表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/100

それぞれの思惑 7

「それでは準決勝第二試合、巨人族の拳『トール』vs 変態鬼畜スケベ野郎を始めます。両者、前へ。」


キャッチフレーズが進化した代わりに、とうとう名前を呼ばれなくなりました。ちなみに客席からは大ブーイングです。


「試合、始め。」


さて、どうやって戦おうか。近くで見ると一段と大きく見える。正直、単純な『力』ではこの世界の誰にも負ける気がしなかったのだが流石にこのサイズと正面から力比べとか怖いわ。そうするとやはり、弱点を突くしかないけどうなじを切り裂く道具がないしなぁ、やっぱり、単純にスピードで掻き回すのが一番かな。


一回戦と同じくトールは蹴り上げにくる。避けるのはさほど難しくないが大迫力だ。こんなの防ぎたくないし、完全にビビっていったオーク族の気持ちはよく分かる。いや、私はビビってないけど、マジで。


私が避ける展開が暫く続いているのだが、観客からは歓声も罵声も聞こえない。もし、私が敗れたらレイスとトールが戦うことになるので、それの心配をしているのかもしれない。正直、レイスとトールの相性は良いと思う。スピードでは圧倒的に分があるし、彼の術があればトールを切り裂くことは出来そうだ。まぁ、この攻撃の圧にビビらなければの話だが。後はトールの『術』次第なところもあるのだろうけど。


「ははは、お前強いな。心が弱い他のチビどもとちょっと違う。」


頭上から野太い声が聞こえる、トールだ。


「それはどうも。でも、人のことをチビって言うのはあんまり感心しないな。お母さんに悪口は良くないって言われなかった?」


「母親も私たち以外の人をチビって呼んでいた。」


「ああ、そう。じゃあ、とりあえず、あんまり良い言葉じゃないからやめなさい。」


「私たち木偶の坊とバカにするチビどもと何が違う?」


「いや、その木偶の坊って呼ぶ奴も悪いから、もし、俺の前で巨人族をそう呼ぶ奴がいたら、注意するから、トールもチビって呼ぶのやめなさい。」


「お前、強いし面白い。俺、もっと面白くなりたい。」


そう言うとトールは腰の袋から何か取り出し口に含んだ。


「ああ、良い感じだ。」


トールの目が以上に血走り始める。


「さぁ、もっと楽しもう。俺、さっきより強くて早いから頑張って避けて。」


トールが相変わらず蹴り上げ攻撃を仕掛けてくる。トールの言った通り、先程とは比べ物にならないスピードだ。レイスと比べても遜色ないレベルまで上がっている。


「トール、急にどうした? 今のは何だ?」


「これ、楽しくて強くなる薬。あんまり飲むと駄目ってあの人から言われてるけど、いっぱい飲むといっぱい楽しくなる。」


何だかきな臭い話になってきた。


「あの人って誰だ?」


「退屈だった俺たちを楽しい気持ちになる薬くれた俺たちの恩人、名前は知らないけど、銀色の綺麗な髪をしていた女。」


ああ、やっぱり。


「トール、今すぐその薬を捨てろ。それは多分巨人族を滅ぼしかねない悪魔の薬だ。」


「知ってる。でも、退屈なの死ぬより嫌だ。それに死んだら楽しいこといっぱい待ってるってあの人が教えてくれた。」


「それは、お前たちを操る為の嘘だ。」


「どうして嘘ってわかる? 俺、この薬使ってから楽しいこといっぱい増えた、仲間も一緒。だからあの人を嘘つき呼ばわりするお前悪いやつだ。悪いやつ倒すと、死んだらもっと楽しいとこ行ける。」


駄目だ、完全にやつの術中にはまっている。仕方ない、無理矢理にでも更正させるしかないようだ。


トールの蹴りを避けて反対の足を払う。トールはバランスを失い尻餅を突く。そこに足に向かって集中放砲火の蹴りを入れる。これだけやれば、立ち上がることはできないだろうってほど、蹴りを見舞った。あんまり、無駄にダメージは与えたくないが、これもトールのためだ。早めに試合を終わらせて薬をやめさせなければ廃人になってしまうだろう。


しかし、トールは何事もないように立ち上がった。


「今の俺、痛み感じない、むしろ全てが楽しくて気持ちいい。」


トールはまた袋に手をかける。


「やめろ!!」


静止の言葉も虚しくトールは薬を使用する。


「があああああああああああ。」


もはや自我を保つことも出来ない様だ。


そこから先は地獄だった。倒しても倒しても立ち上がってくるトール。私の攻撃は彼に回復不可能なほどのダメージを与えてしまっているだろう。くそっ、本当に胸くそ悪い。どれくらい殴り続けただろう。観客はファウナの時とは違う別の意味で凄惨な現場に言葉がでないようだ。


やがてトールは立ち上がれなくなった。


「勝者、ゼロ。」


そう、勝ち名乗りを受けたとき、再びトールが動き出す。


「ぼれ、がでながっだ。わるいやず、たおせない、わるいご、いいどごろいげない、いやだあああああああああああああああああああ。」


叫びながらこちらに突っ込んでくる。トールの体から真っ赤な光がほとばしる。


あれはヤバい。そう思って距離を取った瞬間。私は爆風でコロッセオの壁に叩きつけられた。そして、トールが立っていたところには大きな穴が空いている。


彼は自爆した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ