと同じ軌道だ。取りあえず防ぐことにする。防がれることを予想してなかったのか、一瞬隊長さんの動きが止まる。これが実戦なら致命的な油断だ。本人もそれを自覚したか後ろに飛び退き呼吸を整える。先程と違いその顔にはこちらを見下す色も油断も感じられない。
高速の3連撃。同じように防ぐことにする。今度は間髪入れずの3連突き。を、避ける。ギリギリ感を演出したつもりだが、どうやら失敗したようだ。どよめきと共に丁寧に私の失敗を指摘してくれる声が聞こえた。
「嘘だろ。サーナ隊長はこの王国で10本の指に入る剣士だぞ。それをあの変なお面をしたやつは顔色ひとつ変えずに攻撃を見切っているだと。」
仮面をしているから表情はばれていないはずだが、ここで初めて私の顔色が変わった。彼女の名前はサーナと言うらしい。あ、注目するところはそこではなかった。この王国で10本の指に入る剣士。彼女が言った「私一人云々」の件は本気だったのだ。てっきりただの町の小隊長クラスだと思って3分逃げ回ろうと思っていた私の計画は変更を余儀なくされる。野菜の国の王子様は栽培可能な兵士の自爆レベルで倒せるくらいの相手の微妙な戦闘能力の違いは片目に装備する某戦闘能力測定器がないとわからないので、もう少し注意が必要だったと反省するが後の祭りである。サーナの攻撃を捌きながらこの試験の落とし所を考える。
1、やられたフリをする
うーん、やられるんだったら、3連撃辺りでやられるべきだったな。ここで攻撃を食らってもわざとらしさが半端ない気がするし、プライドが高そうな隊長さんが無理やり不合格にしそうな気もするし、何よりやられるのは嫌だから却下。
2、このまま3分逃げ切る
まぁ、妥当な選択とは思うけど、逃げ切ると遺恨が残って折角立った例のフラグが回収できなくなりそうなので、
3、取りあえず勝っちゃってみる
そうと決まれば、勝ち方だが、まずは足払い、転んだ相手の首筋に木刀の寸止め。負けを認めた相手に手を差し伸べ、私が勝てたのはあなたが連戦で疲労していたからですよと伝える。彼女の名誉も守られ、彼女から感謝の言葉と共に魔族討伐への参加の依頼、快諾した私は彼女と協力して依頼を遂行。相応の活躍をして報酬獲得と同時にフラグ回収。完璧な計画だ。では、いざ尋常に。
足払い。
サーナはかわせずに転んだ。
木刀の寸止め。
彼女は動けずに勝負あり・・・だよね。
審判から勝負ありの声は掛からないが、誰がどうみても結果は明らかである。未だに動かない。こちらから声を掛けるべきかと思い、木刀を下げたその時、予想外の展開が起こる。
「貴様、試合の途中で刀を引くとはどこまでこの私を侮辱すれば気が済むんだ。」
台詞違くない?
彼女の回りに赤い蒸気の様なものが集まる。俗に神の加護と呼ばれるものだ。つまり、彼女は魔法剣士で炎系の魔法を私に放とうとしているということだ。それって試験じゃなくて死験になるんじゃ・・・まぁ、やられないけど。しかし、どうやら魔族討伐の報酬とフラグ回収は失敗に終わったようだ。
「そこまで。」
突然、声が響き、兵士たちは膝をついた。今の今までメデゥーサのように暴れ出しそうだったサーナまでもが膝をつき畏まってる。仕方ないので、私も膝をつき敬意を示すフリをする、だってあれたぶん領主だろ。
「サーナ、素直に負けを認めるのも騎士として必要な素養だとワシは思うが、主はどう思う。」
「申し訳ありません領主様、剣の腕と共により一層の精神修行に勤しみたいと思います。」
「うむ、精進せよ。で、仮面の男、見事な戦いだった。ワシは主に魔族討伐に赴いてほしいが、主は参加してくれるかのう。」
「はい、ご配慮感謝します。」
「さぁ、参加試験を続けなさい。より多くも強者が討伐に向かってくれることを願っている。それからサーナ、お前は少し休みなさい。アルフ、後は任せましたよ。」
「はっ。」
サーナは私に非礼を詫び、屋敷の奥へと去って行った。領主とヤラシい事をしなければいいがと祈りながら、試験が終わるのを待つことにした。
最終的に合格者は私を除き4名、剣士が2人と弓使いが1人、そして魔導師が1人。このメンバーに隊長さん部下A、それに部下BとCが戦闘用意として、DとEがポーターとして付いて来るらしい。決行は2日後。私たちは金貨5枚づつを受け取り、それぞれ討伐準備に向かうことになった。
私はとりあえず宿屋に戻り、今日の事を思い出してある決意を固めた。
今日はブロンドの娘を指名しよう。