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After 科学者からの依頼

ダンジョンから鬼族の里に向かってすぐに、ルナが話しかけてきた。


「ゼロ様、首輪を取ってくださって有難う御座います。」


「気にするな。こっちは命を救って貰ったんだ。それぐらいでは俺が受けた恩は返せないさ。」


ルナは申し訳なさそうに微笑む。


「それにしても驚きました。人間の皆様の中にも鬼語を理解できるものがおられるんですね。」


えっ、鬼語を理解?


「それって、ハルたちのことだよな?」


「はい、勿論です。ゼロ様が鬼語を話し、ハル様が人間語で返す。お二人の白熱したやり取り、もうわたくしはハラハラドキドキしてしまいました。」


「ちょっと待て。ルナには俺が鬼語を話してたように聞こえたんだな?」


「え?は、はい。ゼロ様は鬼語を話してらっしゃいました。」


どうして気付かなかったんだろう。ダンジョン内でルナと話したとき私は鬼語を話しているという自覚はなかった。つまり、私は鬼語を話してはいなかったということだ。この世界に来たときの違和感。異世界なのに日本語を話しているという事実。月日が流れるにつれその事自体当たり前と受け取っていたが、今回のことでハッキリしたことがある。


翻訳こんにゃ・・・ではなく、自動翻訳機能。世界の補正力とでも言えばいいのだろうか。私が話した言葉は多分日本語のままで、聞く人に届く前に翻訳されて伝わるということだ。ハルには人間語に、ルナには鬼語にと聞く人にとっての最適化されるらしい。ただ、ルナと初めて会った時には彼女には私が人間語を話しているように聞こえたことから、最適化されるには条件があるのかもしれない。実際、私にはルナがダンジョン攻略前に喋った鬼語は全く理解できなかった。そんなことを考え込んでいるとルナが心配そうに、


「ゼロ様、どうかなされましたか?」


「少し気になることがあってな。ルナ、希望の民の人々は違う種族間でどうやって話をしているんだ?」


「はい、鬼語と他の部族の方の言葉は若干違いますが、お互い理解はできますのでそれぞれの部族の言葉をそのまま使っております。」


「そうか。」


鬼語を理解出来るため自動的に他の言語も理解できるのか、それとも条件を満たしていないため私にはわからないのか。こればっかりは実際に行ってみないとわからないな。ただ、言葉が理解できないというのは本当に不便だと改めて思った。人間、希望の民が相容れないのもそこに原因があるかもしれない。現に私は「亜人」と彼らを呼び、文明を持たない野蛮な部族たちと勝手に決めつけて関わろうとはしなかった。


ひょっとしたら魔族も・・・。そんな考えが私にはよぎる。そうすると私が行った魔王討伐はただの殺人だった可能性もある。異形、言葉の違い、加護、色々な違いで理解できないことから『恐怖』を生み出し、それが『憎悪』に長い年月をかけて変わっていったとしたら・・・。異世界に来て魔王討伐、魔族は敵、彼らを倒せば英雄になれるという勝手な思い込みが、人間に裏切られ逃亡生活を強いられる結果に繋がったのかもしれない。ルナが私の愚かさに気付かせてくれた。希望の民は決して蛮族ではないと今なら断言できる。


「ルナ、ありがとう。」


ルナが頬を紅くする。


「どうしたんでございますか、急に。」


「いや、ルナには本当に色々なことを教わってばかりで、自分のちっぽけさに気付かされるばかりだ。ルナはまだ小さいのに本当に凄いな。」


ルナの顔色が変わる。額には青筋がたった。


「小さい・・・!?ゼロ様に私がどう見えてるか、やっと分かりましたわ。出会ったときの『僕』という言葉使いが『俺』に変わってくださってやっと『女』として見てくれていると思っていたのですが、どうやら違ったようですね。」


なんか、ルナさんがすごい怖いんですけど。ルークも寝転がって服従のポーズとか取り出してるんですけど。えっ、だって、まだ小さい女の子ですよね。おじさん、37歳ですよ。心の中で呟く。


「わたくし、もう成人しております。」


「そ、そうか鬼族は成人の年齢が早いんだな。」


ルナの周りに、見えないはずの禍々しいオーラが立ち上ぼり始める。


「わたくし、今、20歳です。」


よし、整理しよう。ルナは20歳。成人。


合法ロリ来たああああああああああああああああああああああああ。


このタイミングで!!


「えっと、じゃあ、結婚とかの話も本気だったりしました。」


「はい、わたくしは初めて会ったときのゼロ様の巨大な生命エネルギーに圧倒され、ダンジョンに同行させていただく中でその優しさに心を撃ち抜かれたのでございます。」


まさかの本気の告白が来た。子どもだと思って全く『異性』として見ていなく『保護者』的な視点で見ていたのだが・・・。まぁ、20歳の女の子もおっさん的には子どもなのだが、本気の相手をそう見ることは失礼に当たるだろう。


「ルナ、すまない。正直もっとずっと年下だと思っていたんだ。君を守ると言ったのも、親的な視点で見ていたんだ。そのルナという名前もハルたちが面白がって提案したが実は俺の実の娘の名前で。」


ルナがまじまじと私の目を見る。


「だから結婚とかは考えていなかった。鬼族の頭領になるって話も現実的にあり得ないだろうと思っていたんだ。すまない。」


「ゼロ様はご結婚なされてたんですか?」


沈んだ声で、ルナが言う。


「ああ、すまない。もっと早くきちんと伝えるべきだった。」


「いえ、わたくしもその可能性を考えるべきでした。奥方様は何人位おられますんですか?」


「えっと、一応確認ですけど、鬼族って、一夫多妻制を認めてらっしゃったらりします?」


「勿論でございます。優れた男性がより多くの妻をめとるは種の存続に繋がりますから。」


ハーレムフラグ来たあああああああああああああああああああああああああああああああああああ。


「しかし、わたくしはあまりその制度に賛成はしておりません。やはり、わたくしはわたくしだけを見てほしいと思っております。なので、今までの奥方様に関しては認めるとして、わたくしで最後にしていただくということでお願い致します。」


あれ、ハーレムフラグ消えた?


と、言うか、結婚前提で話進んでません?


「えっと、ルナさん、度々確認で申し訳ないんですけど、私が言った『結婚は考えてなかった』って、言うのは聞いてくれてたんですよね?」


「はい。ですから、これから考えてくだされば大丈夫ですよ。わたくしたちは離れられない運命ですし、必ずわたくしを好きになっていただきますから。」


超肉食系女子なんですね。流石、鬼族。


「で、奥方様は何人いらっしゃるんですか?」


ルナの目に鈍い光が宿る。


「はい、一人だけいたんですが、今はいません。」


ルナが突然申し訳なさそうに、


「申し訳ございません、悲しいことを思い出させてしまって・・・。」


悲しい?いや、確かに悲しいけど・・・あれ?ああ、そうか。


「違う違う。元妻も娘も元気に生きてるから。」


「そうでございましたか。ホッとしました。では、どうしてお別れになったんでございますか?」


「・・・私の浮気です。人間はー夫一妻が基本なので・・・。」


ルナの2本の角が3本に見える。


「わたくしも浮気は許しませんので、これからは気を付けてくださいね。」


満面の笑みが怖い。


「あの、ルナさん、結婚前提で話が進んでいますが、まだ私は同意してないことはわかってくださってますよね?」


恐る恐る尋ねる。


「大丈夫でございます。」


何が大丈夫か全くわからないが、これ以上会話を長引かせるとルークが失禁しそうなので、取り敢えず突っ込まないようにして、私たちは鬼族の里に向かって再び歩き出したのであった。

ここまで読んでくださった方有難う御座います。

次回から新しい章に突入します。引き続き楽しんで読んで頂けるように精進します。

これからもよろしくお願いします。

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