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それぞれの思惑 1

「いや、だから、そう言うんじゃなくて、俺も四六時中監視されていると息が詰まるわけで・・・。」


もう、いい加減にしてほしいと私は訴える。


「監視ではありませんゼロ殿。ゼロ殿は巫女様と並ぶこの里の最重要人物と言っても過言ではないお方。しかも我が里には今だかつてないほど大勢の他部族の民が訪れています。いつどの様な危険が降り掛かるかわかりません。本来なら屋敷から外に出ることさえ禁止させて頂きたいのですが、ゼロ殿が『外出させなければ武術大会に出ない』と、まるで子供のように駄々をこね始めたので仕方なく警護をつけさせて頂いている所存でございます。」


駄々だってこねたくなる。約束通り1週間前に竜人族の里に着き、登録を済ませてから4日間ずっと屋敷に軟禁されていた訳だが、その間、運ばれる食事には毒を5回盛られ、ちょっと腕に自信が有りそうな戦士はところ構わず立ち会いを申し込んでくる始末。竜人族の女中の中には私を籠絡しようと寝床に忍び込んでくる奴もいた。まぁ、弥生とサラサに見つかってきつめのお仕置きを受けることになったらしいが・・・。これならまだ野宿の方がましだ。


よし、決めた。逃げよう。


「レスターさん、武術大会当日に屋敷に戻るから、それまでは自由にさせてもらうよ。」


「ゼロ殿、何を言って・・・。」


レスターの言葉を最後まで聞くことなく私とルーク先生は風のようにその場を去ったのだった。


ここ最近はどこに行くにも弥生が付いてきた為、本当に一人になるのは久しぶりだ。知らない町を自由にブラブラ歩く。バックパッカーだった私にはこの上ない贅沢な時間だ。とりあえず、顔がわれているだろうからターバンとマントを購入・・・って、あれ、ここって人間の通貨って使えたんだっけ? ここ2ヶ月半、希望の民の各里を回って知ったことだが、自然と共に生きていたはずの希望の民もここ100年の間に変化が生じ、部族によっては科学と言うものに手を出しているところもあった。その様な里は大体通貨を使用して、効率化を図っていた。まぁ、鬼族の里の様に物々交換というところもなかった訳ではないが・・・。竜人族の里は勝手なイメージでは古代ローマ的な町並みをしている。確か古代のコンクリートを使用してコロッセオとかを作ったと聞いたことがあったような気がしたが、記憶が曖昧なため定かではない。ここもコンクリート的な何かを使っているかは建築の知識がない私にはわからないが鬼族の里に比べると近代化が進んでいるのは間違いない。周りを観察した結果、ここも通貨制を採用しているようだ。ならばと、私は近くの宝石屋に駆け込む。


「この石を換金したいんだが、いくらになる?」


「お兄ちゃん、いい石を持ってるね。どこで採れたんだい?」


店主が珍しい石に目を輝かせて訪ねてくる。この石は希望の民の里を回っているときに偶然手に入れたものの一部だが、それでも結構な価値があるらしい。


「100万リュージュでどうだ?」


「そうか、なら換金はしない。別の店に行ってくる。」


海外のマーケットでは絶対に店側が言ってきた値段を信じてはいけない。日本人の感覚だと安いと思っても、実際にはその20分の1が相場ということも多々ある。特にタイでは気を付けてください。


「そうか、200万までならうちで出すから買い手が付かなかったらまた来てくれ。」


簡単に倍の値段で買い取ると言い出した。どこの世界でも商売人とはかくあるらしい。その後、数件の店を周り、結局750万リュージュで売却出来た。最後の方は店主も涙目になってたから相場より高く売れたかもしれない・・・もしくはそれすらも店主の演技かもしれないが。


とにかく手持ちは750万リュージュ。今日はこれで、思いっきり遊んでやるんだ。と、いってもリュージュの価値が全くわからないからどのぐらい遊べるかは不明瞭だが。


まずはターバンとマントを購入、400リュージュ払った。町の地図100リュージュ。昼御飯200リュージュ。生肉50リュージュ。龍の形をしたお守り500リュージュ、喉が乾いたので飲み物30リュージュ。面白かったので買った竜人族の角を模したカチューシャ400リュージュ。


うん、これって全部使いきれない額だね。ひょっとして大金持ちなんじゃ。大金を持っているとわかった途端、周りの人が全員このお金を狙っているような錯覚に襲われる。


「とりあえず、今日の宿泊場所を決めるか?」


私はルークに話しかけるが、彼は私の心を見透かした様に冷たい視線を向けてくる。


私は地図で見つけた宿屋がひしめくエリアに向かい。少し豪華な部屋を借りる。生肉とお金の大半をルークに渡し、


「ルーク、俺はこれからちょっと偵察に行ってくる。生肉は好きなだけ食べていいからこのお金を守っておいてくれ。」


ルークの眼差しが一層冷たくなるのを感じたが、これも任務のためだ。許せルーク。


私は宿を飛び出し、少し薄暗い部屋に侵入する事に成功する。中には人影が1つ。よし、予定通りだ。


続いてターゲットの顔を確認。よし、間違いない。


私は次の行動に素早く移る。服を脱ぎ、彼女に近づき抱きしめると、彼女はしゃがみこみ・・・。


「ドコンッ!!」


物凄い音がして、部屋のドアが破られる。


どうやら敵に感付かれたようだ。私の今の装備はゴム製の小さな小さな帽子だけだ。これで、強力な敵の攻撃を防ぎきれるか心配だがとりあえず、戦うしかない。なにこのデジャブ感。


『戦う』『魔法』『アイテム』『逃げる』旧式ゲームの様に4つのコマンドから1つを選ぶ。


『魔法』

全てが夢になる魔法を放った。


魔法は発動しなかった。


敵はにこやかにこちらを眺めている。


『アイテム』

とりあえず、こっそり帽子を外しゴミ箱に捨ててみた。


なにも起こらなかった。


横の女性が逃げ出した。


敵はにこやかにこちらを眺めている。


『逃げる』


だが逃げられなかった。


敵はにこやかに眺めている。


『戦う』


私は言い訳を考えてみた。


何も思いつかなかった。


敵はこちらを眺めている。


『戦う』


私は何事もなかった様に敵に話しかけた。

「よくここがわかったな。ここなら見つからないと思ったんだが、流石だな、弥生。」


弥生はにこやかにこちらを眺めて話しかけてきた。


「まさかとは思いますが、どこにいてもわたくしがゼロ様の居場所を感じ取れること忘れてはいませんよね?」


忘れてました。ちょっと浮かれててごめんなさい。


『戦う』


私はとりあえず謝った。


「ごめんなさい。でも、ほら俺たち付き合ってる訳ではないですよね。しかもこういう場所って浮気にならないって昔、死んだじっちゃんが言ってたとか言ってなかったとか。」


しかし効果は確認出来なかった。


弥生は天使のような微笑みでこちらを眺めている。


弥生は仲間を呼んだ。

サラサが現れた。


『逃げる』


しかし逃げられなかった。


弥生とサラサはミカエルクラスの微笑みでこちらを眺めている。


『逃げる』


しかし逃げられなかった。


弥生とサラサの攻撃。

「英雄色を好むと言いますけど、わたくしはそう言うのは嫌だときちんとお伝えしたはずです。次はこんなものでは許しませんからね。」

「あたしは伝えてなかったけど、浮気は厳しく罰するから覚えておいてね。」


痛恨の一撃!!


建物は半壊した。


付き合ってもいない女性陣に浮気を咎められ、大会当日まで屋敷に監禁されることになったおっさんに誰か励ましの手紙をください。


そうそう、余談ですが石を売って手にいれたお金は全て建物の修理費に当てられました。めでたし、めでたし。

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