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鬼と竜と策謀。時々ライオン 5

何が起きたかわからず、一瞬の静寂が起こる。次の瞬間、


「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」


耳をつんざくような歓声がこだまする。


「姫様。」「弥生様。」「巫女様。」「サラサ様。」「お嬢様。」思い思いの呼び名で自分たちの大切な人を呼ぶ鬼族と竜人族。歓喜の涙を流す者もいる。巫女という存在が彼らにとってどれ程重要かがよくわかる。


「さて、弥彦。約束通り間に合わせたんだけど、ご褒美に美味しい食事は用意出来ているんだろうな? すぐ持ってこい。」


私は弥彦に命令する。この一週間、そのために結構頑張ってお仕事したんだから、当然の要求である。


「い、いや、流石にすぐには・・・。」


「出来ない? こっちはわざと牢屋に入って、抜け出して、竜人族の宮殿まで行って巫女助けて、急いでここまで戻って来たんですけど・・・。結構大変な道のりでした。それに比べれば飯をすぐに持って来ることぐらい簡単だと思うけどなぁ。きちんとこの策謀を看破しようと思ってたけど、やる気なくなっちゃうな~。」


弥彦は青鬼の様な真っ青な顔になり、


「只今、お食事をお持ちします。少々お待ちくだされ。」


と、言って軍の奥の方に駆け込んでいった。きっと、軍の後方に補給部隊がいるのであろう。


「で、レスターって、言ったっけ、竜人族の偉そうな男。そっちは巫女さんを助けられてお礼の一つも出来ない礼儀知らずなのかなぁ?」


結局ここ一週間も野宿だった私のイライラは大きいので、不遜な態度にでる。


「貴様・・・いや、貴殿はどうやって巫女様をお目覚めさせたのだ?」


「ブブー、不正解。質問に質問で返すやつがいるか?」


「く・・・。失礼した。巫女様を助けてくださって大変感謝しております。この恩にどう報いたら宜しいでしょうか?」


「飯。」


「は?」


「聞こえなかったか? 鬼族より上手い飯を持ってこい、今すぐにだ。鬼族より上手いものを提供すれば『どうやって巫女さん助けた』か教えてやるよ。と、言うことで、飯持ってこい。」


レスターは礼儀知らずに態度に憤りを覚えるが、巫女を助けた恩があるのも事実であるので、渋々ながら補給部隊に向かっていった。


「ゼロ様。わたくし達を置いて先に行くなんて酷すぎると思うのですけど・・・。」


きちんと年相応に見えるルナが文句を言ってきた。


「あのなぁ、先に走ったお陰で戦を止められたんだぞ。文句があるなら付いてこれなかったルークに言え。」


2人を背負って私と同じスピードで走れと言うなんて、無茶苦茶だが、とりあえず責任転嫁しておく。ルーク先生がものすごい目で睨んできているが、この後の食事で手を打って頂こう。


「嘘つき。一緒に行こうっていってたのに、ゼロ最低。」


サラサが呟く。美女2人に『先にいった』ことを咎められるのはなぜだか少し恥ずかしい。サラサは青い髪をを肩ぐらいまで伸ばした角が2本生えた竜人だ。切れ長の目は妖艶さを纏うが、馴れ馴れしい性格のせいで、少しもったいない感じになっている。


「サラサ様、何回も申し上げましたが、ゼロ様を呼び捨てにするにはいかがなものかと思いますよ。」


鬼姫が鬼のオーラを全快にしてサラサに詰め寄る。


「え~、いいじゃん、ゼロも『別に構わない』って言ってたし。ねぇ、ゼロ?」


呼び名は何でも構わないが、そのやり取りに私を巻き込まないでほしい。


「ゼロ様はサラサ様の命の恩人であるばかりではなく、鬼族と竜人族の回避させてくださった功労者、いえ、英雄と言っても過言ではないお方。そのゼロ様を呼び捨てにするとは竜人族の巫女として恥ずべきことだと思いますが・・・。」


「いいの、あたし巫女やめてゼロのお嫁さんになることに決めたから。」


え? 初耳ですけど。どうして希望の民の巫女様は人の意見を聞かないで勝手に話を進めようとするんだろう。ほら、竜人族の皆さんがさっきよりも殺気立ってる気がするんですけど、何とかしてください。あ、レスターの部下の一人が顔を真っ赤にして詰めよってきたじゃないですか。


「巫女様、勝手にそのような大切なことを決めてもらっては困ります。巫女様の結婚相手は代々巫女様がお生まれになって20回目の誕生日に開く闘技大会の優勝者となると定められております。巫女という立場は次の後継者がお生まれになるまでは勝手にお止めになることも出来ないしきたりでございます。」


仕来たりとかは好きではないが、これ以上話をややこしくしてくれないので何も言わないでおこうと決めた。のに、なんでそんなに私を睨み付けるんですかね? 竜人族の皆さんも、私、何もしてませんから!!


「ゼロ、どう思ってるの? 何か言いなさいよ。」


サラサが更に話を複雑にしようとしている。


「サラサ様、前にもお話した通り、わたくしとゼロ様は魂で繋がっております。ですからゼロ様が口にしなくてもわたくしにはゼロ様のお気持ちが手にとるようにわかります。ゼロ様はサラサ様との結婚を断固拒否するそうですよ。」


うん、まぁ、そうなんですけど、ルナさんたら体が元に戻ったら攻撃性増してませんか。私おしとやかな方が好みなんですけども。


「ルナ、ゼロはそんなことを思ってないわ。だって、あたしを助けてくれただけでなく、外の世界に連れ出してくれたんだから・・・。これはもう一生一緒にいようってプロポーズと一緒でしょ?」


かごの中の鳥は、かごから出した人のことを特別視する傾向にあるようです。皆さんも気を付けてください。


「サラサ様はご存じないと思いますが、わたくしとゼロ様はすでに婚約しているだけでなく、接吻まで交わした仲なんですの。」


爆弾発言が飛び出した。まぁ、事実と言えば事実なんだがキスは色々と事情があってしたことだし、婚約はしていません。ほら、鬼族の皆さんも角が一人一本ずつ増えたような顔になってるじゃないですか。サラサさんもプルプル震えてるし、もう、この辺な会話やめて一緒にご飯来るの待ちましょうってば。


「本当なの、ゼロ?」


サラサが私を問い詰める。


「あのなぁ、接吻って言ったって、恋人がするよなあれじゃないぞ。人命救助的なあれだぞ。」


実際、手段を選んでいる余裕がなかったので仕方なかったと、今でも思っている。


「でも、したのね?」


「まぁ、そうだな。でもな・・・。」


きちんと釈明しようとした私の唇をサラサの唇が塞ぐ。


もう、勝手にしてくれ。誰も私の気持ちなんて考えてくれない。ルナはルナで暴走して、サラサはサラサで大暴走。お陰様でさっきまで戦争回避で穏やかになりそうだった鬼族と竜人族が、今度は同盟を組んで別の国に攻め混む勢いなんですけど。


少しして唇を離したサラサは勝ち誇って、


「ほら、これでルナのアドバンテージはなくなったわ。ここから正々堂々とゼロの奥さんの座をかけて勝負よ。


「望むところでございますサラサ様。では、お互い恨みっこなしという事で。」


2人の目から飛び出ている火花がぶつかる。


嬉しいはずのハーレムフラグ。ハーレムって、こんなに男の気持ちを無視する残酷な夢だったっけと思いながら、美味しい食事ができるのを待つ・・・四方八方を殺気に囲まれながら。


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