鬼と竜と策謀。時々ライオン 9
鬼族と竜人族の戦争未遂から1日後、私は今、何故かとある部族の城に客人として通されていた。
客間のドアがノックされて中に銀色の髪をした女性が入ってくる。
「お待たせしてしまって申し訳ございません。何でも私にご用件があると聞いたのですが。ああ、失礼しました。私は『サターナ』と申します。この里を治させていただいている者です。」
「突然の訪問にも関わらずお会いしていただいてくださってありがとうございます、サターナ様。私はゼロと申します。しがない人間族ですが、よろしくお願いいたします。」
「ご謙遜を。ゼロ様の活躍は偵察隊からの報告で聞きおよんでいます。何でも鬼族と竜人族の戦をたった一人で収めてしまったとか。『英雄』とはゼロ様のような人を言うのでしょうね。」
あの戦いを監視していたことを隠す気もなく当然の如く話すサターナ。まぁ、隣国の異変を見逃すようでは自国を治めることは出来ないのだが・・・。
「それで今日は一体どの様なご用件でしょうか?」
「はい、今日はこの一連の企みのことをサターナ様と一緒に話したいと思って失礼を承知で訪ねさせて頂いた次第です。」
「『企み』でございますか?」
「はい。私は鬼族と竜人族が共に何者かにたぶらかされて、戦争が起こるように先導されたと思っております。」
「それは興味深いお話ですね。是非、お聞かせください。」
「ことの始まりは約3ヶ月前、二人の女中が殺されたことから始まります。1人は鬼族の姫の世話係り、もう一人は竜人族の巫女の世話係り。2人の里で同時に同じ役割を担っていた女性が殺されました。明らかに偶然とは言えないと思いませんか?」
「そうでございますね。何か怪しい臭いがしますね。」
サターナが相づちを入れる。
「女中が殺されてから間もなく今度は宮殿が襲われ、双方の巫女が眠りについて目覚めなくなってしまいました。襲撃者は未だに捕まっておらず、侵入経路もわかっておりません。ただ、奇しくも警備のものが全て眠りについてしまっていたようです。そこで、問題となるのが、なぜ誰も殺さないのに警備を全員眠らせる必要があったかなのですが、外部の犯行と思わせることが襲撃犯の目的であったのではないかと私は考えています。」
「つまり、内部の犯行だったとゼロ様はお考えになっていると言うわけですね。」
「その通りです。目的は巫女を眠りにつかせ、もう一方の巫女から術をかけられてると思い込ませること。そのため、殺さないように巫女の世話をしつつ、眠りにつかせ続けなければならなかった。しかし、巫女だけを眠らせてしまった場合、警備の状況から内部犯が疑われてしまう。そうなると動きが制限されてしまうため外部犯に襲われ、犯人は逃げたと思わせた方が都合がよかったのです。」
「なるほど理にかなっていますね。しかし、それだけで戦争が起こるものでしょうか?」
「いいえ、それだけでは起こらないと思います。実はここからが犯人の巧みなところで、お互いが犯人らしいという情報を流した後、鬼族と竜人族にそれぞれ別の策を用いるのです。鬼族には、プライドの塊のような男を誘惑し、強い鬼族を取り戻すためには、双璧をなす竜人族との戦が不可欠と囁き続け暗示にかけ、自国が送るはずだった使者や偵察者、竜人族からの使者をてにかけさせ、鬼族にも竜人族にも相手が礼節も敬意も持ち合わせていない非道の輩だと思わせることに成功しました。竜人族には、巫女が眠りについてしまったため中止になるであろう武術大会の為に腕を磨いていた戦士の心情を利用し、この戦こそが戦士の力を示す場所だという空気を作り上げた。」
「それではその全てが誰かの掌の上の出来事だったのですね?」
「はい、しかし、そこにその『誰か』の計算に入っていなかった異分子が紛れ込んできます。その異分子は眠らされているはずの鬼族の巫女を屋敷から拐っていってしまいました。これは『誰か』にとって、最悪の展開でした。何故なら鬼族の巫女が眠りから覚めてしまうからです。開戦が間近だった為、陰謀が明るみに出る危険は低いとは思ったもののゼロでは無いため、念のため竜人族の巫女を殺し、それを鬼族の巫女の責任にすることと思いつきすぐに実行に移そうとしたもののこれも異分子が竜人族の巫女を拐うという予定外の行動で失敗に終わってしまった。更に異分子は鬼族の巫女と竜人族の巫女を連れて戦場に現れ、これを収めてしまった。誰かは計画が失敗に終わったことを理解し、『殺した女中に化けて巫女に薬を盛り続け、戦争を裏で誘導していた部下』に帰国命令を出した。証拠は全て処分したため、『誰か』に辿り着くことは鬼族にも竜人族にも出来るはずはなく、全てが終わったはずでした。そこで、質問なんですが、その『誰か』は見事に自分のところに辿り着いた『異分子』を目の前にして、どんな心境になると思いますか?」
サターナは可笑しくてしょうがないというように口元を緩め、
「そうですね。きっとその『誰か』は、こう思っているんじゃないでしょうか。てめぇ、よくも俺の前に顔を出せたな。どうやったかはしらなねぇけど、次俺の邪魔をしやがったらどんな手を使ってもぶっ殺してやるから覚悟しとけよくそ野郎!!」
「そうですねきっと、その『誰か』はきっとそう思うでしょうね。私もその誰かに言ってやりたいことがあるんですけど聞いていただけますか?」
「喜んで。」
「俺はお前が何を企んでるかとか興味はないけど、俺の知り合いに汚いやり方で手を出すなら容赦しない。計画だけでなくお前もぶっ潰す。次何かやるなら相応の覚悟で向かってこい。」
「ゼロ様はお友だち思いなんですね。『誰か』にその思いが伝われば良いですね。」
「ありがとうございます。サターナ様とお話し出来て、胸のつっかえが取れました。」
「それは良かったです。私もゼロ様とお話し出来て良かったです。」
「では、今日はこれで、失礼します。あ、そうそう、うちのルークが何故かこの城から鬼族の里にいた女中と同じ臭いがすると言っているんですが、何か心当たりはありますか?」
「いいえ、全くございません。」
「そうですか、では、いずれまた。」
「はい、また。」
こうして私は城を去ったのであった。




