鬼と竜と策謀。時々ライオン 6
一時間後、弥彦が食事を運んでくる。
「お待たせ致しましたゼロ殿。まずはあの時の約束を果たし、娘、弥生を助けてくださったこと、心より御礼申し上げます。」
あの時の約束。そう、弥生の部屋でのことだ。私はまず、なぜ弥生は教われたにも関わらず『眠ったまま生きている』かを考えた。弥生の命を奪うだけなら侵入した夜に殺せばよかった、生かしておく意味などないのだ。その意味を理解しなければ不測の事態を招いてしまう可能性が高くなる。まぁ、竜人族との戦争をけしかけ、双方の戦力削減、もしくは壊滅を狙ってのことだとはすぐに思ったのだが、如何せん『刺客』と『黒幕』が見えない。そこで私は弥彦に考えを伝え、相手を誘き出すために『如何にも何か知ってます』という匂いを漂わせ、牢屋にぶちこまれたフリをした。代わる代わる食事を屋敷の人間に運ばせたのはその動向を見るためだ。お陰で色々とわかったのだが、思いの外竜人族が早く動いてしまった為、弥生の安全を確保するために拐った後に、サラサまで助けに行くという慈善事業をやる羽目になってしまったわけだが、全てはこの美味しそうな食事の為だったと思えば、今までの苦労も報われるというものだ。
「弥彦さん。美味しそうな食事をありがとう。いただきます。」
心の底から素直に感謝が言えた。ルーク先生にもきちんと取り分ける。
先ほどまで戦場になりかけていた鬼族の里と竜人族の里の境界線上で豪華な食事を食べる。周りの殺意のこもった視線がなければ言うことのない贅沢なのだが・・・。
「お食事の準備が整いました。どうぞ後堪能あれ。」
レスターがこちらも美味しそうな料理を運んできた。鬼族の魚中心の料理に比べ、竜人族は肉が中心だ。個人的には肉の方が好きなのだが、鬼族の作った魚料理は特別で、いくらでも入りそうな程美味しい。
「では、竜人族の料理もいただくことにしよう。いただきます。」
こちらも今まで食べた肉料理の中で1、2を争う美味しさだ。匹敵するのは嫁が作った・・・もと嫁が作った鳥の甘辛肉ぐらいのものだ。ああ、もうあれ、食べれないんだろうなぁ。
いかんいかん、センチになりかけた。気を取り直して、片っ端から口に詰め込む。
周りの殺意のこもった瞳が『おいおいいつまで食うんだよこいつ』の驚異の眼差しに変わって暫くたった頃、私のお腹はやっと満足してくれたようだ。
「ごちそうさまでした。」
私が食べ終わると、待っていましたと言わんばかりにレスターが尋ねてきた。
「お食事の方はお口に合いましたでしょうか。もし、宜しければどのように巫女様をお助けして頂いたかお教えいただけると幸いなのですが。」
なんか、さっきと偉く態度が違うのが気持ち悪いが、礼儀知らずと言われたのが意外に心に深く刺さったのかもしれない。ただ、さっきは私も腹が減ってイライラしていたのでちょっと言い過ぎたと反省してみる。ので、そこそこ丁寧に対応してみる。
「レスターさん、先ほどは失礼した。こちらも礼儀が足らなかったようだ。あなたの問いに真摯に答えようと思う。」
レスターはこちらの言葉を聞き姿勢を正す。
「弥彦さんにはある程度は話したが、竜人族の巫女さんの目を覚ました理由や弥生とルナの関係性など、知らないこともあるだろうし、如何せん鬼族の機密事項に触れる内容もあるかもしれないので、聞いていて危ないと思ったところは遠慮なく止めてくれ。」
弥彦が頷く。
「さぁ、答え合わせを始めようか。まずレスターさん、竜族の巫女はなぜ目を覚まさないと思っていた?」
「それは鬼族の巫女・・・殿が呪いをかけたと思い込んでいた。今は違うとわかるが、なぜかそれが某の中で真実となってしまっていた。」
「そう、一連の事件の核となる部分、それは『思い込み』だ。ただし、それは自然に思い込んでしまった訳ではなくそう思い込むように誘導されてしまった・・・つまり情報操作だ。」
どや顔で言ってみる。
「鬼族の里でも竜人族の里でも同じことがほぼ同時に起きたにも関わらず、お互いが被害者同士だとは思わず、相手は加害者だと思い込んでいた、それはなぜか。誰かがその状況を意図的に作り出したからに他ならない。まず、鬼族は100年前に停戦協定が結ばれてから、他国との交流が殆どなく、他国の情報すら手に入れようとすらしなかった。そうだな、弥彦さん?」
「おっしゃる通りでございます。」
「俺が思うにレスターさん、竜人族も似たような姿勢だった、違うか?」
「その通りです。」
「つまり、お互いが自分たちの『強さ』を信じ胡座をかき、他国の情報に無頓着だった。そこを敵は利用したのさ。」
私はここで『敵』と断定する。
「情報不足のため、どうしても、事件が起きてから他国の情報を集めなくてはいけない。そこで『嘘の情報』が各方面から集められたらどうなるか。答えは簡単、『嘘の答え』が導き出されるだ。例えば、国からの使者。弥彦は正式に使わせた部下が数名殺されて遺体を送り返されたと言っていたが、レスターさん、それは本当に竜人族がやったことか?」
「いいえ、使者の話は初めて聞きました。では、こちらからの使者も・・・。」
「もちろん鬼族の里にたどり着く前に殺されたんだろうな。」
少しの沈黙が訪れる。
「ここまで言えばわかるだろう。つまり、鬼族も竜人族もまんまと敵の手の上で踊っていたというわけだ。」
「では、ゼロ殿の言う『敵』とはどの国を指すんでしょうか?」
弥彦が当然の疑問を尋ねる。
「まぁ待ってくれ。『国』と決めつけるのは危険だ。それこそ今回の一件のように『思い込み』は真実を隠してしまうからな。国ではなく組織かもしれないし、個人かも知れない、もしくは逆に鬼族と竜人族を除く全ての希望の民の連合国家かもしれないし。結論を急ぐ前に情報を集めるべきだ。」
「貴殿の見識には恐れ入る。では、そこは今後の課題として、貴殿はどのように巫女様を眠りから目覚めさせたのでしょうか?」
レスターが待ちきれないという雰囲気で聞いてくる。
「それなんだが、目覚めさせたのは俺ではない。いや、助けたというのは間違いないんだが、俺がしたことは屋敷から連れ出したこと。何故なら『敵』が近くにいたからな。これは弥生の眠っていた本体にも言えることで、連れ出さなければ多分殺されていただろうからな。元々2人が生かされていたのはお互いが術を使うために宮殿に籠ってると『勘違い』させ、この戦争を起こすことにあったわけだから、戦争が始まれば要済みというわけさ。」
ルナとサラサがお互いの顔を見る。まさか、そんなに危険な状況に陥っていたとは思っていなかっただろう。これには弥彦もレスターも顔が真っ青になっている。
「ではゼロ殿は身内のなかに敵がいると。」
「ああ、いる。少なくとも鬼族の里にはいた。竜人族の里にもほぼ間違いなくいるだろう。何せ、巫女さんたちは『術』ではなく『薬』で眠らされていたんだからな。思い込みとは本当に便利だよな。術で眠っているはずの相手を眠るために薬を投与し続け、殺さないためにきちんと状態管理をするだなんて誰も思わないからな。で、薬を投与しなくなれば必然的に目覚めるというわけさ。ここまで言えば、後はそっちで何とか出来ると思うので、お願いします。お腹が一杯になったら眠くなった。ここに豪華なテントを作ってくれ。ルナ、いや、弥生か。今日は弥彦と一緒にいろ。弥彦さん、きちんと自分の娘を守るんだぞ。」
「無論です。」
「そうそう、なぜか急に眠気が襲ってきたのでルナと弥生の関係性は今度ゆっくり話させてくれ。その方が鬼族の為にもいいと思うので。」
「了解しました。」
「レスターさん、サラサを任せて大丈夫だな。」
「はい、お任せあれ。」
「と、言うことで、夜まで時間が少しあるけど、朝まで寝るつもりだから誰も近づくなよ。働きづめで流石に疲れて、眠気が半端ないから。明日の朝に『敵』を炙り出すための作戦を決めよう。じゃ、テントよろしく。」
鬼族と竜人族が協力して作ったテントで、私はルークと眠りに就くのだった。




