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After 鬼と竜と策謀。時々ライオン

サターナとの会合の後、私とルークはそのまま鬼族の里に向かった。


里に着くと歓迎ムード一色っだったことに少々驚いたが、弥彦がその辺は上手くまとめたらしい。どの様に私へ反発を抑えたかと聞くと、彼は笑って、


「ワシの目の黒いうちは奴に好き勝手やらせん。ワシが生きているうちに正々堂々と奴を打ち倒したものが出てくればその者を頭領代理とし、実質的に里を統治せよ。しかし、ワシが死ぬまでに奴を倒せなければ、潔く奴を頭領と認め、協力して里を治めよ。」


と、言ったことを明かしてくれた。


まぁ、『強さ』に重きを置く鬼族には納得しやすい解決案かも知れないが、弥彦が死ぬまで狙われ続ける私の精神的苦痛は考慮されなかったのが残念でならない。わざと負ければすべて解決になるかも知れないが、私を倒したものが『弥生』の扱いをどうするかわからないという不安要素があるため、結局は向かってきた全てのものを打ち倒さないといけない。弥彦がそこまで考慮しての提案かただの脳筋の思いつきかは知らないが、流石に里を治めている器なんだとこの時はじめて感心した。


続けて彼は私と弥生との仲については、


「認めてほしければワシを倒してから行け。」


と、言い出したので、彼女との交際云々は置いておいて、感心した自分がバカみたいに思えたからぶっ飛ばしてやった。彼は全治3日で今も寝込んでいる。


確かに弥生は素晴らしい女性だと思う。本当に弥彦の子どもかと疑いたくなるほどだ。好きかと聞かれれば好きと答える。だが、その好きが異性としてかと聞かれると非常に答えづらい。正直、私はもと妻のことが今でも好きだし、娘と一緒に3人でまた暮らしたいとも思っている・・・例え、それが限りなく不可能なことだとしても。私のこの気持ちはすでに弥生には伝えた。彼女は、


「今はまだ答えを出さなくて良いので、ゼロ様の所有物として側にお仕えさせてください。」


と、こっちの心が簡単にぐらつきそうな言葉を私にくれた。すぐにとは言えないがもう少し時間がたって落ち着いていろんな事が冷静に考えられるようになったらきちんと彼女の気持ちと自分の気持ちに向き合おうと思う。


で、一通り問題が解決した様に思えてしまったんだが、この後『武術大会』があることを思い出し、憂鬱になってしまった。いや、『武術大会』って、まさかこの年になってから参加させられることになるとは思わなかったし、その参加者がほとんどが、打倒私という嬉しくないモチベーションを持って望んで来るというおまけ付き。優勝すると景品として『サラサ』がもれなく手に入ります。いや、もう面倒事以外の何物でもないでしょう。鬼族の次期頭領が竜人族の巫女の旦那・・・いやいやいや、どっちの部族もなりふり構わず私を消しに来るでしょ。弥彦やレスターはともかく、若いやつらは『正々堂々』なんて綺麗事言ってられないから絶対!!


もう、希望の民連邦でも作って、ハーレム王として君臨するしかなくないですか?


まぁ、サターナがいる限り事はそんな方向には進まないだろうし。今回の『武術大会』はそれこそ竜人族だけでなく鬼族からも複数の参加者が出るだろうし、他の希望の民にも情報は言っているだろうから竜人族を実質支配してやろうと企んでる部族は個人ではなく国ぐるみで色々して来るだろう。もちろん竜人族は誇りをかけて全力で全てを打ち倒そうとするだろうし・・・。


100年間停戦協定で停滞していた希望の民同士の関係性が急激に変化して大きなうねりが生まれるのを感じる。私が巻き込まれる形なのは納得出来はしないが、正直、その流れの中に身を置けたことが内心嬉しく思う。


魔王を討伐して世界を救った気になっていた若かりし日の私は、その後の世界の有り様に絶望した。『世界は全く変わらなかったのだ』。変わったのは勇者パーティーだったのが世紀の大犯罪者に仕立てあげられた私たちの立場と、偽の英雄が祭り上げられた事だけ。王や貴族の生活から、市民の生活、人間と魔族の関係性、その他ほぼ全ての事が魔王がいなくなっても変わらなかった。挙げ句のはてに魔王も復活する始末。異世界に来て『最強の強さ』を手に入れたと思っていた私は結局ただの無力な人間だったのだ。


きっと今でも私一人の力は多分世界を動かすのに足るものではないだろう。しかし、世界を動かせなくても私にしか出来ないことはきっとあるはずだ。『打ち倒す』力を『守る』強さに変えて戦うこと。黄鬼に垂れた偉そうな説教はきっと彼にだけではなく『私自身』にも向けられていたはずだ。私は自分が吐き出した言葉を違えないように、一生懸命大切なものを守るだけだ。今の私には家族だけではなく、鬼族も竜人族も含まれそうだ。そのためには『武術大会』に向けて蠢いている悪意から彼らを守るために全てをぶっ飛ばすしかないだろう。


偉そうに守るって言っても結局力任せなのはご愛敬として、各里の動向は探っておいた方が良いだろう。


面倒くさいけど、何かを失うよりはよっぽどいい。私は失ってしまった仲間を思い出し、決意を新たにする。


「ルーク、これから忙しくなるけどよろしくな。」


私はかけ換えのない友となったライオンに話しかけ、前に進むことを決意したのであった。

今章も読んで頂きありがとうございました。

次章の武術大会は完全に最初のストーリー展開にありませんでしたが、引き続き、一生懸命書かせて頂くのでお付き合いいただけると幸いです。

ブックマーク、評価、感想を頂けると大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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