鬼と竜と策謀。時々ライオン 4
今回は主人公目線ではありません。
一週間後。
鬼族の里と竜人族の里の境界線にある平原には数千にのぼる屈強な戦士たちが集結していた。各軍の距離は凡そ200メートル、今にも激突しそうな距離だ。
「竜人族の卑怯者共を打ち倒して、弥生様を取り戻すぞ‼」
「鬼族の力を見せつけようぞ‼」
鬼族が気勢をあげる。また、一方では、
「鬼族め、目にもの見せてくれるわ!!」
「奴等がしたこと必ず後悔させてくれようぞ!!」
希望の民で1、2を争う戦闘力をもつ部族なだけあって、共に己の勝利を疑わない。ここ100年戦争はないが、技と力を研いてきた自負もある。戦争は未経験だが、『力』では負けるはずがない・・・と。
それぞれ首領と思われる武人と3名の従者が軍を離れ戦境界線に歩み寄る。
「お前がかの名高いレスターであろう、竜人族の強者よ。」
「そういう貴殿は鬼族の弥彦であろう。鬼族最強と言われる貴殿とはこのような戦場ではなく正々堂々と戦いたかったが、貴殿らに正々堂々を求めることは間違っていたようだな。残念だ。」
「鬼族最強はワシではないが、正々堂々と戦うというのは賛成だ。この面倒事が終わったら一度手合わせででもしよう。」
「この戦が面倒事と申すか? 貴殿らの行い、まさか忘れたわけでは有るまいな⁉」
「忘れたんじゃなくて知らないのさ。まぁ、ここで、言い争っても仕方ない。とりあえず戦の白黒の付け方を決めよう。」
「依存はない。」
「レスター、俺たち鬼族もお前ら竜人族も人口が多い方じゃない。ここでお互いがぶつかって戦士を減らすことは勝つにしろ負けるにしろいい結果とは言えないだろう。そこでどうだ、5名の代表による勝ち抜き戦というのは?」
「弥彦殿、残念ながらそれではここにいる竜人族の戦士たちの怒りが収まりませぬ。残念ながら、どちらかが全滅するまで戦うしか道はありませぬ。」
「そうか、わかった。では、せめて戦を始めるのを数時間、遅らせることは出来まいか?」
「ここまで来て臆したか!? 我らはもう止まらん。話はこれまでだ。」
そう言って、レスターと部下3名は自軍に帰って言った。
いよいよ戦が始まるのだ。互いの軍のテンションが最高潮になる。弥彦も自軍に戻り、後は開戦の為の矢が先ほど弥彦とレスターが会合していた場所に刺されば100年ぶりの戦が始まる。
矢が双方から放たれる。
綺麗な放物線を描き、地面につきささ・・・らない。
いつの間にかその場に立っていた男の一振りによって矢は粉々に砕かれた。
唖然とする両軍。最初に口を開いたのは竜人族のレスターだ。
「貴様、神聖な開戦の儀を邪魔するとは一体何のつもりだ!! それに貴様が持っているそれは竜人族の秘宝『黒龍の牙』では有るまいな?」
「神聖ねぇ、見事に踊らされて開戦しちゃおうとしたおバカさんに何言ったってわからないんだろうけど、この戦に意味も大義もないからやめちゃいな。」
「何を抜かす。大義ならある。巫女様の呪いを解かすという大義が!!」
レスターは苦悶の表情を浮かべて主張する。
「で、どうやって解かすの? 鬼族を皆殺しにすれば解けるの、その呪いとやらは? ちなみに、鬼族の巫女さんは数ヶ月前から眠りにつかされ目を覚まさないって知ってた?」
竜人族からざわめきが起きる。
「あれ、これって最近別のとこでも聞いた話だなぁ。あ、そう言えば、竜人族の巫女さんも数ヶ月間目を覚まさないって話だったよな?」
今度は鬼族からざわめきが起きる。
「お互いが自分たちのバカさ加減に気が付いたところでこの戦争、止めにした方がいいと思うんだけど?」
「突然やって来た男の言葉何ぞに耳を傾ける必要はない。其奴が我らを憚っているだけかも知れぬではないか!!」
黄鬼が大きな声で叫ぶ。それに呼応するように竜人族の戦士も声をあげる。
「そいつの言葉が正しいかは鬼族を全滅させ、宮殿に辿り着けさえすればわかることである。」
「ああ、それって意味ないよ。宮殿にいるはずの鬼族の巫女様は俺が拐っちゃったから。そこの鬼さんたちは俺が竜人族の手先だと思ってるみたいだけど、誘拐したのは俺個人の目的の為です。と、言うことで、鬼族の皆さんも大馬鹿決定ね。」
男は悪びれる様子もなくいい放つ。鬼族の戦士の怒りが竜人族から、男に移る。竜人族は再びざわめき始める。
「あ、でも、鬼族の皆さんが竜人族の皆さんを倒して宮殿に行っても無駄だよ。竜人族の巫女さんも俺が拐っちゃったから。」
この発言には鬼族だけでなく竜人族のも凍りつく。
「今、なんと言った!?」
レスターは今にも飛び掛かりそうなほどの前傾姿勢で尋ねる。
「聞こえなかったのか? 竜人族の巫女も鬼族の巫女も俺が拐ったから戦争をしても無駄。直ちに武器を捨てて投稿しなさーい。じゃねぇや、武器を捨ててお家に帰んなさい。」
「その言葉が本当なら、貴様を捕らえて巫女様の居所を吐かせるだけだ!!」
レスターと部下3名が男目掛けて突進する。竜人族から歓声があがる。男の言葉に嘘がないなら、鬼族と戦争をする意味はない。それどころか同じ被害者の立場として同情すらする。憎むべきは目の前にいる男。
「やれやれ、本当に単細胞だな。」
散々挑発したことなど忘れたように男が呟く。
「でも、俺に居場所を聞く前に、自分で回りをきちんと見たらどうだ?」
男がそう言うや否や、白いライオンが戦場に舞い降りる。背中には2人の美女を乗せている。一人は鬼姫『弥生』、もう一人は竜人族の巫女『サラサ』だ。2人はライオンから降りるとお互いの部族に向かって叫ぶ。
「「双方、武器を引きなさい。戦をすることは許しません。」」




