魔族討伐遠征 1
この港町レンはこの世界において中規模の町といえる。
人口は5万人程度。日本の街と比較すると小さい町と言えるかも知れないが、王都の人口が30万人のこの世界としては比較的発展した町だといえるだろう。主な特産品はペペ、日本で言えばシラスみたいな魚だ。お酒の友に最適らしいが、酒の味がわからない私にはお酒の友はいらない。もう一つの名産であるカータという鳥の形をしたクッキーの様なお菓子のほうが私には魅力的だ。港町だけあって色々な珍しいものも集まり、毎朝運ばれてきたものをマーケットで売り出している。食料・衣服・土産品・日常雑貨・魔法道具、全てが揃っているが価格審査が終わる前の品物が並ぶため、値札が付いていない。その為、買い物客の目利きがものを言う。大抵の旅行者は適正価格の10倍程度で粗悪品を掴まされるが、それでもマーケットが賑わっているのは掘り出し物があるからだ。ちなみに私が今日着ているこの服も昨日マーケットで買ったものだが、掘り出し物ではない。ギャンブル的な買い物が好きでない人はメインストリートに行く。ここで売っているものはきちんと価格審査が終わったものが並び適正価格で売買され為、店によって価格が違うことはほとんどない。レン市民はほとんどこちらを利用する。私はギャンブル自体も嫌いではないが何より雰囲気が好きなので、この町に来た時はマーケットを利用する事にしている。今日もマーケットに来る事にした。
特に欲しいものはないが(購入するお金もないが)、これからの道を決める上で何かヒントになることはないかと周りを見渡す。マーケットは今日も活気に満ち溢れている。客を呼ぶために大声で商品を説明する店員、珍しいものを見てテンションがあがるバカップル、値段交渉でエキサイトしてる旅行客、欲しいものを買ってもらえなくて泣き叫ぶ子ども、それを叱る親、全てが生き生きとし、何か自分だけが世界から切り離されている感覚に陥る。落ち込む前に行動を起こしたほうがいいだろう。気が滅入りそうな時は無理やりにでも誰かと会話した方がいい。比較的空いている店を探すと、魔法道具屋に殆どお客がいないことに気付いた。店を見て更に驚くことがあった。 商品の棚が半分も埋まっていないのだ。
「今日は随分商品が少ない様ですけど、何かあったんですか。」
「参ったよ。魔族がフラミから続く公道の近くに住み着いたらしく、商人からの荷物がもう2週間も届かないんだよ。」
フラミと言うのはこの王国の第三都市と呼ばれる街で魔法道具の大規模な製造が行われている。話によると王国の90%の魔法道具が製造されているらしい。
「魔族が現れてから結構早い段階で討伐隊が編成されて討伐に向かったんだけど返り討ちにあったらしくて、体面もあるから表向きは偵察隊ってことにされたけど、討伐隊に参加する傭兵募集何てものを聞けばみんな返り討ちにあったんだって丸分かりさ。」
「傭兵募集ですか?フラミからの討伐隊は期待できないのですか。確か魔法道具の工場を守るために強力な軍隊がいたと思うのですが。」
「ああ強力な軍隊がいる。ただ今回は魔族のねぐらがうちの町の近くな上に、うちの領主様が異常な程にフラミの領主様に対抗心を燃やしててね、フラミの領主様には絶対に頭を下げたくないのさ。向こうは向こうで下げてくるまで動くことはしないだろうしね。全く、むこうは大都市なんだから領主様も変なプライド捨ててとっとと頭を下げてくれれば良いんだけどね。結局とばっちりを食うのはいつもうちら力の弱い一般市民さ。」
「それにしたって傭兵募集ですか。あんまり効果はないように思いますが。冒険者が挑む遺跡もこの辺にはありませんし、名が売れた傭兵も殆どが王都近郊で活動していますし。」
「だから領主様は力さえ示せば、身分証明なしに報奨を出すって言い出したんだ。」
「ならず者や犯罪者の力を借りるってことですか。」
「正に猫の手でも借りたいってやつさ。まぁ、借りるのは虎の手なんだろうけど。その爪がこちらに向かないと良いけどね。何れにせよこのままじゃ商売上がったりだよ。お客さん、何か買ってってくれると助かるんだけどね。」
商売上手な店主に負けて2倍の値段で火種の玉を買わされてしまった。これは硝子玉の様なものに火の魔法が閉じ込められていてライターの様な使い方が出来る旅の必需品だ。出費は痛かったが有益な情報が手に入った。身分証明なしの報酬、正に今の私にピッタリな仕事ではないか。ハーレムを作るにもどうせ金がいるんだ、ここで多少リスクを背負ってでも現金を手に入れておくのは悪い考えではない。私はとりあえず傭兵募集の試験場である領主の館に行くことにした。
領主の館に着くと、まぁ、柄の悪い連中がきちんと列を作って並んでいた。思わずそのギャップに吹き出しそうになったが、怖い顔のお兄さんに絡まれたくないので、列の横にある募集要項と報酬を確認することにした。
魔族討伐 傭兵募集
人数ー制限なし
参加期間ー1週間
報酬ー参加報酬金貨10枚 その他功績に応じて最高金貨100枚及び魔族が保有しているであろうアイテム1つ
参加条件ー魔族と戦えるだけの力を示す 身分証明不要
装備品ー各自用意すること
食事ー支給
尚、戦闘で死亡した場合及び負傷については各自の責任として、治療費など一切の請求を放棄していただきます。参加費については遠征前に金貨5枚、遠征後に金貨5枚を支給します。死亡した場合は遠征後の金貨5枚、功績金、アイテムは支払われません。
まぁ、妥当な契約だろう。ちなみに金貨1枚は日本円で1万円程度と考えてくれればいいだろう。さて、問題は力を示せとあるが具体的には何をすれば良いのかというところだが、先程から聞こえる木と木がぶつかる音と情けない悲鳴を聞く限り兵士との模擬戦と言ったところだろう。さて、それでは列の最後尾に並んで順番を待つとしよう。兵士の中にはひょっとして私を覚えている者もいるかもしれないので、さっきお土産屋で買ったこのお面も着けて準備完了。
1時間後、やっと試験会場の中が見える位置に来た。
「隊長、このままじゃ合格者ゼロになっちゃいますよ。もう少し手加減してください。」
と、会場から泣きそうな声が聞こえてきた。
「馬鹿者、足手まといを連れていくくらいなら私1人で討伐した方がマシだ。」
台詞の内容とは裏腹に艶やかな声が聞こえてきた。そこにいたのは20代の美人ブロンド剣士だった。
私が今思ったことは言うまでもないだろうが、どうしても心の中で叫びたいので言わせてもらう。
「ハーレムフラグ来たあああああああああああああっ」